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<少年陰陽師>…拍手:京町鬼事大騒動



夜の平安京。
魑魅魍魎が跋扈するこの闇の時間。
その異質な気配をまとう京の都を、土煙を上げて疾走する牛車が一つ。
いや、これは牛車と呼べるのか。なにせ、車を引くための牛がいないのだから。
それなのにこの牛車。ものすごい勢いで路を走っていく。
只人が見たなら、悲鳴を上げる前に気絶するだろうに。
明らかに妖であろう牛車が何故京の街を疾走しているかは置いておいて、その後方からも、ものすごい勢いで駆けてくる影が、月明かりに照らされていた。

「待たんかワレエエェェェェ!!!」
「おー。すっげー声だなぁー」
「いつもながら居候は元気だなー」
「そういや、晴明と笠斎はどうしたんだ?」
「あいつらも別の路張ってるんじゃないのか?」
「てことは、こっちが当りか!良かったな居候!」
「うっさいわ雑鬼たち!!こっち真剣なの黙ってなさい!!!」
「「「「「・・・・・はーい・・・」」」」」

一斉にすくみあがったかか萎れたかで黙る雑鬼たち。つか、なんでコイツらいるのさ。
振り落としてしまいたいという、いつになく物騒な考えを隅に追いやって、鞍を掴む手に力を込める。
くっそ早い・・・!瑠璃でも追いつけないなら、方法はこれしかない。

「瑠璃!手ぇ離すからそのままよろしく!」

叫ぶように言うと、相棒はすぐに嘶きで答えてくれた。
マコトを気遣って、なるべく揺らさないように安定して走ることは、目の前の目標を捕えながらでは辛いだろうに。
後で感謝しなくてはと思いながら、瑠璃の上で立ち上がったマコト。
その手には、何時ぞや以来の89式5.56mm小銃。
肩と頬で挟むように構えた体勢で、目標に向かって叫ぶ。

「とまれ!とまらないとこの火ぃ吹くアタシの銃(武器)がテメェを燃やすぞゴラァ!!」

どっかの古い地方のレディースのようなセリフである。
警告というより脅迫というほうがしっくりくる言いまわして叫んだマコトに、下の瑠璃が思わず震えた。
それは周りにへばりくっついている雑鬼も、目の前の妖牛車も同じなようで。
急に蛇行し始めた目標。その路をふさぐようにマコトは引き金を引く。
ダダダダンと物騒な音が響き、牛車の前の地面にめり込む。
思わず急停車した牛車はそのまま勢いを殺しきれず、バランスを崩してどぅっと横に倒れこんだ。

「・・・・・っ、はぁ〜・・・」

構えていた体勢を解いて、瑠璃の背中にべったりと張り付くように身体を倒す。(雑鬼一匹程弾き飛ばされたが、そこはスルー)
いたわるように瑠璃のしっぽがむき出しの足を叩く。
そんな優しい友に頬笑み、その首を叩いてやる。
今回のこの大捕り物には、この瑠璃がいなければ無理であっただろうことは明白。
一番の功労者は、彼女なのだ。
だがしかし、まだ捕り物は終わっていない。

瑠璃にまたがったまま、横倒しになった牛車へと近づいていく。
ぎぃぎぃと車輪を軋ませるその妖は、どうにか起きようとしているらしく、どたばたと大きな身体(?)を揺らしていたが、近づいてくるマコトを認めた途端、今度は激しく竦み上がった。
・・・・・・まるでこっちが悪いことをしている気分だ。
周りをふよふよと浮いている鬼火、車輪についている鬼のような顔、どこを見たって恐ろしいことこの上ない姿なのに。
なのに・・・・・。

「・・・・・・・・え、何故そこで泣くの?」

滝のように涙を流しているというのは、どういうことか。
困惑して思わず雑鬼や瑠璃を顔を見合わせる。
すると、妖牛車は何かを訴えているように、身体を大きく軋ませた。まるで話しているかのように。
マコトの後ろでずっとその様子を見ていた雑鬼の一匹がそこで声を上げた。

「こいつ、誤解だって言ってる」
「はい?」
「自分はただ、夜の散歩を楽しんでいただけなんですっとよ」
「はぁ?」
「そしたら足のない俊足の妖馬とその背に乗った落ち武者が追いかけてくるからびっくりし」
「誰が落ち武者だゴラァ    !!え!?じゃなに!?今ちまたで貴族を驚かせて回っているっていう達の悪い小学生のガキ大将みたいな牛車って君じゃないの!?」

ガタガタガタガタガタガタガタ!!

「・・・・・・ま取り合えずまとめると、“誤解です”ってよ」
「間際らしいんじゃ    い!!!」

つか妖がそんなにピーピーなくもんじゃない!と怒ると、ますます(声をあげて)泣き始めた。
・・・・・なんなの此奴。

          と。

ダガダガダガダガダガダガダガッッ!!!

