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Sweet flower

「あのー……」

「……」

季節は夏。

夏休み。

午前中で部活は終わり。

おそらく宿題に手をつけていないであろう日向を連れて冷房が効いた涼しい図書室へ来た菅原は。

現在、日向を後ろから抱え込むように抱きついていた。

ちょうど奥まった位置だから、人は殆ど来ない。

背の高い本棚は、二人を隠すように鎮座している。

しかし、いつ誰が来るか分からないので日向は気が気じゃなかった。

「菅原さん」

「……なに」

頭に顔を埋めてるせいか、声がくぐもっている。

いくら冷房が効いていても、こんなに抱きつかれては暑い。

抗議のために名前を読んだのに、ちっともわかってくれていない菅原がちょっと嫌だ。

「いつまでそうしてるつもりですか」

「……さぁ?」

「さぁって……菅原さぁん?」

いよいよイラっとして、普段菅原に対して出すことのない声で名前を呼んでしまった。

「……やだ」

イライラが前面に出た日向の怖い声に、菅原は怯えたようにさらに抱きついて、放すまいとますます力を強めた。

まるで幼児退行してしまったかのような菅原に、日向ははぁと溜息を吐いた。

普段、あんなに頼り甲斐のある優しい先輩はどうしてしまったのか。

これはこれで可愛らしくて好きだけど。

「今日の菅原さんは、甘えん坊ですよね」

手を伸ばして後ろ手にくしゃりと菅原の頭を撫でると、その手を取られて指先にキスをされた。

柔らかいその仕草に日向がほにゃりと顔を緩めていたら、菅原がポソリと呟いた。

「……不安なんだよ」

「不安、ですか?」

「日向はさ、誰にでも好かれて、誰とでも仲良くするべ?だから、誰かに取られるんじゃないかって不安なんだよ」

誰にでも尻尾を振る尻軽とでも思われているのかと日向はちょっとムッとした。

だが、腹に回された手が微かに震えてるのを見ては怒るどころか困惑するばかり。

普段、余裕綽々で日向のことを甘やかすばかりの菅原。

その菅原のこんな姿は、日向を刺激した。

「しょうがないですね〜」

まるで妹をあやすようなお兄さん的発言をしながら、日向は菅原の腕の中でくるりと半回転した。

日向の腰に、菅原の手が回る。

日向はそのまま手を伸ばすと、ぎゅうっと菅原に抱きついた。

「俺は、菅原さんが、好きなんですよ?菅原さんが、一番好きなんです!」

日向の告白にキョトンとしたものの、すぐに花が綻ぶように笑みを浮かべた菅原は、抱き着く日向を抱き上げて。

同じ目線に持ち上げたかと思えば。

「大好きだよ」

思いの丈を込めて、日向の唇にキスをした。



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