▼狸寝入りの君



小気味良く音を立てて食器たちが在るべきところに仕舞われていく。
洗われたてのコップたちは磨き拭かれた自分たちを誇らしげにツヤりとした輝きを放って、それを見たおなまえは「やり切ったぞ」と自身を褒めるように頷いた。
普段は流れ作業で済ませる洗い物だが、今日は何故かキッチンの汚れが気になっておもむろに五徳を外してコンロの掃除から壁拭き、調味料入れの整理からフライパンの底の焦げ取りまでシンクに近づくように順に作業をして、今ようやく最後に洗い物をしてシンクを磨き、洗い物を拭き終わったところだ。


「んー…っ!ちょっと時間かけちゃった。今何時だろ」


黙々と取り組んでいたので時計を気にしていなかった。
大きく伸びをしてから壁掛け時計を見ると、洗い物をしようとキッチンに立ってから1時間半も経っていたことに気付く。

わ。もうそんなに経ってたんだ……テル君静かだけど、何してるんだろ?

カウンターの傍らに置いているハンドクリームを塗り込みながらテルの姿を探すと、ソファーに腰掛けたまま目を閉じていた。
声を掛けようと近づけば、緩やかに呼吸を繰り返しているのが聞こえて深く眠っているのがわかる。


「あれ…待ちくたびれちゃったかな。ごめんね。テルくーん」
「……」


声を掛けても肩を軽く揺すってもスゥスゥという寝息が返ってくるだけで、どうしたものかとおなまえは腕を組んだ。

せめてベッドに連れて行ってあげたい…けど、テル君意外と筋肉あるから重いんだよね…………抱っこできるかな……

物は試し、とテルの背と膝に手を掛けて持ち上げようとしてみる。


「……っっっく……、」


案の定鍛えてもいないおなまえの細腕では抱き上げることは出来ず、テルの首がコクリと動いただけだった。
力の入っていない人体は余計に重く感じると言うし、その所為だと自分に言い聞かせながら体勢を変えてみたり腕を回す位置を変えてみたり試行錯誤をするも、良くて一瞬浮かせられるだけで結局ソファーから動くことは出来ない。

すやりすやりと穏やかに眠っているテルとは正反対に、おなまえは疲労困憊の汗だくで、健やかに眠っているテルの顔を見ていたらフツフツと悪戯心が湧いてきた。


「私がこんなにヘトヘトになってるのに…何で起きてくれないのテル君〜!」


ちょっとくらい苦しくなってしまえとテルの鼻を摘んでみる。
鼻呼吸ができなくなって「……ん」と一度眉をしかめてから口呼吸に切り替えたテルの姿をおなまえは眺める。
少しだけ開いた唇はちゃんとマメにケアされているのだろう艶があって、歯並びの整った歯たちが僅かに覗けた。

なんかテル君…口元だけで見ても”テル君だな”って感じ……お利口さんな口元してる気がする

一方的に観察できていることに少しだけ気分が良くなって、鼻を解放してやる。
すると観察対象だった口が閉じられてしまう。


「む。もうちょっと………んっ!?」


顎に手をかけて再び口を開けさせて観察を続けようとすると、おなまえの首が掴まれ思い切りテルの胸にぶつかる。
何が起こったのかと見上げる前に唇が塞がれて、開いた唇の隙間から厚い舌が差し込まれおなまえの舌をくすぐる。
体を離そうと腕に力を入れたが、背と腰に腕を回されていて敵わない。


「ふ……んぅ、っ」


執拗に蹂躙されて、その内おなまえが口内の意識にいっぱいいっぱいになり力が抜けた頃、最後に軽く唇に歯を立てられてようやく開放される。
新鮮な酸素を吸い込むのに必死になっていると、うっすらと膜を貼った涙で滲む視界の中、テルがニヤリと笑っていた。


「お、起きてたの…?」
「うん。寝てたらどうするのかなーって気になったから」


そう言う合間にもテルはおなまえの首筋に唇を寄せて、軽くキスを落としたり鎖骨を甘噛みしたりしている。


「う…、も。意地が悪いで、す…っ」
「ハハッ、うん。ごめんね?」


身を捩るとテルに体を支えられ、グルリと視界が反転した。
乱暴ではないが、しっかりとおなまえの上にテルが乗って来て逃げ場を封じられる。


「何か可愛いなぁって思ったから」
「どこも可愛いことしてません…、よ?」
「ん〜?…全部可愛かったよ」


すっかり上機嫌な様子のテルが首筋でリップ音を立てて痕を残される。
その僅かな刺激にもおなまえの体はチリチリとした疼きを感じ始めてしまう。
チラリとテルを伺えば、本当に中学生?と聞きたくなる程色香を放つ瞳と目が合って胸が高鳴った。


---


吐き出す息が熱い。
湧き上がる快感で滲む視界は明滅を繰り返して、ひっきりなしに嬌声を上げてしまう喉は部屋の明るさに抗議することさえ諦めてしまった。


「んぁあっ!は…ぅ、も…やだぁ、っイく!も、離して………やぁあ、あっ」


ソファーに押し付けられたまま秘所に顔を埋めているテルの髪に指を絡める。
すぐにやってきた法悦に身体が震えて碌に力も入らない。
達するおなまえの様を舐りながらテルが見つめる。
そのギラついた視線が細められて、達したばかりの中心が疼くと中にあるテルの指を締め付けてしまう。


「もう、…ひっあ!もう無理……んん、テルぅ」
「もう無理?」
「んう…はぁ、うう……」
「ホントに?」


ようやく唇が離されて、甘ったるいテルの声が耳を刺激する。
くちゅりと中の指が動かされると、まるで「こんなに濡れてるのに?」と暗に言われているようで睫毛が震えた。

もう何度も達したおなまえは体の熱をどうにかしたくてテルにしがみつく。


「も、お腹せつないぃ……」
「……」
「テルくん…」


いやいやと甘えるように首を振ると、一瞬目の据わったテルが次にはフッと笑って手で口元を拭う。


「ごめんね、もっと可愛いおなまえさんが見たくて意地悪しちゃった」
「う〜…」
「ゴメンゴメン」


宥めるように抱きしめられて、旋毛、額、瞼へとキスを落とされる。
ポケットからスキンを取り出し身に着けると、テルの膝の上に座る様に持ち上げられた。


「…ぁ……」


コレ、深いやつ。

そう思っておなまえが縋るようにテルを見たのと同時に挿入される。
突然の質量にも中は待ち侘びていたかのようにテルを受け入れていく。


「あぁあ!……ひ、あ…ハァっ……こ、れぇダメ」
「ダメ?」
「おく…っ!おくきちゃう、ぁ……んんっ」


快感から逃れたくて腰を引くのに、抱き締められるように腰に腕を回されて追い立てられる。
奥を穿たれる度にジンと痺れが広がって、「は、はぁっ」と息を吐き出すのでいっぱいいっぱいになっていく。
ダメだと言うのにテルはそのダメな所ばかり突いてきて、どんどん気持ちいいのが溜まっていく。

ポタリと互いの汗が肌を伝ってソファーに落ちる。


「全部埋めたい。……ダメじゃ、ないよね」


また唇を塞がれて、思考がぼやける。
返事をしたいのに、キモチイイことしかわからなくなっていく。
私の返事より先に中がテル君を締め付けてしまって、また一段高みに近づく。
快感の波に抗うように、必死にテル君の名前を呼んだ。


---



フンッと鼻息荒くおなまえはテルから顔を背けた。


「私今日はココから1歩も動きませんから」
「無理させちゃったね」
「今日は全部テル君がして!」
「ハイ、お姫様」


体が怠くて筋肉痛で腰も痛い。
今日が日曜日なのが幸いして、早速テルに用意してもらった朝食を運んでもらう。


「いただきます」
「いただきます!」
「……」
「…ん?どうしたのテル君」


トーストを1口齧ったおなまえをじっと見つめるテルに、おなまえは首を傾げた。


「食べさせてあげようか?」
「え……いいよ、食べるくらい自分で出来るもの」
「そう…気が向いたらいつでも言って」
「急にどうして?」


モグモグと続きを口にしながら合間に問うと、テルはニコリと笑う。


「キッチン、すごいキレイにして貰っちゃったから。ありがとうの気持ちを込めてめいっぱいお世話しようと思って」
「昨日とっても頑張りましたからね!」


得意気に胸を張るおなまえ。
テルはついその頭に手をやって、艶やかな髪を撫でた。


「……テル君て、年上を甘やかすのが上手ですね…」
「そうかな?おなまえさんにだけだよ」


サラリと恥ずかしげも無くそう言ってのけるテルを、おなまえは「将来が(色んな意味で)恐い子だ…」とコーヒーカップに口を着けた。




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04.11/寝ているテルにイタズラしようとして狸寝入りのテルに逆に襲われる



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