My Dearest | ナノ
My Dearest
No.18 七夕(準備)



(長いです。)









「ちょっと青龍!いるんでしょ青龍!出てきなさいよ青龍!無視すんなよ青龍!ねぇ!ねえ!?青龍青龍青龍青青龍青龍青龍せい          
「うるっさい!そんなに呼ばなくても聞こえている!!耳を潰す気か!!??」
「アンタが呼んでも返事しないからでしょーが!いるんだったら一回で返事しなさいよ!!アンタはツンツンしっぱなしでデレてる部分ないんだからせめて呼んだら『はーい!』って返事くらい・・・・・・・・・・・・・・・・いや、やっぱなし。アンタがそんな返事したらアタシ二日は寝込む。ていうか死ぬ。笑い過ぎで死ぬ・・・・・っ」
「失敬な女だな貴様は・・・・・・!!」

目の前で口を押えて震える真琴(必死に笑いを噛み殺しているだけ)に、拳を震わせる。
人を傷付けてはならないなんて理がなければ今すぐコイツを垣根の向こうに吹っ飛ばしてやるというのに・・・!
そんな猛烈な殺気を平然と受け止める真琴は、もうどこかの農家の嫁よろしく、頭に風呂敷を巻き、元々着ていた男物の着物の裾を帯の間に挟んでいて、程よく筋肉の付いた白い脚が際どく覗いている。その手には何故か納屋から引っ張り出した大きなノコギリが。
袖もたすき掛けできっちり止めていて、外の人間が見たら卒倒しそうな居候の姿に、青龍は大仰に顔を顰めた。

「貴様・・・・・その恰好はなんだ」
「へ?あぁ、今からちょっと用があって裏山に竹を刈りに行こうと思って」
「・・・・・・・・・・で、俺を呼んだのは」
「てつだっ」
「断る」
「皆(みな)まで言わせてくれない!?」

 これが人の顔かと思うほど盛大に顔を引き攣らせた真琴。
 そんな神様もビックリな顔芸に動じることなく、深く刻まれた眉間の皺を更に刻み、青龍は冷ややかな表情で腕を組んだ。

「何故俺が貴様の下らない遊びに付き合わなければならない。そんなものには朱雀でもやらせておけばいいだろう」
「とっくの昔に呼んだけどこの間の畑の件まだ怒ってんのか天一掻っ攫って異界に立てこもっちゃったみたいでアイツ来ないの。くっそ子供かっての」
「・・・どんな扱いをしたんだ貴様」
「と、とにかく!白虎も六合も清明にくっついて内裏行っちゃったから無理だし玄武はちっこいしなんかインドア派っぽいから無理そうだし太裳とか論外だし・・・・・」
「・・・・・おっちゃん。というのは天空の事か?」
「うん」
「・・・・・・・・・何故勾陣達の名を上げない」
「女の子にやらせるような仕事じゃないじゃん。手伝ってもらうにしても台所とか洗濯ものとかそっち関係だよ。ていうか力仕事は男の仕事でしょ?残ったのはアンタだけなんだから手伝って」
「・・・・・・・・・」

じゃぁ白虎と六合が帰ってくるまで待つか、機嫌を直した朱雀が戻ってくるまで待てばいいじゃないか。
自分だってこの男だか分からない女が苦手なんだ。何故勾陣が席を外れているのか知らないが、そんな女と一緒にもくもくと仕事(しかも仮にも神である自分に畑仕事だと!?)をするなんて、考えただけでもいやだ。

「・・・・・・・・・・断る」
「あぁ!!??」

声と同時に掻き消えた青龍に悲鳴のような声を上げる。
もうどこにも彼の気配はない。穏形ではすぐに場所がバレるから異界に避難しやがったなあのブルーマン!
もうどうしてみんな逃げるのだろう。・・・・やっぱり無謀のなのだろうか。
いっそ禁断の女子作業員を要請すべきか。
と、不意に先日出逢った褐色の青年が脳裏に浮かんだが、きっと駄目だろうとすぐに打ち消す。
思案を巡らせるように尖らせた唇に指を当てていた真琴は、深々とため息を付くと、一番仲の良い神将の元へとトボトボと助けを求めに歩き出した。










