欲しい(大罪/モブバン※

どうか、名前を呼んで。どうか、愛のひとつでも囁いて。見も知らぬ誰かの腕が、優しく己を掻き抱く、そんな夢をみている。

拒まれる事への慣れと、浴びせられる罵声を聞き流す術を身に付けて、男が悦ぶ声で鳴けば、雨露は凌げるのだと早いうちにそう、学んだ。ぎ、ぎ、と鈍く軋むベットは所詮安物。街で引き込んだ男と寝るのに丁度良い、屋根があって寝床があるだけのそんな宿だった。薄い壁の向こうから、或いは向こうの向こうから、絶え間なしにあがる嬌声はひどく現実味を帯びているのに、何処か遠い。己の上に覆い被さり、その腰を必死に降る男を見詰めた。可もなく、さりとて不可でもないその顔。金は持ってそう。誘い込むのに十二分の要素を持った男はセックスもまた、楽だった。無体を強いることはしないで、ただバンを愛撫し、その身体を開く。上手い訳ではないが下手な訳ではない、至ってノーマルな、そんな性交だった。ともすれば退屈なその交わりは、脳裏に取り留めもない妄執を呼び起こす。男の向こうに、まだ身も知らない人の影を見つけて、懇願する。愛して、拒まないで、愛して。朧げな影は輪郭を持たない。それが子供なのか大人なのか老人なのか、女なのか、男なのか。わからない侭に、己は懇願を続けた。ゆらゆらと揺れる壁の蝋燭に男の切り絵が映っている。闇々として先のない、時折炎とその身体の動きのせいで大小するその黒に、今更怯えなど抱かない。段々とはやくなるその律動に、現実に引き戻され、同時に男の果てが近いのだとその経験から知る。あわせる様に内を締め付けてやれば、幾度目かの緩急の果てに男の身体がぶるり、と震えた。喉が上擦った声を漏らし、男の欲望をこの身体に受け止めた。己の中でビクビクと男が痙攣している。汗塗れの男の厚い掌が己の頬を無遠慮に撫でる。と同時にずるり、と引き抜かれた男の萎えたそれに連られるように吐き出された欲望が外へと溢れた。外気に触れたそれは既に冷たく、ひう、と小さく悲鳴が漏れる。男はそれにすら満足そうに目を細めて、投げ捨てたズボンのポケットから幾らかの銅貨を追加で放って寄越した。「ねぇ、君はいつも彼処にいるのかい?」やけに上品ぶった言葉遣いが腹立たしい。いや、よく見れば男はそれなりの身なりをしていたから、或いは。けれど、そんなのはどうだって良かった。「ん、」肯定する様に、幼さを装って頷けば男がその腕でもって己を引き寄せた。あ、という小さい呟きだけがシーツに残される。無理矢理上体を起こされて、身体が軋む。そのまま肉厚の唇が己の唇を吸って、ちゅ、と態とらしい音を立てた。「じゃあ、また、買ってあげるよ」






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