短編&拍手倉庫 | ナノ
短編&拍手倉庫
<少年陰陽師>…小話:I Think About You.




※バレンタイン企画に上げた遺物(2015)。
 現パロ。
 ただの惚気。砂吐き注意。
 神将人間化注意。
 (拍手なのに長いです。)







      眠れない。


うつ伏せのまま、もぞっと布団から顔を出せば、電気の消えた自室が月明かりでぼんやりと浮かび上がっている。
そのまま首を巡らせてベッドサイドに置かれた時計を見ると、時刻は三時三十二分。
まだ夜明けにもなっていない。

今夜何度目になるか知れない溜息を零しながら仰向けになったマコトは、乱れた髪をくしゃりと掻き上げそっと目を閉じた。

けれど。
目を瞑っても、瞼の裏に浮かぶのは彼の顔で。

少し色黒の顔をこれ以上ない程緊張させて、それでも真っ直ぐにこちらを見てくる彼の瞳が、鮮やかに浮かんでくる。

もう一度目を開けたマコトは首を傾け、調度頭を向けている方の壁を見る。
見えるわけがないのに、この壁を挟んだ向こうにいるであろう彼を見つめるようにじっと視線を向ける彼女の眼は酷く揺れている。



      ねぇ、紅蓮。
どうしてあんなこと、君は言ったの?









「・・・・・・・・・・え?」

長い長い沈黙の後、絡まった喉からようやく出てきたのは、そんな情けない声の欠片だった。
今日は風が強くて、立ち尽くすマコトの肩につくほどの髪の毛を攫って行く。
それは目の前に立つ彼もそうで。
少し着崩された自分と同じ紋章の入った高校指定のブレザーのすそが、微かに揺れている。
状況を上手く飲み込めないマコトに、目の前の紅蓮は緊張に強張らせた顔を困ったように笑う。

「アホ面」
「うっさい!」

反射条件でいつものように叫んでしまったマコトはすぐにばつが悪そうに口をヘの字に歪めた。
いつもの帰り道、白川の畔を夕焼けが照らし、川の水面を赤く染めているのが目にまぶしい。
それとよく似た彼の瞳を真っ直ぐに見ていられなくて、マコトは視線を彷徨わせた。

「・・・・・普通、さ。そういうのって、チョコ求めてくるもんじゃないの?それか、無かった場合の悪戯とか」
「お前今日学校でクラスだけじゃなくて先公にもチョコ配っちまって、手持ちがないって騒いでただろうが。それで勾と朱雀に散々からかわれたろう」
「う゛・・・っ」

かなり大袋で買ったチョコが、調子に乗って配りすぎたせいで昼には空っぽになってしまったことを散々馬鹿にしてきた朱雀に回し蹴りをお見舞いしたことは記憶に新しい。
いつもならそこで文句のひとつやふたつぶつける所だが、それを考える余裕など今のマコトにはない。
ちょっとワザとらしいくらい俯いたマコトの顔を長い髪が隠してしまうから、その表情は判らない。
けれど容易く想像出来るのか、カーテンの様に垂れた髪の向こうで紅蓮が小さく笑う声が耳朶を打った。

「悪い。困らせたかった訳じゃ、ないんだ」
「・・・・・・・・・」
「ごめん」

なら、謝らないでよ。

思わずそう突っ込みを入れたくても、そんな雰囲気ではない。
人通りのない川のせせらぎだけが聞こえる中で、ここの空気だけが異常に緊張を孕んでいる。

「・・・・返事は、別に急かさないから」
「え?」

慌てて顔を上げれば、いつもと同じように微笑む紅蓮がマコトを見下していた。
学校の女子達が青龍と並んでカッコいいと称する精悍な顔に穏やかな笑みを浮かべてはいるが、そこにはどこか切なさが滲んでいるように見えるのは錯覚だろうか。

伸びてきた大きな手がクシャリとマコトの頭を撫でる、思わず首を竦めてしまう。
その間に紅蓮は身体を離し、踵を返すと後ろ手にひらひらと振りながら去って行ってしまった。

余談ではあるが、マコトと紅蓮は同じ屋根の下で暮らしている。
二人の両親の共通の知人がオーナーである老人の家に、学校から近いからと居候をさせてもらってるのだ。
古くから続くその家はとても広く、彼らの他にも、同じ学年の勾陣や青龍、朱雀や天一といった少年少女が共にお寝起きしている。
小中高一貫の学校である為、ずっと一緒に居るメンバーは良くも悪くも兄弟のようなものだった。

