サァァァァ…





降りしきる雨。窓の外を、まるで幕をひくように途切れることなく降り続ける。ガラスに写る自分の姿が雨粒に濡れて、ぼやけて、霞んで見えた。



耳の奥の遠くから、教師の声がうっすら聞こえる。何を言っているのか、はっきりとはわからないけれど、多分、憲法に関する話だろう。今は政経の時間だった。



書きかけのノートにシャーペンを握ったままただ窓の外を眺める。意識を吸い取られていた。





「…**、**」

「…っえ?」





数度名前を呼ばれて気付く。プリントが配られていた。



心ここにあらずのわたしを見兼ねて、前の席であるはじめがわざわざ呼び戻してくれたのだった。あのままプリントを机上におかれただけでは気付くことなく授業を終え、わたしより後ろに座る人に迷惑をかけていただろう。


慌ててプリントを後ろへ回した。





「何を見ていたんです。また心ここにあらずですか」

「…雨を、少し」

「本当に**は雨が好きですね」





好き?



そうなのかも知れない。気付けばよく雨空を見ていた。言われるまで気付かなかった。





「…そうなのかも」





わたしがぽそりと返事をすると、彼は声を抑えてくすりと笑い、





「今まで気付いてなかったんですか?**、いつも雨空を見ていますよ」





そんな、他人が見てわかるほどに眺めているつもりなどなかった。なにより、彼がそんなところまで、自分のことを見ているなど、思っても居なかった。ゆっくりと驚きが身体に浸透する。





「雨空だけじゃない、**はいつも空ばかり見ている。僕が空に妬くくらいに」





そう言ってくるりと背を向けてしまった。赤く染まった耳から、それは怒りではなく、照れなのだと知る。





これが授業中で無ければ、きっと、名前を呼んで、振り向かせて、そっと、コマ送りのように静かで冷静で微熱を帯びたキスをするところなのだろう。しかし生憎、授業はまだまだ終わらない。





雲が晴れてきた。雲間から少しずつ光が差し込む。まだ雨は降っている。落ちる雨粒のひとつひとつが陽光を反射し、プリズムを作った。この様子なら授業が終わる頃には雨もやんでしまって居るかも知れない。そうしたら彼を誘って、水溜まりの帰り道を共に並んで歩こう。水鏡に写る空を眺めながら帰ろう。もしそこにプリズムが写ったら、少しだけ背伸びをして、キスをしよう。



葉露がポタリと流れ落ちた。
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