▼コンプレックスを上書き




聞いてしまった。
事務所に入るドアを静かに開けて、挨拶の声を上げる前におなまえの耳に入った言葉が喉を強く締めて声を殺した。


『やっぱ女の曲線てのはつい見ちまうよな』
「そうだなあ…て、お前に性欲あるのかよ」
『抜きでも見ちまうモンだろ。さっきの客、ガチの方で残念だったな霊幻』
「オイオイ俺が客をそんな目で見てると思ってんのか?」
『胸見てたろ』
「見てたけど」


『ほらなぁ?』と笑い声が響いて、おなまえはそっと音が立たないように扉を閉めると、俯いて足元を見る。
なんの障害もなく自分の靴が見えて、おなまえは口を固く結んだ。
さっき擦れ違った美女がきっと依頼人だったのだと数分前に見掛けた女性を思い出し、劣等感が募ると視界が滲んでくる。


「…あれ、みょうじさん。どうしたんですか?」


後ろからモブに声を掛けられ、おなまえは反射的に振り返った。
そのはずみで涙が溢れると、モブがぎょっとして「えっ!?あの」と慌て始める。
おなまえは俯いて顔を隠した。


「ごめんモブ君。私、具合悪くなっちゃった。今日帰るね、ごめんね」


一息でそう告げるとおなまえはモブの横をすり抜けて事務所の前から立ち去っていく。
モブは引き留めることも声を掛けることもできないままその背中を見送った。


---


一週間後。
空白のスケジュールを見つめて霊幻はノートパソコンを閉じてギシリと椅子の背にもたれる。
客も来ない。
モブたちが来る時間にはまだ早いし、事務員として雑事をこなしてくれるおなまえも体調不良を理由に休み続けている。
今日でもう一週間だと気が付いて、霊幻はおなまえに電話を掛けてみた。
しかし相手はそれに出ることはなく、終話ボタンを押してメール画面を開く。


「インフル…とかじゃあねぇんだもんな…」


電話には出ないがメールだけは返事をしてくるおなまえ。
一人暮らしなのに体調を崩しては大変だろうと見舞いに行こうとする霊幻を断り続ける内容のものばかりで、文字列を見ているだけで気が滅入りかけてくる。
合鍵があれば押し掛けることもできるが…と霊幻は考えた後重たい腰を上げる。
悩みの元であるおなまえの"今日もお休み頂きます"のメールに返信をすると、恐らくまだ学校と思われる弟子にもメールを送信して事務所の鍵を閉めた。


---


突然鳴ったインターホンにおなまえはそう言えば今日届く荷物があったな、とボールペンを片手に「はーい」と返事をした。
扉の向こうと応答用のモニターからは「お荷物お届けにあがりました〜」と言う声が聞こえ、おなまえは視認しないままドアに向かう。
内鍵を開けてドアノブを回すとおなまえがドアを押すより早くそれが引かれておなまえは固まった。


「生協でーすってな。何だ元気そうじゃん」
「え…せ…?、れ、霊幻さん…?」


開けられたドアからスーパーの袋を引っ提げている霊幻が身を差し込んできて、おなまえが状況把握に手間取っている間に鍵を閉め直し「邪魔するぞー」と中へ進んでいく。
そこでようやくおなまえは我に返り、リビングに続くドアの前で霊幻の腕を掴むと、霊幻の前に立ちはだかるようにドアを背にして制止した。


「なっ、やっ!だ、ダメです霊幻さん」
「えぇ?全然具合悪そうじゃないし、サボリのおなまえちゃんを心配して新隆さんは来てやったんだぞぉ?」
「サボ…りは、すみませんでした…」
「あ。認めるの」
「ぐ。……で、でも駄目です。上げられません。お気持ちはありがたいんですが、帰って下さい」
「えぇー?」


霊幻はおなまえの横をすり抜けようとするが、廊下の壁に手をつかれて正しく前方を塞がれてしまう。
絶対に通さないと立ち塞がるおなまえを見下ろすと、霊幻は溜息をついてスーパーの袋を差し出した。


「わかった、急に訪ねて悪かったな。これ餞別。明日は出社しろよ」
「あっ…す、すみません…ありがとうございます…」


霊幻の言葉におなまえは申し訳なさそうにその袋を受け取る。
と、その隙をついて霊幻が脇からリビングのドアを開け中に入って行った。
「あ"!」とおなまえが振り返った時にはもう遅く、霊幻は室内を見回す。


