▼密室で密着




ホントにアイツといると碌な目に遭わないなと、閉じ込められたロッカーの中で律は舌打ちをした。
それを聞きつけて、おなまえは涙目で「ごめんね、律君…」と弱々しい声で詫びる。


「違…っ、おなまえちゃんのせいじゃないよ!コレは…ホラ、霊幻さんのせいみたいなもんだから」
「でも…私が気付くのに遅れたせいで…」


霊幻の手伝いに駆り出されやって来た廃墟。
手分けして除霊していくことになり律とおなまえは共に部屋を見回っていたが、その最中に悪霊に襲われて二人揃って狭いロッカーの中で身動きが取れなくなってしまった。

至近距離でおなまえの泣き出しそうな声が聞こえる。
それを宥めようと腕を上げようとするが、おなまえの体の何処かに当たってしまった。


「あ、ごめん」
「うっ、ううん!私こそ…ゴメン、狭いよね」


じり、とおなまえが身を縮めて隅に寄ろうとする。
しかし今度は律の右足に当たり、結局状況は差程変わらなかった。
寧ろゴツとおなまえが頭をぶつけた音がして、律は「危ないよ」と自分の腕をおなまえと壁の間に差し込み庇う。


「本当にごめん…た、体勢辛くない?」
「もう、謝らなくて大丈夫だよ。僕は平気だから。おなまえちゃんこそ無理してないかな」
「え…と……」


電気も通っていない廃墟の中だ。
すぐ側とはいえど互いの顔もよく見えない。
声の動きでおなまえが下の方を見た気がして、「…足踏んじゃってた?」と左足を動かす。
と、おなまえの体に当たった。


「ぅ…、ちがうの…」
「え?ごめん」
「……とね…その、私……足を、閉じたくて…」
「……」


控えめに律の左足が温かく柔らかい感触に挟まれた後、離れる。
それがおなまえの両足だと気が付いて律はフリーズした。


「無理ならね?平気だから…」
「…あ…や、やってみる。けど…」


余りにも狭くて、動ける余地が少なすぎる。
足を伸ばそうにもすぐ頭上にひしゃげた棚が当たった。
やはりこれでは難しい。


「……」
「だ、大丈夫だよこのままでも!背中で立ってられるし…」
「ゴメン…」
「気にしないで……扉、やっぱり開かない…ね」


おなまえが内側からロッカーの扉を叩いてみるも、少しの隙間も出来ない。
低く鈍い音は虚しく外に響いて、近くに霊幻たちもいないみたいだった。
律ももう一度念動力で脱出を試みるが、悪霊の力が影響しているのか反応がない。


「このまま…誰にも気付いてもらえなかったら…私たち餓死しちゃうのかな」


閉鎖的な空間がおなまえの思考をどんどん悪い方へと傾けていく。
律はそんなおなまえを手探りで抱き寄せて言い聞かせた。


「そんなことにはならない。兄さんだって来てるんだ…霊幻さんも、僕らを見捨てるような人じゃ…ないよ。流石に」
「…うん……うん、」


僅かに震える背中を摩ると、おなまえもおずおずと律の体を掴む。
胸に額が押し付けられて、その下にポタと涙が染みて行った。


「絶対出られる。僕もいるから」


おなまえの不安を取り除きたい一心でその体を抱き締めると、胸の中で「律君…」とおなまえが首を傾ける。
吐息が首筋に掛かって、其方を律も見れば近くに体温を感じた。
見えないけれど、きっとすぐ側に互いの顔がある。
自分のものではない甘い香りが。
唇の端に薄く何かが触れた。


「律!」


ガコッ!と喧ましい音と共に空気が吹き込み、二人はハッと外を見る。
焦燥した様子のモブが駆け寄って手を差し出した。


「律大丈夫?おなまえちゃんも怪我してない?」
「だ、大丈夫だよ兄さん」
「モブ先輩…ありがとうございます…」
「二人とも無事か」


瓦礫の小山から霊幻もやって来て、二人が特に外傷もないことを認めると「気をつけろよ」と肩を叩く。
そもそもお前に着いてさえ来なければと言い掛けた律はクイと服の裾が引かれたことで振り返った。
そこには微かに頬を染めたおなまえがいて、先程の名残か瞳を潤ませて律を見ていた。


「律君、さっき…ゴメン、当たっちゃって…」
「当たって……え…?」
「〜っ、あ、いいのっ!何でもない」


勢い良く頭を振ると、おなまえは霊幻とモブの元へ駆け寄って行ってしまう。
去り際に口元を抑えていた姿が律の頭に残って、律も自分の唇に指をやる。
端に触れた柔らかな感触を思い出すと、急に胸が詰まるような感覚と共に血液が体内を激しく巡っていって。
いつまでも移動しない律を心配して振り返るモブの言葉も、遠くに聞こえた。




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04.05/ロッカーに閉じ込められる



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