「ゴメンネ勾陣。まさか女子にこんな重労働させることになるなんて・・・」
「かまわないさ。どうせ男どもは使い物にならないんだからな」
「・・・・・はは」

どうしよう。事実過ぎてフォローもできねぇ。
遠い眼をしてどこかを見る真琴に苦笑しながら、勾陣は肩に担いだ太い竹の幹を支え直す。
 はじめは真琴も先の方を支えていたのだが、軽々と抱えて歩いて行ってしまう勾陣の姿に諦めたように横を歩いている。
 しかし、背丈は自分とほとんど変わらないのに、その細い腕のどこにそんな力があるのだろう。やっぱり神は規格外なのだろうか。
 深々と嘆息する居候を横目で見た勾陣は、そう言えばと口を開く。

「騰蛇と会ったようだな」
「とーだ?・・・・あぁ、紅蓮のことだっけ・・・・・まぁ、会ったっちゃ会ったけど・・・」
「なんだ。歯切れが悪いな」
「むぅ・・・」

 子供ではないだろうに、ムスッくれたように頬を膨らませる真琴に首を傾げる。
 あの時、彼と確かに再会したけれど殆んど会話を交わせず、まだ話したかったのに話の途中で異界に還ってしまった。人が話しているのに勝手に帰るなんて、しかもほとんど二言返し。・・・・・・言葉のキャッチボール!
 思い出してきたのか、どんどん顔を顰める真琴の様子に、勾陣は何となく心情を察する。
 どうせあの最凶のことだから、“ひと”と関わることを恐れて碌に取り合わなかったのだろう。
 自分でさえ彼とは浅くとも一線があるのだから、一応人間である真琴が相手では、至極大変であろう。
 ・・・・・・しかし。

「恐ろしくないのか?」
「え?何が?」
「騰蛇のことだ。あれの神気は苛烈だろう」
「んー。そんなのあんまり感じたことも気にしたこともなかったからなぁ。どーだろう」

 本気で首を傾げる真琴に瞠目する。
 あの男の神気を。同族でさえ委縮してしまいそうなほどの神気を「感じない」「気にしたことがない」と?
 清明でさえ、あの作り出された異界で向き合った時、一瞬血の気が引いたというに。
 この娘の内にある膨大な霊力は、どれだけの力を秘めているのか。

「・・・・あの人の神気がそんなにすごいなら、勾陣の神気もすんごいの?」
「は?」

 いきなり話を振られると思っていなかったため、少し上ずった声が出てしまった。
 同じくらいの高さにある居候の澄んだ瞳を見つめる勾陣に、彼女はにっこりと唇に笑みを描く。

「だって神将の中で二番目に強いんでしょ?てことはさ、勾陣の神気だってすんごいって事でしょ?やっぱりあの人みたいに火の塊だしたりするの?」

 まるで新しいおもちゃを前に親に遊び方を聞く子供のように、きらきらした顔で聞いてくる真琴。
 しかし、こんな事を聞いてくる人間が今までいただろうか。
 確かに自分は十二神将で二番目に強いとされている。だが騰蛇のそれには、残念ながら及ばない。
 彼が纏うのは地獄の業火。同じ凶将でも、根本的に違うのだ。
 子供でさえそれが分かるだろうに、なぜ新しい主よりも年上(らしい)の女が気付かないのか。
 その身に秘める膨大な霊力のせいで、周りの霊力に感化されにくいのかもしれないが、如何せん鈍すぎやしないか?
 ま、何にも怖気ず、真っ直ぐで、裏表のない眼(まなこ)には好感さえ覚えるけれど。
 だからこそ、勾陣は仲間が敬遠するこの異質な娘の傍で、その動向に注意を払っていた。
 それはこの娘が主に危害を加えないように、という監視の意味でもあるが、一番の理由としては、自分が彼女の傍で、その何にも流されない、あの主さえ丸め込む意思の強さを持った特異な時の旅人に興味を持ったのが一番の理由。
 はじめて会った時、ただ人から見たら異形に見えるであろう自分達に真っ直ぐな視線を寄越し、嘘偽り無い己の言葉を述べたその態度は、勾陣の心を攫うに十分なものだったようだ。

「・・・・・・さぁ、どうかな」
「あ!逃げたなぁ!」
「人聞きが悪いな。・・・・・・・・・それより、この笹はどうするんだ?竹筒でも作るつもりか?」

 もしそうだとしたら、どれだけの量をつくるんだ。
 肩に担いだ笹を揺らす勾陣に、真琴は嬉々として肩を寄せる。

「今日は七夕だよ!昨日まですっかり忘れてたんだけど、朝畑に水やりに行ったときに竹林見て思い出してさ。折角だから皆で祝おうと思って!」
「・・・・・たなばた?」
「あれ?知らない?え、この時代なかったのかな・・・・」

