Because...
5.生きるということ、助け合うということ(後)
「・・・・・・・おい、あんた」
「・・・・あんたじゃない、真琴」
何回いえばわかるわけ。
「・・・・もういじけるなよ」
「いじけてないもん」
「じゃぁ降りろ」
「イヤ」
即答で返され、こいつ・・・と顔をしかめる。
少女を無事に家族の元に送りおどけ、優しげな母が心配したのよ!と娘を抱き締めて一件落着。
さぁ帰ろうとした瞬間、いきなりテンションのガタ落ちした真琴は、クラウドが手で押しているバイク、フェンリルの座席を陣取って膝を抱えてしまった。
よくまぁそんな安定しないところでバランス良く座っていられる。
「・・・・・気にするな。最近じゃ、あんなやり取りはしょっちゅうだぞ」
「・・・・・・」
「それとも、チンピラを張っ倒して、周りの人間に怒鳴り散らしたこと気にしてるのか」
そういった途端、真琴の肩が面白いくらいにビクゥッと強張った。・・・図星らしい。
やがてゆっくりと顔をあげた真琴を見ると、その顔は何とも言えない複雑な、そして悲しそうな顔をしていた。
「・・・・・俺は、あんたは間違ったこと言っていないと思うがな」
「・・・・でも、人の考えは人それぞれで、完全にわかりあうことなんて、絶対にない。私がさっき言ったことも、私が唯思ってることで、他の人は誰も思ってないかもしれない。たとえ思っていても、行動に出る人なんてほんの一握り。・・・・あの子はたった一人で、あんな病気と闘ってる。」
一度言葉をとめて、息を吸い込む。
「前に、ティファが言ってた。二年前におきたメテオ災害で沢山の子供が親を亡くして、孤児になったって。・・・・そういった子たちは、星痕になっても護ってくれる人、いないんだよね」
その子たちに、私は、なにもできない。
「・・・・・馬鹿だな」
「・・・・・・・・・・・・・・はい?」
バイクを止めて、目をむく真琴の額を叩く。
痛っ!と声を上げ、抗議の視線を送る真琴。
でも、そんな彼女を見るクラウドの視線は、いたって真剣。
「すべての人間を救えるほど、俺たちの手は万能じゃない。でもあんたはあの時、苦しんでいる子供を助けた。それに、人が互いに助け合うことの大切さを教えてくれた。だから俺は今何かを感じている。・・・・ここに」
そういって、胸に手を当てる。
「人を思いやる気持ちに、嘘偽りはいらない。人を想い、支えになっていくこと、・・・・・たとえ誰も守れなくても、その思いさえあれば、俺は」
「・・・・・そんなことないよ」
真琴を見ると、今までにないくらい真剣な顔で、自分をみる彼女の姿。
「誰も守れないなんて、そんなのウソだよ」
「・・・なぜ」
「だって、私を助けてくれたじゃない」
助けた?と首をひねるクラウド。その様子に想わす苦笑してしまう。
「初めて会った時、教会で・・・・助けてくれたじゃない」
「・・・・・・あれは・・・。あれは、ただ通りかかっただけで」
そういって視線をそらすクラウドに、真琴は微笑を浮かべる。
「でも、来てくれたでしょ?・・・・それだけで十分」
そう言った真琴は、今度は小さく頷いた。
「なんかクラウドのおかげで元気出てきた気がする」
「俺は何も」
「いつもと同じように接してくれて、いつもみたいにド突きながら励ましてくれたじゃん。なんか、それがうれしかった」
ありがとう、と笑う真琴。
「・・・・・・そうか」
自然にうっすらと笑みが広がる。
その笑顔に、真琴が目を細める。
「あと・・・・・・お願いがあるんだけど」
「・・・・・なんだ?」
聞き返してみたものの、なかなか返事の返ってこない真琴。
口を開いたり、閉じたり・・・・なんだか忙しない。
やがて、意を決したように深呼吸した真琴は、ぐいっとなぜか赤い顔をクラウドに寄せた。
「・・・と・・・・・っ、友達になってくれませんくぁあ!?」
「・・・・・・・・・・」
いきなりの提案に頭が付いていけず固まるクラウド。
