(あ。)

彼を一目見た時に解った。彼こそが、あの七色の狂犬が愛している人なのだと。黒い髪に、シャツの襟からのぞく青白い肌。そして何とも形容し難い両の目。例えるならば、黒い油絵の具に黒い油絵の具を混ぜ合わせてねちゃねちゃとさせたような、色。深い絶望を湛えた眼。それが、無機質にこちらを見た。彼は主人の前に座る物をを確認するように、とある島のとある区画の幹部である彼女の背後に立っていた。まるで忠犬気取りだ。吐き気がする。

「悪い話ではないはずだ」

俺がそうつげると、彼女の冷たい美貌はこちらを一瞥した。は、と鼻で笑いその顔を歪める。しかしそれすらも様になるとは、つくづく美人とは得なんだな、と思う。

「ええ、そうね。でも良い話でもないわ」

彼女がす、と足を組み替えた。チャイナ服のスリットから白い脚がのぞく。その奥が見えそうで、見えない。そんな物に心を動かされはしないけれど。

「君に不利益になるような事は無いさ」

中国風の綺麗に細工が施された卓の上を指でつう、となぞる。別に、意味なんてない。無いと言うのに一瞬だけ、ほんの僅か、常人なら解りもしない程少し彼の右腕がぴくりと動いた。確か彼は右腕に銃を仕込んでいる。左腕も同様に。仮令、今俺が少しでも動いたら瞬時に蜂の巣になって終うだろうか。彼が動いたら、もはや俺に止める術などない。大人しく撃たれるしか、出来ない。彼を止めることが、否、相対することが出来るのは七色の駄犬だけだ。鏡映し、とギータルリンは謂うがなんて的確で吐き気がする表現だろうか。

「いいわ、貴方の条件で許してあげる。後で必要なものは送らせるわ」

彼女は、ふん、と鼻を鳴らして椅子を立とうとする。すかさず忠犬が手を貸す。さりげない、当たり前の様な動き。苛々する。そのまま白いチャイナドレスはエスコートされて扉の向こうに消えた。ばたん、と必要以上に大きな音を立てた扉は、まるでこちらとあちらを分けて、隔離して、分離している様だった。

鏡映しなんて、所詮二つの世界だけで成り立つ話。自分の入る隙間等存在しない。

(哀れむな男よ、と彼は笑うか)







初成田作品です。
個人的には、狗木さんが大好きです。
そして、狗木さんはイーリーが好きだと(^p^)

橋犬は永遠です。
もっと増えないかな。











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