 記憶を引っ張り出そうと、小首をかしげる。
 だがすぐにやめた。歴史がそんなに得意ではなかったから、そんな七夕なんかの起源なんかこのスカスカの頭には入ってないだろう。だったら、悩むだけ無駄だ。
 そう勝手に自己完結し、一人頷く真琴。
 なんとなくそんな雰囲気を感じた勾陣が突っ込もうとするが、不意に感じた同胞の気配に顔を上げる。
 朱雀と苦労の末作った畑を越え、屋敷の前に広がる割と広めの庭に踏み込むと、調度池の前にある縁側に集まる人影を見つけた。
 この屋敷に、人間は清明と真琴の二人だけ。仕事中の清明が居ない今、必然的にそこにいるのは神将達。
 半円を描く様に座っているのは、天一、天后、太陰、太裳、そして玄武。・・・中々の面子が集まっている。
 笹を担いだ勾陣と真琴が戻ってくるのにいち早く気付いた天一が顔を上げて、天女の様な微笑みを浮かべた。

「おかえりなさいませ、真琴様。・・・勾陣も」
「あぁ」
「天一、帰って来たの?じゃ朱雀は?」
「・・・・・・さっきまでいたけれど・・・・異界よ」

 言いにくそうに、だが黙っていても状況が悪化すると判断した天后が、少し落ちた声でそう囁いた。
 目を瞬かせる真琴.
 それは、つまり。
 ・・・・・・・・・・・・・逃げた。

「・・・・・・・・ああぁぁぁぁぁんのおぉぉぉぉぉっ!!」

 こぶしを震わせて唸る真琴からあわてて距離をとる勾陣。まだ出会ってから日は短いが、キレた真琴が鬼のように恐ろしいことは、その犠牲になった青龍と朱雀と清明を見ているから嫌というほど知っている。
 怒らせると下手したら神よりも怖いのだから、変に距離を置かないほうがいいようなきがするんだがなぁ。
 簀子に座る顔見知りの神将たちと、最近ようやく真琴に対する警戒心が薄くなり、安倍家に降りてくるようになった太裳でさえそう思うのだから、もう少し学べばいいものを。・・・・しかし彼も真琴の魔の手(?)から逃げるのに必死なのだ。
朱雀よ、哀れな奴め。
 尊い犠牲、と同胞と恋人に遠い目をされていることを知ったら、彼はどう思うだろう。
 と、縮こまっていた玄武が、現状打破、と勾陣が持っていた笹に目を落とした。

「立派な笹が取れたではないか」
「あ、うん。勾陣がいてくれたから助かったよぉー。やっぱ男は使えないね」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・あ、ち、違うよ!玄武と太裳は、なんていうかその・・・・・・・ちょっと女の子位置なところがあるじゃん?顔もなんかかわいらしいし、女装したら化けそうだよね、うん」
「じょ・・・・!?」

 言葉を無くす玄武。その横で太裳は紫苑の瞳を瞬かせ、古典と首をかしげた。
 サラリと青磁色の髪が白い肌を撫でる。

「私よりも、青龍のほうが似合うと思いますよ?髪も長いですし。女人の姿をしたらきっと綺麗でしょう」
「ぶうぅ        っ」

 突然噴出したことに驚く太裳。だが、周りは真琴の心境がわかるのか、笑っているのか困っているのかわからない顔をしている。
 そんな中、真琴の隣に立つ勾陣も笹を簀子に置こうとした体制のまま口を押さえ、必死に笑いを堪えている。
 怪訝そうにこちらを見上げる太裳に、笑いすぎて痙攣するお腹を押さえたまま、真琴は目元に浮かんだ涙をぬぐった。

「た、太裳・・・っ。君ホンットいい性格してるわ。ふふっ。青龍が女装。あの青龍が・・・・っ」

 笑いすぎて苦しくなって喉がひぃひぃいって、身体をくの字に曲げる。
 流石の天后も堪えられないように、手で口を押さえてそっぽを向く。
 その隣にいる太陰は、逆に顔を青くして縮こまっている。・・・・想像した姿がよほど恐ろしかったらしい。