その反応を何故か呆れと取った真琴は、あわあわと手を振る。
「い、いやあの、その、私この世界で友達ってティファとマリンと、あと近所の子供たちくらいだし、ほんとは結構前かクラウドと友達になりたかったんだけど、ほら私こういう性格だから、いつもクラウドに絡んじゃって、嫌われたかと思ってなかなか言い出せなかったから・・・・」
しどろもどろに言う真琴。
「本当に・・・・・」
やがて、口を開いたクラウドの声は、若干の呆れが混じる。
「あんたは馬鹿だ。突拍子もないこと言い出すし暴走するし。本当に常識から外れてるよな」
「え、あ、どうも」
「ほめてない」
?マークを頭上に浮かべる真琴に突っ込みながらも続ける。
「あんたみたいな人間の友達になれるやつなんて、心が広い人間か、奇人変人のどっちかだろう」
「うわぁぁさりげな〜く貶されたぁー!」
頭を抱えて泣きまねをする真琴。まったく忙しない。
「俺は・・・・」
そう言って、言葉を噛みしめるようにきゅっと口を閉じる。
「俺は一度すべてを失った。故郷も家も、親友も・・・夢も。」
「・・・・・」
「それでも、大切なものが、ここにあったから、俺は今でもそれを糧に、生きて居られているんだと思う」
そっと胸の前で手を握るクラウド。
「大切な仲間が、俺を支えてくれた。もう二度と会えない親友が、俺に生きる希望を与えてくれた。・・・・・それなら俺も、あんたにとって、新しい希望を与える存在になりたい」
かつて、友が俺にしてくれたように。
すべてをなくして、新しく生きようと踏み出したばかりの彼女の支えになるのなら。
だから。
クラウドは顔を上げて真琴を見た。
何よりも美しく輝く二つの異なる輝きを宿した、その瞳をもつ彼女を。
「マコト」
呼吸が、止まるかと思った。
「俺と、友達になってくれ」
そういった途端、初めて会った時のような、けれどもそれよりはやわらかい衝撃が襲った。
それを受け止めるように足を踏ん張り、でもどうしたらいいかわからず右往左往する自分の手。
やがて聞こえてきた静かな嗚咽に、クラウドは視線を向ける。
バイクの座席から飛び出し、クラウドの首に齧りつくように腕をまわした真琴は、彼の肩に顔を埋めて、涙を流していた。
いままで溜めていた“なにか”を洗い流すように、静かに。
この世界に飛ばされてから、してから一度だって泣かなかった真琴が、今自分に縋って、こっちまで泣きそうになる泣き方で泣いている。
恐る恐る、小さな子供にするかのように、そっと頭を撫でてみる。
すると一瞬、真琴の動きが止まり、か細い吐息が肩を撫でた。
「・・・・っ、・・・・ありがと・・・っ」
絞り出すような声、震える身体。
あぁ、彼女は、こんなにも小さかったのか。
いつもは元気に明るく、逆に静かにしてほしいと思う。でも、その内側には、誰にも見せないように、孤独や弱さを隠していたのかもしれない。
すべてが真琴を形作る要素で、でも、同時に鉄壁で。
守るように、背中に手を回して、ぎゅっと抱きしめる。
かつて、無二の親友が彼を守ってくれていたように。
もう日の沈んだ、人工灯の明かりが点る中、クラウドは真琴が泣きやむまで、ずっと抱きしめていた。
あなたの腕は暖かくて、とても安心したんだ。
いつもそっけなくて、まぁ、私のテンションが苦手ってこともあるのかもしれないけど、
それでもさ、あの時、「友達になろう」って笑ってくれたあなたに救われた。だから。
心から、ありがとう
おまけ
「そういえば、あんな体術どこで学んだんだ」
「んっとね。じいちゃんが畑の仕事しながら、沖縄空手の師範やってて、それで教わってたの。あと、近所の兄ちゃんがヤンキーに絡まれて、それを助けてたら余計な技まで覚えちゃって。・・・あ、あと部活で剣道もやってるよ!どっちも段持ち!」
「・・・・・・・・」
よくわからないけど。変人のうえに超人だってことは分かった。
友達宣言、ホントに正しかった、のか・・・・?