そんな中で、一番親しくしていた紅蓮に思わぬ言葉を告げられて、動揺しないわけが無かった。








本命チョコが欲しいって言ったら、どうする?」
「・・・・・・え?」
「・・・・つまり、好き・・・って、事」








時計は四時四十四分になっていた。

更に悶々としているせいで、酷く時間がゆっくりと感じてしまう。
布団を頭まで被っても、過ぎるのは日中の事だけ。

別に、なんてことない時だって眠れない日はある。
妙に頭が冴えてしまっている時や、考えがまとまらないような日は特にそうだ。
けど、今は眠れてしまえたらどんなに楽だったろう。


本命チョコとか・・・・冗談で言ったの?
でも、あの顔は真剣だったはず。
勘違いじゃない。

いつから?いつから彼は自分の事を?
そもそも、アタシは紅蓮の事をどう思っているんだろう・・・。


紅蓮の事は、変な意味が無くとも「大好き」の分類に入る事は間違いない。
最初に仲良くなった勾陣と親しかった紅蓮と話すようになったのは、彼が転校して三週間目だった。
それから「通学時間がかかって面倒くさい」と下宿先で一緒になってからは更に仲良くなり、授業が終われば紅蓮がマコトの教室まで迎えに来てくれて、一緒に帰るのが当たり前になっていた。
時折クラスの男子にからかわれたりもしたが、男勝りなマコトと紅蓮に限ってそんな事はないだろうと彼らが思いながら冗談で言っているのだと分かっていたから、こちらも軽くあしらって返していた。
それなのに・・・・・。

下宿先の安倍家に帰ってみれば、紅蓮はいつもなら一度帰ってからバイトに行くというのに今日は直行したらしく、先に帰って食事の支度をしていた勾陣に珍しがられるし、動揺して何時もの覇気がない様子に心配までさせてしまった。
安倍家は親族の結婚式の為今日は出払っており、青龍も朱雀もバイトや部活で帰宅は遅い。
勾陣も夜からバイトである為、今日は家にいる人数が少ないというのは、マコトにとってある意味良かったと言えた。

それだけ一人で考える時間があったというのに、全く考えがまとまらないというのもおかしなものだった。



目を閉じて深く空気を吸い込んだまま暫く息を止めてみれば、自分の心臓の音を感じる事が出来る。
その鼓動は何時もよりもずっと大きく身体に響いている気がして。


     アタシは紅蓮を・・・。


いつもそばにいた。
愉しかった時も、悲しかった時も。

喧嘩もしたし、男張りに取っ組み合いもした。
気心の知れない、遠慮のいらない関係。
特別な事なんて考えなくても、傍に居るだけで心地よかった。



この感情は何?



      コン。


不意に頭を向けていた壁の方から微かな音が響いてきた。
驚いて顔を向けても、そこにはいつもと変わらない壁しかない。

       コン。

さっきよりも遠慮がちに響く音に、自然とマコトの唇に笑みが灯った。
もぞもぞと身体を起こし、まだ冷たい二月の大気にブルリと身を震わせながらも、布団から片手を引っ張り出す。

コン、と軽く叩き返して見ると、暫くの沈黙の後、コンコンコン、と三回壁が叩かれた。
それは何度も繰り返され、まるでマコトに語りかける様に静かな部屋の中に響く。

「・・・・・・・っ」

ぐっと熱くなった目蓋をぎゅっと閉じ、マコトは思わず俯いた。

自惚れてもいいのだろうか。
壁をノックするその響きが、彼の告白に聞こえてしまうなんて。
そう感じてならないのは、自分の勝手な望みなのだろうか。



この感情は・・・何?




一秒、二秒、息をしてる
どうしてあんなこと君は言ったの




バッと布団と跳ねのけ、部屋を飛び出す。
灯りの消えた暗い廊下を出ればすぐ隣が彼の部屋なのに、一々大回りをしなければいけない事に競ってしまう。

無意識に乱れた呼吸を整える暇も惜しくて、そのまま彼の部屋のドアをノックする。




三秒目は何もなくて
こうしてずっと考えていたら
嬉しくって   




返事は急かさないと言ったくせに、待てなくてアピールしてくる辺り彼もまだまだ子供だ。

でもそんな彼が心から愛おしいのだと、今なら解る。


がちゃりと音を立て、ゆっくりと開かれるドア。
そこから一番最初にのぞいた濃色のざんばらな頭に、マコトは滲んだ瞳を細めて淡く微笑んだ。




伝えてあげる。
アタシのこの心を。








涙がね、涙がね、こぼれたの...








**********************************************

(文字色は恋の色をイメージして桃色にしてみました。
 イメージ曲:「好きと言われた日」EGOIST)


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -