誕生日に感謝を
夏至。
一年で最も日が長い日。
影山にとって。
一年で一番大事で感謝したくなる日。
日向翔陽の誕生日。
***
『日向』
まるで菅原かと思う位の柔らかな声音で呼ばれて、日向は思わずキョトリとした。
思いもしない。
まさか、あの影山がそんな柔らかな声を出すだなんて。
仏頂面に似合いの不機嫌な声ばかりに馴染んでしまって、そんな声に慣れない日向は訝しげに影山を見た。
『影、山?』
『誕生日だろ?ほら』
不躾な視線に怒るどころか仄かな笑みさえ浮かべ、影山は日向へスポーツメーカーの袋を差し出した。
見たことがない影山に、日向はビックリだ。
『ありがとう……』
差し出したプレゼントに常なら飛び跳ねて喜んだだろうが、影山の様子に慄いてかおとなしく受け取った。
その場で開けもせずにぎゅうっとプレゼントを抱きしめる。
プレゼントをあげた影山としては、中身を見て喜んでもらいたかった。
煮え切らない日向に思わずいつもの憎まれ口が出かかる。
ダメだ。
日向の誕生日なのだ。
今日くらいは優しくしようと決めただろうが。
『開けてみろよ』
『あ、うん!』
影山の言葉に弾かれるようにプレゼントを開封した日向は。
現れたプレゼントに目をキラキラさせて、思わず影山に抱きついた。
『ありがとうっっ』
思わずウッと怯む影山だったが、平常心と呟いて日向の好きにさせた。
『気に入ったかよ』
『すっげーいい!今日から使う!』
影山のプレゼント。
それは日向の大好きなバレーボールで使うもの。
サポーターだ。
本当はシューズにしたかったが、学生の懐具合では少々痛手で。
手頃なもので日向の気に入りそうなものをと考え抜いた結果だった。
サポーターを手に跳ね回りそうな勢いで喜ぶ日向にホッとする。
誕生日、おめでとう。
お前が生まれた日に感謝する。
そして、お前と出会えたことに感謝を。
終
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