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数日後、冬獅郎はギンに再度呼ばれていた。おそらく、浦原とやらに連絡がとれたのだろう。離れから、長い回廊を渡って母屋へと赴く。冬獅郎の離れは余り他人と馴染むことが好きでは無い己の為に市丸が建てさせたものだった。幼い頃は未だ母屋で暮らしていたが、次第に己自身も其所で暮らすことを望む様になった。周りが鬼の自分とは違う狐ばかりだと言うのもあったが、時折感じる歓迎されていないと云う雰囲気が嫌だった。勿論大半の狐達は冬獅郎を市丸の息子であるかの様に大切に扱っていてくれていたが、中にはそうではない者もいた。市丸は、君のお母さんと僕の関係を良う思うとらんかった奴の僻みや、と笑っていたが幼心に、その憎悪を向けられたことはとても響いた。自分でとりあえずのことが出来るように為って以来、冬獅郎は離れで暮らしている。



母屋の庭に面した部屋で相変もわらず、浴衣を楽に着崩して涼し気に煙管を吸う市丸に対峙する。風が軒に吊された風鈴をちりん、と鳴らした。

「冬獅郎、浦原さんに連絡とれたわ。あん人の家に住まわしてくれはるって何時でも来たらええ、言うとったわ。それに人間の世界で暮らしてみるのも、結構ええ経験になる思うで」

ほら、高校とかも通ってみたらええんちゃう?と市丸はその薄い唇をにい、と吊り上げた。こいつ、楽しんでやがる、と冬獅郎は思った。市丸とは百年、もののけとしては短いと言える時間しか共に過ごしてはいなかったが、それでもこの養父の性格位は十分に把握していた。楊貴妃や玉藻前しかり、狐とは往々にしてそうなのだろうか、とは思うが彼の眷属達を見ている限りそうではない気がする。特に、とちらりと部屋の奥を見遣った。あそこに今日も控えているだろう金髪の男等は。だとしたら、彼の意地の悪さや悪戯心は彼自身の性格にのみよるものなのだ。

「考えとく、」

冬獅郎は当たり障りの無いように、それだけを呟いた。






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