空が黄金色に染まる。ひらり、ひらりと途切れることなく、葉は落ち続ける。梢の秋ももう終末が見え、本格的な冬が近付いていることは言葉にせずとも肌で感じていた。



校内を横切るように続く並木道。銀杏に限らず、紅葉に染まる木々が植えられている。いや、植えられているというより、生えている、と言う方が正しいのかも知れない。道の方を後から作り足したようだった。


レンガ色のアスファルトの上で踵を鳴らし、軽くステップを踏む。





「ねぇ、はじめ、知っていた?」

「?何をです」





ステップを踏みながら歩くわたしの後ろを、もう慣れた、という装いで歩を進める愛しい人に不意に尋ねる。彼の歩みは、自分に合わせてくれている普段よりもさらに幾分か遅い。


突然の質問にも慣れた様子で、大して驚くこともせずに返答する。素っ気なく見える態度も、それが彼の愛の形だということをわたしは知っている。





「枯れ葉の落ちる音よ」



ステップを踏む足を止めることなく返すわたしに、彼は軽く溜め息をついて、



「それがどうしたと言うのです」





また始まった、多分彼はそう思っているのだろう、顔に表れている。





「枯れ葉の落ちる音を言葉で表すと?」

「?ひらひら、ですか?」

「じゃあ今聞こえる音は?」

「…」



小説に出て来る通りの言葉を返した彼に、少し、意地悪をする。





きっとこんなこと、彼にとっては何ともないことで、あまりに些細で、気にとめる必要もないことなのだろう。それでも茶化したり、適当に躱したりせず、真摯に応じてくれることが嬉しかった。





「ね、本の中ではひらひら、とか、はらはら、って書かれているのに、実際そんなことないのよ。わたしには、火花がはじけるような、パチパチって音に聞こえる」







パチパチ
パチパチ






絶えることなく葉の落ちる音は耳に届く。まるでそれは心音のように。





「ねぇ、はじめ、知っていた?」





コツコツ鳴らす踵と、パチパチ落ちる葉音と、ゆっくり響く彼の足音とが溶け、混ざりあい、小さな音楽会を開く。時折、木の実の落ちる音。新たな生命を生むための音。


彼が困ったように、でも温かく包み込むように笑った。





「いいえ、知りませんでした。たった今、あなたに教えられるまでは」

「じゃあもう今は知ったのね」

「ええ、あなたが教えてくれましたから」





胸の奥の方から嬉しさが込み上げる。頬が緩んだ。





「よかった」



真っ直ぐに彼の瞳を見据えた。



「はじめには知っていて欲しかったの」





わたしは彼の、鞄を持たない空いた方の手を握り締めた。少し、冷たい。わたしが手を取ると、彼は一瞬驚いたような仕草を見せたが、すぐにふわりと微笑んで、繋いだ手を握り返した。触れる掌から互いの温もりが伝わる。



黄金色の降る空の下、わたしたちは互いの手をしっかり、しっかりと握り締めた。
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