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銭湯戦争

影山家の風呂が故障したらしい。

今夜は銭湯に行くと言う影山に、日向は好奇心に負けてついて行くことにした。

影山に続いて入湯した銭湯はこじんまりとしていたがそこそこ綺麗なところで。

たまたまそんな時間だったのか、脱衣所には数名いたものの、浴場は日向と影山の貸切。

『ラッキー♪』

まるで子供のように目を輝かせ、日向はちゃっちゃと体を洗うと湯船へとダイブした。

バチャーンと豪快に、湯船に波が起こる。

『ボゲェ、静かに入れ!』

影山の怒号が投げつけられたが、銭湯に浮かれた日向は居にも介さない。

ふんふんと機嫌良さげに鼻歌を歌いながら、今だ洗い場にいる影山を眺める。

『なぁなぁ』

『なんだよ』

『影山さぁ、けっこう筋肉あるよな〜』

無邪気な日向に、影山は停止した。

洗う手を止め、ギギギと日向へ振り向く。

その顔は、まだ入浴してないというのに真っ赤だった。

『な、おまっ、そういうこと言うなっ』

『へっ?』

様子のおかしい影山に、日向はキョトンとした。

『お前さ、忘れてるのか?』

『なにを?』

俺、お前の彼氏なんだぞ

羞恥に影山の声が囁きくらいの小さなものになった。

常ならば聞き取れないほど小さな主張。

タイル張りの浴場で運良く反響したおかげで日向はなんとか聞き取れた。

だが。

『知ってるけど』

再び、キョトンとする日向に、影山はイラっとする。

なんで、わからないんだ!

部室に置いてあるグラビアは目を逸らすくらい意識するくせに、素っ裸な彼氏にここまで無邪気なのはいかがなものか。

意識されてないのか。

イライラして、悲しくて、またイライラする。

自分ばかりが好きなようで、悔しかった。

急に黙り込んだ影山に、日向は不思議そうだ。

小首を傾げて影山を見ている。

『なんで怒ってるんだよ?彼氏の体が筋肉あるの褒めちゃダメなのか?』

そんな呟きに、影山はハッとなる。

褒めた?

あれで?

『わかるか、ボゲェ!』

褒められたら褒められたで恥ずかしい影山は、桶に溜めた湯をザバリとかけてそそくさと湯船へと入った。

二つある湯船のうち、日向のいない方だ。

背を向けるように入った影山に、日向は面白くない。

手で作った即席の水鉄砲に湯を溜めて、パシャリと影山に発射した。

『なっ!』

日向の攻撃に影山も反応する。

同じように手で作った水鉄砲で応戦する。

パシャパシャ。

パシャパシャ。

次第に楽しくなってしまった二人は、止まらなくて。

その戦いは、次の客が怒鳴るまで続いた。

『お前ら、風呂では静かにしろっ』




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