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<少年陰陽師>…拍手:三馬鹿囮大作戦!(第一弾)



「どーしてアタシなのぉ      っ!!」

悲痛な叫びを上げるマコトの顔は悲愴なくらい蒼白。
見ているこっちが悲惨な気持ちになりそうなのに、その顔を見ながら晴明は眉一つ動かさず大きく頷いた。

「いや、お前だ。お前だけだ。これ以上の適任はいない」
「ふっざけんな     !人権侵害!仮にも女だぞ!もっと労われ!!」
「生憎我が家に女人は“まだ”いないのでな」
「はい!はいはい!ここにいるよーどうしたのかな晴明君〜君の眼はいつからフィルター掛かっちゃったのかなぁ!!??」

顔の筋肉を総動員して耐えているようだが、それでも口の端が小刻みに痙攣してしまって居る。
居ないって!アタシは女じゃないってか!?
ここにクッションがあったら思いっきりなげてやるのに生憎あるのは分厚い本の山と脇でやり取りを見守る笠斎だけ。・・・・・マジで投げてやろうかな。
仁王立ちで自分を見下ろす清明をきっと睨み付けるも、そっちも本気らしい家主はドヤ顔に近い真面目顔で見返してくる。

「こっちも緊急事態だ。たとえお前が女人の皮を被った正体不明の妖であったとしても、お前曰く分類学上は“一応”女人だ。こちらとしてはまったくもって不本意ながらお前に頼らざるおえん」
「色々聞き捨てならない台詞が聞こえたぞこの狸!誰が妖だ!誰が“一応”だ!こっちが不本意だわ!」

ともかく!とマコトはバチンと床を叩いた。



「なぁーんでアタシが!!妖怪退治の囮にならなきゃいけねぇんだっつぅーの     !!??







事の発端は三日前。晴明の元にある貴族の随従が文を携えてやって来た。
その随従の主は・・・というよりも文を託したのは貴族の、謂わばボンボン。
その文には、“自分を神から守って欲しい”と書かれていたらしい。
どういうことなのかとその随従に問うと、どこか疲れ切った顔をした彼は待ってましたとでも言うように必死の形相で語り始めた。

なんでもその貴族の公達には意中の姫がいるという。しかし彼女の住まう屋敷の家人たちは、身分の低いその公達と会うことを嫌がるらしく、屋敷に入ることも中々できないそうだ。
そこで頭を捻った公達は何を思ったか、怪しまれぬようにと女装をして姫の元に通うようになったという。
逢う度にワザワザ髪を解いて背中に流し、顔と姿を隠すために女物の着物を頭からすっぽりと被って、姫の女中に手引きしてもらい、逢いに行ってると言う。
まぁ一途と言うかなんというか。女装してまでって貴族のボンボンとして、男としてどうよ?と思ってしまうのだが、まぁそこまで思われては姫の方も満更ではないだろう。(思うのは、好きな男が女装して会いに来た姿を初めて見たときの彼女の心境なのだが、聞けることはないだろうからものすごーく気になる)

そこでどうしてそんな実直な彼が妖に目を付けられたのか。
それは彼の格好と、その行動にあった。

彼が姫の元へ向かうときに使う道に、小さな祠がある。昔は供物を添える者も居たそうだが、今ではもう忘れ去られるだけの傾いた祠だ。
そんな祠を横目で見ていた彼は、その性格ゆえに放っておけず、姫の元からの帰り道に祠を綺麗に掃除し始めたのだ。
掃除だけではなくその路を通るたび、草が生えそうになっていれば抜き、花が枯れていては新しく飾り、酒を供えたりと、律儀にもずっとつづけてきたのだそうだ。
その際、万一顔を見られないようにと被っていた着物を取らないで居たのだが、それがまずかった。

貴族の御坊ちゃまの癖に偉い!と話を聞いて思っていた真琴だが、そこからの展開に盛大に頬を引き攣らせることになったのだ。

その祠の神はまだちゃんとそこにいらしていて、自分の祠を綺麗に掃除し、供物もちゃんと備えてくれている人間がいる所をしっかりと見ていた。



着物を頭から被った、心優しき“女人” を。



・・・・・・つまり。

彼の事を見ていた神はその格好から女人だと思い、ならば我が妻にしよう!という神様らしい自己中心的な考えの元、今度は神が彼の元に通い始めたのだ。

実直で心優しいが故に取った行動すべてが、神を誤解させることに繋がってしまったと言う、なんとも皮肉な話である。

毎夜のように現れては、「我が妻となれ〜」とまるで悪霊のように言ってきて仕舞には怪奇現象まで起こる様になってしまい、彼も家人もすっかり疲れ切ってしまったのだ。
この状態では迷惑をかけてしまうと、最近では姫の元に通うことも断念せざる負えず、姫からは「逢いたい」と涙をこぼしていると人伝に聞いてしまい、ますます追い込まれてしまって居るそうなのだ。







「分かるよ、すっごく分かる。うちも似たようなもんだしね。毎日何かと「あれはどうだー」「これはどうだー」って言ってくるし。しかもこっちはそれが12人分だもんね。分かるよ〜・・・・・・・・・でもね!?その彼を救うことにまったく異論はないけどそれがどうしてアタシになる訳!?」

