「…はじめ…?」


すっかり陽も落ちて等間隔に並ぶ外灯の微かな明かりだけがひっそりと窓から差し込む。小さな部屋の灯りは点けられておらず、その頼りない蛍光灯のみがその空間での唯一の光だった。部活動を終えた生徒達が口々に明日の宿題のことだとか週末の予定のことだとかをこぼす声が、鉄の扉の隙間から足音と共に聞こえてくる。

灯りも消え、鍵もかかったこの部屋に人が訪れる確率は極めて低いだろう。それでもこの状況は、うまく飲み込めない…というよりも、飲み込みたくない。なのに、それに反して、その危険と倫理的罪悪感に焦りを抱かざるを得なかった。

床に転がされた身体の上に覆いかぶさっている、自分よりも二回りほど大きな身体。平均と比べて差程大きくない、むしろコンパクトなほうであろうその身体でも、わたしに身動きを取らせないようにするには十分だった。両耳の脇につかれた手に、心臓が早鐘を打つ。


「は…じめ?…どしたの…?」


何も言わずにその姿勢を貫く彼に、疑問と不安と、何となく予想されるこの先の行為に焦りが生まれる。暗闇の中さらに逆光の角度にある彼の表情がわからなくて、余計、心臓は乱れた。


「あ、の、どいてくれなきゃ起きられないんだけど…?」


控えめに訴えると、床に触れていたその指が頬に触れ、そのまますっと唇をなぞられた。視覚情報の少ない中何も言わずに触れられ、思わずぴくりと敏感に反応してしまう。顔に熱が集中するのを感じた刹那、彼の吐息が肌に触れ、ぎゅっと目を閉じた。すぐに唇に柔らかな感触が広がり、くすぐるようにはまれ、吸われる。小さな水音を立てて、それは離れた。


「は、じめ…」


これから行われるであろう行為に不安を隠せない。初めてではないと言えど、ここは仮にも学舎に属する施設だ。事がばれては、大惨事の一言では済まない。

ゆらりと彼の前髪が揺れた。


「…スイッチ、入りました」


激しく噛み付かれた。
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