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暑くても、ダメなんです

「す、がぁらさん……あつぅ」

モップをかけながら、あっちへふらりこっちへふらりしていた日向は。

コート端にいた菅原の近くまで来ると、ふらりふらりと近寄って。

モップを持ったままぽすりと菅原の背中へと突進した。

緩やかに背後から体重をかけられて、菅原は踏ん張った。

「え、日向ぁ?」

背後を振り向けば、モップを片手にフラフラしている日向がいた。

「日向、モップはもういいから……って、なに、その顔!」

見れば、顔は真っ赤で息が荒い。

もしやと背後の日向を手繰り寄せ、ふらりと揺らぐ体を抱きかかえた菅原は、その額へ自らの額を寄せた。

「ん、」

ひやりとした菅原の額が気持ちいいのか、固く結ばれた唇がふにゃりと緩む。

常ならば慌てふためいて急いで逃げるだろうに、大人しく菅原のされるがままになっている日向に菅原は診断した。

これは間違いなく風邪だと。

うわぁ、日向、ごめん。

思い当たる原因に、菅原は申し訳なさそうに呟き、日向を抱き上げた。

『俺が連れていきます』と申し出た影山へ日向ではなくモップを手渡し、目が合った澤村にアイコンタクトする。

苦笑いで手を振る澤村にコクリと頷き、菅原は日向を保健室へと連れて行った。

外出中らしい保険医不在の保健室に入り、日向をベッドに寝かせる。

「日向、ごめんな」

汗で張り付いた前髪を払って、詫びるように額へ口付ける。

その感触がくすぐったかったのか、眠る日向がもにゃもにゃと小さなうわごとを漏らした。

「ふひゃ……菅、らさん……らめって……」

舌足らずな言葉に思わず笑みが浮かぶ。

だが、再び思い出した原因にへにゃりと菅原の眉が下がった。

おそらく、原因は昨日のことだ。

部活終わり、ケーキを餌に自宅に誘った。

夏だというのに、あいにく菅原の自室の冷房が故障してしまい。

あまりの暑さに二人は水風呂に入ることにしたのだ。

「や、菅原さんから先にどうぞ!」

「いや、日向はお客さんなんだから先だべ?」

「いや、菅原さんは先輩ですし!」

「じゃあ、一緒に入るべ」

菅原の提案にカチンと固まる日向。

そんな日向にニンマリと笑った菅原は。

あれよあれよと日向から服を剥ぎ取り、自らも脱ぎ去るとお風呂へ入った。

が。

落ち着いたお母さんのような菅原も、恋人の裸体に欲を抱かないわけもなく。

ヤダヤダと騒ぐ日向がクシャミをするまで存分に手を出してしまった。

おそらくもなにも確実にこれが原因だろう。

思い出した原因に溜息が出る。

「なんで、あんなことしちゃったんだべ……」

日向の裸体に興奮するあまり、嫌がる日向にあれやこれやとしてしまった。

今更反省しても遅い。

だが、後悔は尽きない。

せめて、眠る日向が少しでも楽になるようにと。

菅原は日向の頬におやすみのキスを贈ると、日向の額を冷やすものはないかと保健室内を探し始めたのだった。







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