▼仲直りのおまじない(物理)

※REIGEN7話ネタバレ注意(4話ネタともいう)



霊幻さんからのメールを見て急いで事務所に来て見れば、壁は凹んでるし芹沢さんは指一本動かせない。
エクボさんまで忙しなくふよふよしてて、トメちゃんに至っては泣きじゃくってるし、誰よこの体操座りしてる男は。
お客様…ではなさそうだと勘が告げている。


「こんなに酷いなんて聞いてないわよ…」
「うっ…おなまえさん…ごめんなさい…」
「トメちゃん、泣かないで…大丈夫だから。…霊幻さんは?」
『行き違いになったな。数分前に出て行った』
「…急いでって言われたから、テレポートしてきたのに…」


エクボさんに経緯を聞きつつトメちゃんを宥めながら救急車の手配をした。
芹沢さんの状態を確認して事務所の住所を伝え電話を切ると、トメちゃんに言い聞かせる。


「霊幻さんは大丈夫。…これから救急車が来るけど、ビルの前で救急車の誘導したり救急隊員の人をこの部屋まで案内したりしないといけない。トメちゃんにお願いしてもいい?」


正直こんなに泣いてる女子高生に酷かもしれない。
でもこの黒スーツの人を信用もできない。聞けばこの人のせいだというし。
エクボさんに見張らせてもいい…けど、エクボさんも少し霊力が弱まってる。
万が一を考えると無理させられない。
トメちゃんが頷くのを見て、私は霊幻さんが向かったらしい禁足地とやらの場所をエクボさんとスーツの男の人に教えて貰った。
地図を見てこの辺かな、とアタリをつける。


--遠い…けど危険な霊がいるんなら大体目測がつけられる…


「…うん。それじゃあ、行ってくるね。エクボさんトメちゃん後よろしくお願いします」
「はい…」
『気ぃつけろよ』


目を閉じて、地図をイメージする。
衛生映像みたいに日本地図からさっきアタリをつけた場所にどんどんズームしていって、地図の中の点に立っている自分を想像すれば。


「---…もうちょい北…かな」


なるほど禁足地と呼ばれるだけある。
でも…肝心の霊幻さんの居場所はこれから天性の勘を頼りに探さないと。
思いついた方向へと足を向けている最中あることに気が付いて、イチかバチか嫌な感じの霊力を感じる方へと向かうことにした。


---


視界の範囲内で転移を繰り返している内に、背後から霊幻さんの声が聞こえるようになってきた。
でも、エクボさんによれば今霊幻さんはとっても強い呪いを掛けられている。
背後に呪いは感じない。
…偽物だ。
そもそもここでは時間間隔も変化するとか。
転移しながら進んでいても私より先に霊幻さんが遭遇してるかもしれない。
判断基準は呪いの有無頼りになる。
絶えず聞こえる声に構わず進んでいると…。


--…! あった…呪いだ。


呪いの気配を感じてそちらに向かえば、大きく膨れ上がった悪霊が見えた。
そのすぐ側には息も絶え絶えの霊幻さん。
この地の悪霊に呪いの悪霊をぶつけて共倒れさせようとしてるらしい。


--ここでは振り向けない。霊幻さんが逃げるタイミングで…掴まえる!


悪霊が悪霊を食べる醜悪な現場から霊幻さんが立ち去ろうとしたところを見計らって、テレポートで転移して霊幻さんを掴んだ。


「え!?」
「迎えに来ました。逃げます」
「おなまえ…か!?……え、本物…?」


転移を繰り返しながら合流しようと、もうひとつの気配の方へ向かうが。


「…追いかけてきてますね…」
「マジか……ハハ、なんちゅースピードだよ…」
「笑えるなんて随分と余裕なんですね」
「なんかおなまえの顔見たら気ぃ抜けちまった…アレなんとかできない?」
「…アレって、返事、しますかね…」
「さあ……」


こちらは顔を見たら説教してやろうと思っていたのに。
怒ってるんだから。
私には事務所の始末を任せて、自分はこんな危ない所に来てなんとかしようとしたこと。
しかも…


「師匠、おなまえさん。ようやく見つけました」
「!」
「…モブ、か?」


背後からモブ君の声がした。
確かに、もうモブ君に会ってもいいくらい彼の気配が近い。
でも、振り向けない場所なのを考慮して刻んで転移してたのに、通り過ぎるだろうか。
……。


