できる子志摩君な妄想。






がちゃん、と銃の弾倉を入れ換える。空を散らばる薬莢を気にする暇も無く、新手の悪魔に標準を定めた。がうん、と手首が震える感触。鼻を付く火薬。そうして、立ち込める血の臭い。 この森は、下級悪魔の巣窟だと聞いていた。確かに、一匹一匹ではとるに足らない。けれど束に為れば、そう容易くはいかなかった。特に、自分の得物では相性が悪すぎる。

「っ、」

打ち漏らした一匹が雪男の頬を掠めた。ちり、と皮膚が裂けたのを感じる。応援は未だ来ないのか。本来であれば、幾ら下級とは云、討伐の任務に独りで赴かされることは無い。先程打ち漏らした一匹に標準を合わせて、引き金を引いた。乾いた音が響く。出立前、メフィストは何と言っていた。

「直ぐ来ると言ったじゃあないか、」

何時もの戯けた笑みで、任務開始時刻には少し遅れるそうなので先に始めちゃって下さい☆、と言われた。今から数時間前の話だ。忘れる筈など無い。なのに、だ。なのに任務開始時刻から既に一時間。直ぐに、の度合いを越えている。

「あ、」

唇から酷く間抜けな声が漏れた。悪魔が右腕を掠めた。皮膚が裂けて生暖かいものが滴り落ちる感触。そうしてもっと間抜けな事に銃を落として終った。からん、と視界から外れていった自身の得物を見送りつつ、残った銃で応戦するが、どうにも追い付かない。元々が二丁あってもギリギリだったのだ。悪魔の鋭く輝く爪が眼前に迫る。ああ、もう駄目かと思った瞬間だった。自身の後方から飛んで来た護符が悪魔に張り付く。

「オン」

其を追う様に短く呪を唱える声がして、眼前の悪魔が消失した。突然の事に呆気にとられ一瞬思考が停止したけれど。直ぐに任務への遅刻を咎める事、それとも先刻の事への感謝、どちらを言えばいいのだと考える乍後ろを振り向く。視線の先にいたのは僧服を纏い、顔に真っ白の面布を垂らした男だった。奇抜な装いの多い祓魔師においても一見にして、異様な出で立ちの男は右腕にキリクを持った侭、此方に向かって軽く頭を下げる。面布が、はらり、と揺らめいた。

「堪忍え」

面布の男が、聞き覚えのある声でそう言った。よく、なんてものじゃあない。毎日毎日聞く声。けれどこんな所で聞くには未だ早すぎる人物のものだった。

「志摩、くん?」

思わず口から漏れた声に眼前の男がゆるゆると頭を上げた。キリクを持たない左腕をして、自身の顔に張り付いていた面布を剥ぎ取る。するとその下から出てきたのは、やはり、と言うべきか塾での教え子の一人である志摩廉造だった。







合鍵は右のポケットに