▼要定期サービス




持たされている合鍵で無遠慮にサムターンを回す癖に、開けてからドアをノックする奇妙さにテルは失笑しつつ「いらっしゃい、おなまえさん」と彼女を迎え入れた。


「お邪魔しまーす。テル君お夕飯もう支度しちゃってた?」
「どうぞ。まだです」
「今日シチュー食べたい気分になって。もうちょっと掛かっても平気?」
「大丈夫ですよ」


テルの返事に微笑んでキッチンに立つおなまえは買ってきた食材を広げてシンクで手を洗いつつ、椅子に腰掛けているテルの様子を窺う。
大丈夫といいつつ実は空腹なのを気遣っていることも無きにしも非ずだと思ってのことだったが、そのテルが心なしかダラリと座っているように見えて「珍しい」とおなまえは思った。


「…あれ、テル君今日何か疲れてる?」
「……どうして?」
「んー…なんとなく」
「実は今日、覚醒ラボで張り切りすぎちゃって」


「おなまえさんには隠せないんだなぁ」とテルは苦笑すると首を慣らしてみせる。


「程々にね。体壊さないくらいだったらいいんだけど」
「うん。…ありがとう」


手早く食材の下ごしらえを済ませて鍋に放ると、弱火にして煮込む。
後は野菜が柔らかくなればルウと牛乳を投入すればいいし、バゲットを焼いてサラダを添えればいい。
椅子からテレビをぼうっと見ているテルを後目におなまえはまるでこの部屋の主かという程迷いなく浴室に向かい、軽く浴槽内を洗って湯張りボタンを押した。
その音にテルが気が付いて脱衣所に顔を覗かせる。


「あ。やろうと思ってたのに」
「テル君疲れてるんでしょ?いいんだよこれくらい。お姉さんに任せておきなさい」
「ハハ。おなまえさん甘やかし上手だからなぁ…」
「そんなことないよ。…でも褒めて貰っていい気分だから、もうちょっとサービスしてあげようかな!」


「サービス?」と首を傾げるテルの背を押して歩かせるとベッドに倒した。


「むがっ…おなまえさ…?」
「マッサージのサービスぅ〜」


焦る様におなまえを振り返るテルの腰の背を跨いで首の後ろから肩に掛けて掌で圧を掛ける。
「寝ちゃってもいいからね、まだ煮込み時間掛かるし」とおなまえが言うと、テルは大人しく枕に顔を埋めて静かになった。
鍛えている所為か年の割には筋肉質な背を指圧しつつ張った筋肉を解していく。
普段テルは自分でケアをするのに背の張りは何日も放置されていたかのようで、自分では出来ない箇所故に後回しにされていたのかもしれないなとおなまえは思った。


「解してほしくなったらいつでもするから、言ってねテル君」
「……うん…」


言葉を投げてから返答までの間の長さに、そろそろ眠たくなってきたかとおなまえは黙る。
そのまま背から腰の後ろへと手を下ろして、同様に圧を掛けていくとピクリとテルの体が反応した。
擽ったかっただろうかとやや強めに押すと、「う」とテルが小さく呻く。


「……ま、おなまえさん。もう、大丈夫」
「まだここ解れてないけど…痛かった?ごめん」
「痛くない。…気持ち良い、けど…もう平気ですから…」
「じゃあここだけやらせて!左右非対称なのはよくない」
「だ…ぅ……っ…おなまえさん!」


こそばゆくない様に気を付けてもう反対側も押すと、テルがグッとおなまえの手首を掴んだ。
じり、と足の下のテルの体が捩られて、おなまえの膝の内側に熱い物が当たる。
俯いていた状態からテルの横顔がおなまえを見て、赤く染まった耳と熱に浮かされたような瞳におなまえは膝に触れるそれが何なのかを察した。