ものすごい騒音と、同時に巻き上がる土煙に、その場にいた全員が顔を上げる。
土煙を上げた犯人は、そのまま少し離れた先の十字に分かれた路の真ん中にとまった。
今目の前で倒れてる姿とほとんどそっくりな形の牛車が、こちらを見ていた。
凡そ極悪人面というか、手がついてたら絶対一本欠けてますよね、と聞きたくなるような面である。
その顔が、倒れた牛車とその横に立つ瑠璃とマコトを舐めるように見たと思うと・・・・・・・・・。

嘲るように、フンと鼻で笑った。

ビシッ。

「「「びし・・・・?」」」

思わず声を重ねる雑鬼たち。
その間に、凶悪人面妖牛車はギュインッと方向転換したと思うと、奥の路へと走り去った。

「・・・・・・・・・瑠璃」

不意に頭上から降ってきた低い声に、雑鬼たちは竦み上がる。
しかし、いつもなら一緒になって怖がる瑠璃が、同じように低い声でブルル、と答える。

「君、紛らわしいから夜の散歩もほどほどにね。追いかけてごめん」

そうまだ倒れたままの妖牛車(おそらく善良な奴)にそう言いながら、へばりついていた雑鬼たちをその上に落とす。

「行くよ」

マコトの言葉に、瑠璃は待っていましたとばかりに四肢をしならせて駆けだした。
その姿が一瞬にして豆粒のようになっていくのを見送った雑鬼たちは、顔を見合わせる。

「・・・・・・怒ってた?」
「・・・・・怒ってた」
「すっげー怒ってた」
「二人共(?)顔こんなんだったもん」
「鬼の形相とはまさにあれのことだ」

「「「「「・・・・・こえー・・・」」」」」









晴明にとって、これしきの妖を捕えることなど、造作もないことだ。
もっと強くて恐ろしいものを相手にしたこともあるし、それを倒しても来たのだ。
走るだけで、貴族を驚かせるくらいの小規模な妖など、片手で捻り潰せる       はず。

「じゃなかったのか晴明!!」
「うるさい!あいつが死ぬほど早いんだ!!!」
「おい神将!!どうにかならんのかアレ!!」

息も絶え絶えにそういうと、頭上を飛んでいる太陰が唇を尖らせた。

「だってアイツでかい図体の割にちょこまか動くから中々捕まらないんだもの!」
「おまえそれでも風将か!!」
「なぁんですってぇ!!??」
「・・・・太陰の風は、大雑把な性格のままだからな」

冷静な分析をする玄武の言葉に、黙ったまま苦い顔をする晴明。
今いるのは、太陰、玄武、六合、朱雀の四人だけ。只の牛車と思っていたのがいけなかった。
こう距離が開いていては、術も届かないため、何事にも追いつかなければ始まらない。
しかもムカつく事に、向うはこちらが追いつけない距離で一度とまって、こちらが必死に走っているのをまるであざけるように見て楽しんでいるのだ、腹の立つ!
太陰何ぞは飛んでいるため一番足が速いのに、中々捕まえられずに、怒りが溜まっているよう。
六合も黙ってはいるが、相当苛立っているだろう。

          と。

ダガダガダガダガダガダガダガッッ!!!

「いたあああぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

後方から響いてきた怒声に、一同竦み上がる。
振り返った二人。だが、その横をものすごい勢いで疾走していく黒い風。
あわてて前を見ると、黒い毛並みが美しい妖馬が四肢をしならせて牛車に向かっていく。

その上で立ち上がったマコト越しに、赤く燃える炎が見えた気がするのは気のせいか。(若干瑠璃からも上がっているような・・・)
再び銃を構えるマコト。その標準は、牛車の激しく回る車輪に付け根に。

ガゥゥンッ、と空を裂くような音が響きわたった。
その途端、ものすごい勢いで走っていた牛車がガクンとバランスを崩した。
外れた車輪はそのままの勢いでどこかの屋敷の土塀にぶつかり、片方だけ車輪が残った本体はスピードを殺せずにぐるぐる回って地面に円を描いていく。
さっきまで凶悪犯面していたのに、何が起きたのか分かっていない様子で周りを見回している姿はなんとも滑稽な極みである。
さっき、彼女たちに何があったのか知らない晴明たちのことなどまるで眼中に入っていないようで、瑠璃からひらりと降りたマコトは、石のように固まった妖車をぎろりと睨みつけた。

「・・・・・・鬼さん、みーつけた」

その声音の恐ろしいこと・・・・。
目の錯覚でなければ後ろの瑠璃の瞳も、炎のようにめらめらと燃えているような・
竦み上がり、恐怖のあまりガタガタと震える妖に、彼女たちは容赦なく、一人はこぶしを鳴らし、一人は蹄を地面に打ち付けて、凄絶に笑って見せた。

「さぁ、罰ゲームの時間だよ・・・・?」





その後。

「・・・・・あれ?居たの?」

さっきからイマシタ。

なんて事言える心境ではない男達は(少女(?)もいるが)ただコクコクと頷く。
そんな彼らを見て、真琴は瑠璃を顔を見合わせた。
なんでそんな反応しているんだろう?という顔をしているが、それに関しては異議が大いにある。

「あーもう疲れたぁ。見てよ向こうの空!もう白み始めてるし!」

確かに空の向こうが明るい色に染まり始めて、朝を迎える時を知らせている。
ということは、そろそろ出廷の時間という事。
晴明と笠斎は互いに顔を見合わせた。疲れ切った、というか生気を吸い取られた顔をしている。
原因は分かっている。目の前にいる友のせいだ。
だがここで文句を言っても仕方がない。
同時にため息を零す二人に、真琴はむっとしたように眉を寄せる。

「ちょっと、何よ」
「「いーえ。なんでも」」

そんな感じじゃないじゃん!と瑠璃と目を眇める真琴から逃げるように大路を走る二人。恐らくは本気で仕事に遅刻しそうなのだろ。
もう真剣に追いかけるのも億劫なのか、瑠璃の上に跨って二人を追いかけると言うセコい手にでた居候と、それに顔を蒼くして逃げる主とその友に目をやり、取り残された神将達は深々とため息を付いた。





こうして今日も、京の都は(ある意味)平和な朝を迎えるのだった。


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