「…『ボディサプリ』?」
「あぁあ…」


リビングに面したキッチンのカウンターに置かれていたサプリの外装を読み上げてみると、おなまえの顔から血の気が引いた。
チラリとキッチンを覗き見れば豆乳や甘酒、丸のまま買い込まれたキャベツたちが目立つ。


「親族にキャベツ農家なんていないよな?」
「え…えっと……ダ、ダイエットで!そう!ダイエットしてるんです!」


そう言いながらおなまえは出したままにしていた雑誌たちを集めて棚に置き、更にタオルを重ねて隠した。


「…甘酒もダイエットか?」
「お、お砂糖の代わりに甘酒を使うといいんですって」
「…ふぅん」


霊幻はいそいそと辺りを片付け始めるおなまえの様子を後目にソファーにスーツを腰掛けると、「ハンガー借りていい?」と投げ掛ける。
声を掛けられたおなまえが手を止めてハンガーを取りに別室に行くと、棚のタオルを避けてしまわれた雑誌を手に取った。
『美乳体操』、『バストアップのための3つの習慣』、『育乳マッサージ』などの見出しを見つめて、徐にそれらをパラパラと捲り流し見する。
背後で「ハンガーっていうか帰って下さいって…」とおなまえの声が近づいてきて、リビングに入った瞬間「やあああぁぁ!」と大声を出し霊幻の背から肩を掴んできた。


「何してるんですか勝手にぃ!?もう帰って下さい今すぐ」
「お前気にしてたのか?胸」
「む…っ…」


"胸"と言われた瞬間おなまえはぐっと口を引き結んで僅かに顔を歪める。
一瞬肩を掴む指が震えて、すぐに離れた。


「……気に…してたら悪いですか…」
「大きくしてぇの?」
「……」
「全く無いってんでもないのに。…これ効果あった?」
「…霊幻さんだって……」


ペラリと雑誌を捲る音が静かな部屋に響く。
しげしげと内容を眺めている霊幻の耳に、おなまえの揺らいだ声が届いた。


「霊幻さんだって、胸の大きい人の方がいいんじゃないですか。この間お客さんの胸見てたんですよね」
「ん?この間…っていつの話だ?」
「…先週です。エクボさんが、"本当の心霊現象で残念だったな"って…」
「………あー!アレ。アレね」


「聞いてたの〜?」とお道化た調子で霊幻は本を閉じると元あったように棚に戻す。

あの時エクボと何を話していたかはうっすらとしか覚えていないが、恐らくスタイルが良い云々の話をしていたような気がする。
…そうだ、胸だ。胸が大きかった客だ。
それでマッサージ出来なくて残念だったなとエクボに茶化されたのだ。確か。

そこまで霊幻が思い出すと、成程その話を聞いておなまえは自身のコンプレックスを刺激されてしまったのだとようやく理解する。

もしかしたら調子に乗って下ネタまで言ってしまったんだろうか。
いやいやエクボ相手にそんな話素面じゃ絶対しないな。
ただ胸の話をしただけで嫌悪感を抱かれる程おなまえにとってはNGワードだったのだろうか。

そうぐるぐると思考を巡らせていると、いつの間にか目の前のおなまえが嗚咽を漏らしているのに気が付き、霊幻は「えっ…おなまえ?」と肩に触れる。


「そ…そんなに嫌だったか?悪い、きっとあの時の俺は軽はずみに発言してたんだ。おなまえがそこまで嫌悪感を抱くとは…」
「……ちゃう…です…」
「…ん?」
「き…っ、嫌われちゃう。のは…私です、ぅ…」
「え。なんで?」


おなまえの言葉に面食らう霊幻を他所に、おなまえは泣きじゃくりながら「努力しても全く胸が大きくならない」、「成長の見込みがないなんて知られたくなかったのに」と絶望をさらけ出していた。


「大きくならなきゃ霊幻さんに嫌われちゃうぅ〜」
「なら…、オイおなまえ。聞け!ならない!ならねぇって!」
「嘘だぁ…」
「そもそも何で俺が巨乳好きってことになってるんだ?」


霊幻の否定で少しだけおなまえに耳を傾ける余裕が生まれたようで、ぱちり、と涙に濡れた睫毛が上下に瞬く。


「……巨乳を見たからです…」
「…おなまえ。お前は象を見ても鼻は見ないのか?キリンを見ても首は見ないのか。オスのライオンを見ても鬣は見ないか?」
「………見、ます…」
「そうだろう。俺が胸を見たのは謝る。恋人でもない女性の胸を濫りに見るのはよくない。だがな、見てしまった理由はさっきの動物と一緒だ。目立ってたからつい見ただけだ。好みだから見たんじゃない。…それは信じてくれるか…?」