「…モブ君だったら本当にゴメンね」
「え!?」
「あぶな」


振り向かないまま後ろ手に強めに念動力をぶつけると、バリアを張られて防がれた気配。
あ。本物ですねコレ。


「良かった。ここ振り向けないから、このまま帰ろうモブ君」
「はい」


足音が近づいて来ると


「そいつは偽物です。おなまえさん、手を取らないで」


モブ君より更に後方からモブ君の声がした。
隣の霊幻さんは死にそうだった顔からゾンビになりかけている。


「……マジかよ…」
「…困った時は…」


…近い方が本物のモブ君…の、はず。
そこそこの力を当てたのだからもし霊だったら多少弱る。
だけど、あの霊はとっても素早い。
モブ君もいるとは言えもし捕まったら…。


「コレしかない!」


髪が宙に波打つ。
見れれば直接念破を当てられるけど、今は見れない。
モブ君の気配の周囲に狙いをつけて渾身の力を込めると地面が盛り上がって辺りを大きく呑み込む。
中途半端な力では押し切れない霊だから仕方がない。
隆起した地面を伝ってバチバチと霊力が走ると、ひとつの気配が弱まっている。


--弱ってない方が、モブ君…!

「モブ君!」
「はい」


返事と共に地面の山が崩れて、一緒に霊の気配が完全に消えた。
これで振り向ける。


「…あ、モブ君私服だ」
「塾の合宿中だったんです。…なのに師匠が急に呼びつけるから」
「悪いな、急なトラブルで…」
「いつもじゃないですか」


受験生のモブ君を巻き込んで…。
説教に追加しようと心に決めて、二人に手を差し出す。


「虫に刺されるしさっさと帰りましょう。モブ君送るから、掴まって」
「ありがとうございます」
「虫よけスプレーあるぞ」
「もう帰るのでいらないです」



---



モブ君を送り届けて携帯を確認すると、トメちゃんからメッセージとメールが来ていた。
芹沢さんは命に別状はなく軽傷で済んだとのこと。
メールでは救急車が来てから病院への付き添いと帰るまでの状況を都度伝える文言があった。
エクボさんが付いて無事にトメちゃんは家に帰ったようで、皆無事なことに安堵する。


「芹沢さん軽傷で済みましたって。トメちゃんも無事家までエクボさんが送ったみたいです」
「そうか…おなまえも悪かったな、呼びつけて」
「…謝る所が違いませんかね」
「……すみませんでした」


ここ数日仕事が立て込んでいて確かに事務所のシフトには入っていなかったけれども。
それはそれとしてだ。と怒鳴りたい気持ちを事務所の壁を直す方向に向けて少しだけ消化する。


「”事務所頼む”は、まぁ、あの状況でしたからわかります」
「…?…おう」
「”やべーの貰ったから事務所から離れる”も、わかりますよ。でも、なんで私に行き先教えないで、モブ君には教えてるんですか…?」
「…それは…アレだよ…」


凹んだ壁に少しずつ破片を埋めて行きながら話を聞く。
霊幻さんは顔色は良くなったけど、また冷や汗でいっぱいになっている。


「…モブ君、塾の合宿だったんですよね?」
「………」
「私に頼ることよりも、合宿抜け出させて受験生の貴重な時間を奪う方を選んだんですね」
「わ、悪かった…本当に!」


パチリ。
背後で最後の壁の破片が埋まった。
と同時にソファーから立ち上がって霊幻さんの目の前に立つと、ヒールを脱ぐ。
霊幻さんの表情から血の気が引いていく。


「…おなまえサン…?」
「一発で許してあげます」
「………」
「立って」


大人しく従う霊幻さんに向かって、思いっ切り回し蹴る。
霊幻さんは受け身こそ取ったが痛いは痛いらしく声も出さずに床で震えている。
ヒールを履き直してその傍らにしゃがんだ。


「返事はいいので聞いてください」
「……」
「心配とか、迷惑とか、被害とか、最小限にしたかったのはわかってます」
「……」
「あと、なるべく弱ってる所を見せたくないのもわかってます」
「……ぉぅ…」


ほとんど呻き声の返事。


「でも私、もう散々霊幻さんの格好悪い所見てますし」
「ぐ……」
「格好良い所だって見てます」
「………」
「今更遅いんです、除け者にしようとしたって。絶対側にいますから」


痛みが収まってから起き上がった霊幻さんが「…本当に、すまない」と言ってくれたから、「しょうがない人ですね」って言ってあげた。






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