バシバシと床を叩いて講義するマコトに、笠斎は申し訳ない顔で乾いた笑いを零すもその頬を冷や汗が伝う。
ちらりと横の晴明を見るも、依頼を受けた本人は彼女の言葉なんぞ聞いていないらしくつーんとそっぽを向いてしまって居る。
いつもならちゃんと答えてやるのに、今回の件に関しては八割がた無視を決め込んでいる。
余程、晴明も必死と見える。
途中からマコトに言われて半強制的に参戦した笠斎であったが、彼も同様に追い詰められていた。
なんせ相手は神だ。誤解をしているとはいえ、神が望む相手を奪うのだから、短気理不尽我が儘の神がいつ八つ当たりを始めるか分かったもんじゃない。

と、返事をしない晴明にしびれを切らしたのか、四つん這いとは思えない速さで晴明ににじり寄ったマコトは、その速さに思わず身を引いた晴明に向かってばっと飛び掛かり、右手で顔をがっしりと掴みあげた。
思わずひぃっ、と情けない声を上げて飛び退る笠斎。

「囮が必要なら晴明が女装すればいいじゃん!見ろこの整った顔!切れ長でイライラしてるとぴくぴく動く眉!吊り上ってて人を見下す様に見る目!皮肉しか言わないこの唇!深く刻まれた眉間の皺なんてこっちまで皺寄せちゃいそう!」
「貶す事しか言ってないだろうがこの変態!」
「あーもう最高だね!女装向きすぎててなんか殺意覚えてきた!ちくしょーなんで男なのにこんなに整ってるの!?」
「何がしたいんだお前は!?」

両の頬を掴まれてるせいで情けない顔になっている晴明は必死にマコトの下から這い出そうとするが、何故か全く敵わない。
妖と戦ってる時以上に死にそうな顔をしながら、笠斎に向かって珍しく助けを求める。(それほど切羽詰まってるという事だろうか)

「っ、おい!何してる助けろ!」
「すまん晴明。マコトに敵うなんてそんな愚かな夢を見るほど俺は現実から目を背けてない」
「たまには目を背けるのもいいものだぞ!」
「馬鹿いうな!俺はまだ死にたくない!」
「私は死んでいいのかこの裏切り者!」
「ちょっと何その言い草!仮にもレディに対して失礼じゃない!?」
「「れでぃ?」」
「えっと、淑女?」
「はぁ!?お前が!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・ぁ、っ!!まて!早まるな!まだ何も言ってないぞ!!」
「言ってんじゃねーかゴラァ!!!!」
「やめろマコトただでさえ性格悪いのに顔が潰れたら晴明おしまいだ!!」
 

ドンガラガッシャンバタドカバッキ      ン・・・・









しばらくお待ちください(byカナル)








ゼーハーゼーハーゼーハー・・・

いい歳した大人が三人揃って騒いだ後というのは悲惨である。疲れ切って項垂れるように荒い息を付く三人は、もう元々何の話をしていたのか半分忘れてしまっているのではと心配になってしまう。

揉みくちゃにされた髪を鬱陶しげに払い、晴明は疲れ切った顔で部屋の隅を睨み付けた。

「・・・・・・・っ、まったく・・・!主が、襲われてるのに、助けないとは、どういうことだ・・・!?」
「「・・・・・・・・・・・」」

晴明の悲痛な叫びに、白虎と朱雀はさっと顔を反らす。その後ろで壁に寄りかかって小刻みに肩を揺らす六合はあえて捉えない。
挙句、一番の味方だと思っていた青龍までも気まずそうに眼を反らすのに、晴明は思わずがっくりと首を落とした。


誰もコイツには敵わないのか!!
恐るべし居候・・・!!


「ちょっと、今失礼な事考えたでしょ」
「・・・・べ、別に」
「否定するならドモるんじゃねーよ!」

説得力ねぇー!と騒ぐマコト。
ともかく、話を元に戻さねば。

「あー・・・それでだな。是非ともその標準女性にはない強靭な精神力と尽きる事のない有り余った体力。そして規格外の性格を遺憾なく使って囮役を買って出てくれ。拒否権はない」
「それが人に物を頼む態度かよ!?」
「頼んでない」
「は?」
「命令だ」
「亭主関白かオメェは!」
「・・・今日皆どーしたのー?なんか過激だよねー」
『管理人の夜中の精神的問題です』
「なるほど。・・・・・・・・えっ?い、今の誰の声っ?」
「笠斎独り言煩い。壁と話してるの?イタいよ」
「え?だ、だって今・・・・」
「もう笠斎放っておいていいよ。とにかく!命令とかアンタ何様!?俺様何様陰陽師様!?」

後ろでしゅーんとしてしまった笠斎を置いて、二人は再び仕様もないやり取りと始める。

睨みつけるマコトに、晴明ははぁ、と一つ息を付き顔を上げる。

「お前がここに来てすぐ、私と約束したことを覚えてるか」
「は?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぁ。・・・・・あ゛ぁ゛!!!」

思い出した。
あの時こいつは言ったはずだ。“私の言うことに逆らうな”って!

「いやいやいやいや!!アタシそれに同意したつもりないからね!?つかアタシちゃんと文句言ったからね!?」
「だがその後話はうやむやで終わり、お前はそれ以後何も言わずここに住み始めた。ということは、それを了承したと言っても過言ではない。よって、その条件はまだ有効だ」
      っ!!!!」


ヤラレタァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!


部屋に響き渡ったマコトの悲痛な叫びは防音の結界のお陰で外には響かなかったが、屋敷にいた者達の耳を劈(つんざ)いたのだった。







(つづく!!!Σ(゜д゜))

ちなみに『』は私ですw(苦笑)

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