▼霊幻と猥談




極めて良くない。

目の前にいる彼女を見ながら律は顔を顰める。
兄がこの事務所の手伝いをしているだけでも喜ばしくないのに、最近此処に彼女まで入り浸るようになってしまった。

こんな。
胡散臭い奴なんかの所に。
足を運ぶのも嫌だけれど、迎えにいかなければおなまえが長居してしまうから。

律は不機嫌であることを隠す素振りもなく霊幻を睨みつける。


「えー。律が睨んでくるんだけど。おなまえ、ちゃんと躾けとけよ」
「律君はしっかり調教済ですぅ。霊幻さんこそご主人様が必要なんじゃあないですかぁ?寂しいですねえ独り身は〜」
「……」


不愉快極まりない。
律の眉間の皺が深くなる。


「調教だぁ?そんな歳でよく言うぜ、経験が違うんだよ。霊幻様を舐めるなよ?」
「ペテン師って嘘吐き続けてないといけないんでしょう?大変〜年下相手に必死に虚勢張っちゃって〜」
「……」
「人聞き悪いな。試してみるか?」
「ハハハッ、セクハラ〜」
「おなまえ」


流石に聞き捨てならなくて、律がおなまえを止める。
予想外に低い声におなまえはピクリと肩を震わせると、ようやく罰の悪そうな顔を浮かべて律を見た。


「帰るよ」
「は、はい」


さっきまでケタケタと下品に笑っていたのが嘘のように大人しく律の言葉に従うおなまえ。
自分の鞄を拾い上げると座ってついたスカートの皺を叩いて伸ばし、律の元に駆け寄った。
それを見て霊幻は笑う。


「お前の方が調教されてんじゃん。律がご主人様ぁ?ウケるぅー」
「霊幻」
「な、何」


性懲りも無くおなまえを揶揄おうとする霊幻に、律は中学生とは思えない程ドスの効いた声を発する。
すると霊幻の手元の湯呑にピシリとヒビが走り、霊幻は「あ。ガチで怒ってる」と今更気が付いた。


「次におなまえと下品な話をしてみろ。その口縫い付けてやる」
「物騒だなオイ…」
「商売道具が使い物にならないのは嫌だろう?…警告はしたからな」


そう言って睨め付けた後、おなまえの腕を引いて事務所を去っていく。
静寂がやってきた事務所で、冷や汗を拭って霊幻は深く息を吐き出した。


--怖ぇえええ!!モブの弟マジやべぇ…!サイコパスじゃねーかあんなん…!!


縫い付けられては堪らないと霊幻は自分の唇を守るように手で摩る。
取り敢えず落ち着こう。
茶でも飲んで気を取り直そう、と湯呑みを持ち上げ口をつけた。


「い、って…」


先程律の念動力でヒビが入ったのを忘れていて、口を少し切ってしまう。

"縫い付けてやる"
"警告はしたからな"

律の言葉と怒りの篭った視線を思い出して霊幻はゾクリと走る寒気を誤魔化そうと薄ら笑いを浮かべた。
ピシリと傷に血が滲んでいく。


「ハハハ…まさか…まさかな」




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04.07/霊幻と下品ギャグ



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