 しばらくの後、ようやく笑いの谷から還ってきた真琴は、勾陣と玄武に手伝ってもらって、とってきた笹を庭に面する廊下にある柱に縛り付けた。

「よし、大体こんなもんかね。ところで、飾りの具合はどう?」

 明るく問う真琴に天一は微笑み、その手に持っていたものを静かに差し出した。
 橙色の紙の端を合わせ、端は切らずに真ん中だけ切れ目を入れ、外に出っ張るように折り目が付けられたそれ。
 七夕では定番の飾り、提灯の形をした折り紙。
 それを受け取った真琴はその丁寧な仕事に歓声を上げた。

「すごーい!天一手先めっちゃ器用だね!」
「いえ。そんなことは」
「ほんとだって!アタシ仕事雑だからさぁ。いやぁ綺麗だねぇ」

 しげしげと眺めながら素直な感想を上げる真琴に、天一は恥ずかしそうに俯く。

 この場に朱雀がいなくて本当によかった・・・・。
 このとき、その場にいた神将全員がそう強く思った。

 ほかにも簀子の上には、真琴が教え、神将たちが作った飾りが山のように積み上げられていた。
 その一つ一つが違う形をしていて、その出来の良さに真琴は手を叩いて喜んだ。
 そんな山の中に歪な星の飾りを見つけて、何気なく持ち上げる。
 すると、今まで黙っていた太陰が「あっ」と小さく声を漏らした。
 少し驚いて見ると、目が合った途端幼い姿をした神将は、同じような姿をした黒髪の神将の後ろに隠れてしまった。
 勢いよく飛び着かれて、玄武は体勢を崩すがなんとか踏ん張り、恨めしそうな眼を後ろに向ける。

「・・・・・これ、太陰が作ったの?」

 確信を込めて問うてみると、太陰はぷっくりとした頬を桃色に染めて、黙って首肯した。
 歪な星には、何度もやり直したことを窺わせる折り目がいつくも付いていて、彼女が一所懸命に折っていたことがすぐに分かった。

「うまいじゃんっ。めっちゃいいじゃんっ。アタシ星折るの苦手だから、こんな綺麗に折れるの尊敬しちゃう」
「・・・・・気遣わなくていいわよ」
「なぁに言ってんの?アタシは嘘はつきませんっ」

ね?と笑って、自分が作った星を掲げる真琴を、太陰は赤くなった頬のまま見上げる。
そんな太陰に今だしがみ付かれたままの玄武は、小さく嘆息した。

「そんなに恥ずかしがらずとも。・・・・・さっきまで楽しそうに折っていたではないか」
「んなっ!?ちょっと玄武!!」
「そーなの?」

 これは意外だ。
 自分が勝手に「七夕したい!」と騒いて神将たちを巻き込んだから、てっきり面倒臭がられていると思っていたのに。
 問われた太陰はこれ以上ないほど顔を真っ赤にして、思いっきりネタばれをしてくれた玄武をぎっと睨み付けた。慌てて目を反らす玄武。可愛らしくて、思わず声を立てて笑った。
 勾陣や天一、玄武は出逢った初めの頃から、自分を受け入れてくれている。だけれど、他の神将達は、未だに自分と距離を置いているのを、真琴自身分かっていた。
 だけど最近は、少しずつだけれど、心を開いてくれるようになった者達もいる。
 ここにいる面々などは、今日自分が七夕の準備を一人でやっているところに手伝おうと、自ら言ってきてくれた。これは大きな変化だ。
 勿論朱雀や青龍のように自分を苦手とし、距離を置くものもいるが、少しずつでも、神将の皆の中に自分の居場所が出来ていることは素直に嬉しかった。それにあの堅物二人も、徐々にではあるが心を開き始めている。相変わらず一言多い真琴にちゃんと突っ込むようになったのが良い変化だ。
 それは一重に、彼女がただ純粋に神将達と縁を結びたいという強い想いによってのものであると、のちに清明は語っている。
 神将達は神であるが、人の想いにより具現化したもの。強く想えばそれは力となり、神将達の心に届く。
 それを知らない真琴はただ、ただ願う。
 自分を受け入れ始めてくれた彼らと同じように、彼の真紅の人との縁もちゃんと結びたい。
 だからこそ、今日。一年に一度、解れた縁を結び直す、離ればなれの恋人たちにあやかって、自分も新しい絆を結びたい。
 細やかではあるが大きな希望を胸に、真琴は閉じた瞳の内に、力強い金色の輝きを秘めた瞳を思い浮かべた。






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