「…ごめん…?」
「……」


潤みながらも責めるようなテルの眼差しにおなまえは両手を左右に振って意地悪でしたのではないと主張する。


「気持ち良いんならいいかなって…ごめんちょっと無理矢理して!」
「気持ちは…良かったですけど…」


グリ、と太腿に腰を押し付けられる。
いけない、と胸の奥で自分の理性が囁くが、こうさせてしまったのは自分だし可愛い恋人をこのまま放置する方が悪いことだと善意の気持ちを捻じ伏せた。
宥めるようにテルの頬に触れると、彼はおなまえの掌に擦り寄る。


「お鍋の火だけ止めてくるから…もうちょっと待ってね」
「…はい」


少しだけ拗ねるように口元を動かしたが、微かに頷いたテルにおなまえはキスを落とした。


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疲労時である方が男性はアドレナリンが出やすい、という説がある。
追い込まれた状況下でこそ子孫を残そうと本能が命令をしているのだと。
いつもよりも性急な手つきのテルにおなまえはうすぼんやりとそんなことを思っていた。


「は…ん、…おなまえさ…」
「んぅ…っぁ、…はぁ…」


逃げもしないのに掻き抱くように背中に回された腕に、おなまえもテルの首に手を回して応える。
互いの唇に隙間が出来ればすぐに埋められて熱い舌が触れ合った。
吐息が漏れればテルの目が細められて、その顔が凄く愛おしいとおなまえは胸が満たされる思いがする。


「私…テル君のその顔、好きだな…」


微笑んでそう言うと、テルのこめかみから顎元へ汗が伝い落ちた。


「もう…煽らないで…」
「本当のことだもん…」
「はぁ…、…辛くないですか…?」
「んふふ…今日は、サービスデーだから」


新しいゴムの包装を咥えて、唇に挟んだそれを揺らすとテルの目が据わる。


「…知らないよ、本当に」
「女に二言はないんです」
「ハハッ。…取り消すのはナシですからね」


おなまえの口からそれを受け取ると、空いた口をまたテルの唇が塞いだ。
絡んだり吸い合う内、幾度目かの挿入に鼻に掛かった声が抜けていく。
すっかり慣らされて柔らかくなったそこは自身を熱く包んでテルは長く息を吐いた。
じくりと疼く奥に容易く届いておなまえも切なげに眉を寄せる。


「はー…、」
「ぁ、っはぅ…テル…ああっ、ひ…輝気ぃ…!」
「…ん…」


律動の合間に名を呼ぶとテルが上体を寄せて素肌同士が触れ合った。
汗ばんだ互いの体はひやりとして、しかしすぐに体温以上の熱を持つ。
吸い付く襞を掻き分けて突くとおなまえの声に色が増した。
艶めいたその声をすぐ耳元で感じながら、おなまえの首筋にまたひとつ痕を残していく。
打ち込まれる度に足先が痺れて行って、おなまえはテルの髪に指を絡ませた。
おなまえの耳元にもテルの余裕のない息遣いが届いて、それが更におなまえを追い詰める。


「あぅ…っはぁ!ん…イ、イキそ…あぁあ、」
「…はっ…気持ちいい…、…く…」
「あっあっ…!やぁ…んん、テ…ル…っ」
「…あぁ…、イク…っ、ぅ…」


中が締め付けて脈打つのに構わず腰を叩きつければ、肌の触れ合う音と水音が部屋に響いた。
弛緩しながらも突き込まれる快感におなまえが体を震わせて腰を反らすと、グンッと深くを刺激されて声にならない声が喉を抜けていく。
幾度か射精に合わせてグリグリと奥を擦られると、ようやくテルが自身を抜いた。
力なくおなまえの腕が上下を繰り返す胸の上に落ちる。
明滅の止まない視界の中、ペリッとビニール製のパウチを破く音がしておなまえは音のした方に緩く首を動かす。


「…はは…すごいね…」


パチ、とラテックスが装着されたそれが再び硬度を持って起立しているのを見て、おなまえは汗で張り付いた前髪を避けた。
テルも髪を掻き上げて汗を払うと、不敵に笑う。


「次いつサービスして貰えるか、わからないですからね」


これは定期的にガス抜きが必要だな、とおなまえは認識して「近い内にまたするから、お手柔らかにね」と抱き寄せた。






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03.29/余裕のないテル裏
03.31/敬語裏



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