小説 | ナノ




モヤモヤの特効薬

『あの、菅原さん』

『ん〜?』

穏やかな昼休み。

ひと気のない裏庭の端にある、大きな木の下。

菅原は幹を背に座り、日向を抱枕のように抱えてうとうととしていた。

木陰の涼しさと日向の温もりがほどよく菅原の眠気を誘う。

日向の声も、うとうとする菅原には柔らかな子守唄のようだ。

『菅原さんって、年上好きなんですか?』

だが、思いがけない問いに眠気は吹き飛んだ。

パチリと目を開き、腕の中の日向を窺う。

日向は、今、なんて言った?

俺が年上好き?

『なんで?』

プクリと頬を膨らませ、不満げに唇を歪ませる日向。

思わず飛び出た菅原の疑問に、さらに不満げに菅原を睨んできた。

『だって!』

理由を言おうと口を開くが、何かを思い出したのかムスリと黙り込んでしまった。

こんなに機嫌が悪い日向は初めてで、菅原は戸惑う。

『どうした?日向?』

珍しくアワアワしている菅原に、日向はちょっとだけ申し訳ない気分になったが、あれだけは頂けない。

思い出すだけでジタバタしたくなって、ムカムカする。

菅原さんは、俺と付き合ってるのに!

ムカムカして、イライラして。

悲しくて、腹立たしくて。

こんなゴチャゴチャした気持ちは始めてで、どうしていいかも分からない。

『日向ぁ〜』

普段はあんなに大人びた菅原が狼狽する姿はちょっとだけ珍しいが、それでも日向のモヤモヤは晴れない。

『なぁ、日向』

『日向』

菅原の声が不安定に揺れる。

なんだかそれが悲しくて、自分のせいだと思えばますます気分が落ち込んだ。

『日向、何かあるなら言って?』

優しく諭すように、でも何処か不安げな声にようやく日向は観念して口を開いた。

お腹に回された腕に手を重ねて。

『部室の、ポスターに……年上好きって……』

部室を利用するようになって大分経つが、日向はちょっとばかり女の子関係には免疫がなくて部室に貼られたポスターも極力視界に入れないようにしていた。

だが。

うっかり見てしまった昨日。

ついでにアレも見てしまった。

菅原が年上好きと書かれた付箋。

菅原と日向は恋人同士で。

日向は菅原より年下で。しかも、男で。

いろんな情報がグルグル絡まって、知らない感情まで湧いてきた日向は混乱して。

菅原に助けて貰いたかったのに、嫉妬に苛まれて口にも出せなくて。

ようやく口にしたか細い声での告白。

菅原がそれを聞き逃すはずもない。

ふぅ、と小さな溜息を吐く菅原に、日向はビクリと体を震わせた。

嫌われた。

飽きられた。

呆れられた。

ざあっと音を立てて血液が降下する。

だが。

ガバッと先ほどよりも密着するように抱きついてきた菅原に息が止まる。

『日向はなんでそんなに可愛いかな』

愛しくてたまらないと、これ以上ないくらい甘ったるい声で囁かれて。

下がった血液が急上昇した。

そのせいなのか菅原のせいなのか。

頭がクラクラした。

『あれ、田中が勝手にやっただけだよ。俺は日向が好きって言っただろ』

むぎゅむぎゅと抱きしめられて、じわじわと日向のモヤモヤが消えていく。

謎のモヤモヤは正体不明のまま、消えてしまった。

とりあえず。

謎のモヤモヤは菅原が原因で菅原が特効薬らしい。

それなら。

また患っても大丈夫だろう。

日向は菅原から離れるつもりなどないのだから。




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