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飴玉、ころり

『日向ぁ〜。これ、食ってみ?』

始まりは。

二年生で先輩の田中と西谷が持ってきた飴玉だった。

〜影山の場合〜

差し出された飴は紫色だった。

ぶどうだろうか。

なんの疑いもせずにそれを口にした日向は、後悔した。

それはもう、すごく。

口にした飴玉の味はなんとも形容し難いものだった。

例えるなら、粘土。

幼稚園で使うような粘土の味だ。

『……まず』

吐き出すほど不味くはないが美味しいわけもない。

『だよなぁ、マズイよなぁ』

うんうん、と西谷が日向の言葉に頷く。

更に田中はとんでもないことを言った。

『影山はうまいーって食ってたけどな』

『え』

固まる日向に追い打ちをかけるように背後から返事がきた。

『うまいっすよ?その飴』

いつの間にやってきたのか、背後に影山が立っていた。

粘土味の飴を噛み砕くか悩みながら、日向は背後の影山を仰ぎ見る。

『粘土の味……』

『グァバって書いてあるだろうが』

『グァバってなに』

『俺が知るわけないだろ。ほら、練習』

不毛なやり取りに苛立ったのか。

影山は日向を引き寄せるとそのままグイグイ部室から押し出した。

『な、ちゃんと歩けるっ』

『黙っとけ』

言うなり勢い良く近づいて来た影山に思わず身構えて目を瞑る。

ぶつかるような勢いで迫ってきた影山は、存外優しく唇を柔らかく合わせると。

『口、あけろ』

突然のキスにパニック状態の日向は言われるがまま口を開いて……飴玉を取られた。

粘土味だから助かったのだけれど。

『なにしてんだよ』

飄々と先ゆく影山をジトリと睨める。

『有難く思え』

偉そうに言う影山だが、その耳はやや赤らんでいて。

それに気付いた日向は、駆け寄って一緒に体育館へと向かったのだった。





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