本心だと伝わるように霊幻は真摯におなまえと向き合う。
「……好みな訳じゃ…ない」とおなまえが呟き、それに頷くとスン、と鼻を鳴らしておなまえが頭を下げた。


「ごめん、なさい…一週間も…嘘、ついて…」
「……俺の声も聞きたくないくらい嫌われたのかと思ったろうが」
「ぎゃ、逆です!声聞いたら…願掛けしてるのに会いたくなっちゃうから…」


「大きくなるまで会わないって決めてたんです…」と力なくおなまえが答えると、「やっぱり大きくしたいか?俺はこのままでも好きだけど」と霊幻は尋ねる。


「…もう1カップくらい…は、欲しいかなって…正直思います」
「そうか。…なら良い方法があるぞ」


霊幻はそう言うと不敵な笑みを浮かべて、おなまえの睫毛についた涙を拭った。


---


『揉めば育つ』。
真偽の程も定かでない、もしかしたら迷信かもしれない説を取り上げられておなまえは最初は抵抗した。
しかし「本音言うと愛でたいだけだ」と言い切られてしまいその抵抗を緩めれば、畳み掛けるように「おなまえに俺の好みはこの胸ですってわかって貰わないと困るし」と言われ、とうとう防御していた腕を下げたのはもう随分前の事のように思う。


「はぁ、…っんぅ…」


ひたすら胸を揉み解されるように掌で刺激される。
延々続けられている内に不思議とゾワゾワ痺れるようになってきて、おなまえは目の前の霊幻を涙目で見上げた。


「ぃ…いつまで、触るんですか…っ」
「おなまえが不安に思わなくなるくらい俺の愛を理解してくれるまで?」
「り、理解します…ぅ、!しました!」
「本当かぁ?」
「あぁっ!…ふ、…はぁん…っ」


揉まれ続けていたのから指の間胸の先を挟み込まれておなまえの肩が跳ねた。
揉まれるよりも強い刺激に喉が震えて思わず大きな嬌声が上がる。
しかしもうそれを堪えようとする余力もない程に下腹部が疼いて、おなまえは膝を擦り合わせた。


「すげぇ顔真っ赤。気持ち良くなってきた?」
「ぁ…、あぅ…っ」
「もっと良くなろうなぁ」
「…ん、ひ…ぁら、たかさ…っ、!」
「…どうした?」


コクコクと頷くおなまえの素直さに愛おしさを感じていると、もどかしそうにおなまえが霊幻を呼ぶ。
自然と上がる口端をセーブしながら、素知らぬ振りをしてみせるとおなまえの瞳が切なげに揺れ、胸がゾクリと波立った。


「も…ぁっ、き…きて、欲しい…です」
「まだ下触ってないのにぃ?」
「ん…、ああぁ…っ!は…はぁ…っ」


霊幻の言葉におなまえが身を震わせた。
ビクン、と背を反らして息を吐き出すと短く呼吸を繰り返す。
紅潮したおなまえの目が羞恥に耐え切れずに閉ざされ、手の甲か口許を覆い隠した。


「ぅ…うぅ〜…!嘘、ぉ…」
「胸だけでイケた?」
「あっ!…ん、んふ…っ」
「そんなに声抑えられると…もっと覚えて貰おうかなぁ」
「んぅ!じゅ…十分、ぁっ…わかり、ました…からぁっ!」


スリ、と親指の腹で乳首を面で擦るように繰り返すと、口許から手を退けておなまえが霊幻の腕にしがみつく。


「も…う、お願いします…っ」
「…悪かったよ、意地悪してごめんな」
「…はぅ…、ん」


腕に頬を擦り寄せるように懇願されて、熱い血が霊幻の体を巡る。
焦らしたことの謝罪を込めて唇を落とせばおなまえの表情はすぐに潤けていった。
胸だけで一切触れていなかった秘所は十分すぎる程に濡れていて、霊幻はそこに自身をゆっくり沈めていく。

ざわついた中が迎え入れるように吸い付いてきて思わず息を吐くと、その息が肌を撫でるだけでも感じるようでおなまえがまた反応した。


「んっぁ!…も…やだぁ…っ!」
「は…っ、何でだよ…いいじゃん、」
「あ、うぅっ」
「俺でこんなに良くなっちゃうおなまえ、すげーイイ…」
「ひ…ぅ、あっあ、…!」


きゅうと幾度も中が霊幻を締め付ける。
堪らずに揺さぶって奥を小突くとその度に強い快感が走って、霊幻の息遣いも荒くなっていく。
うねり続ける中に一層深く体がゾワリと総毛立つような感覚の後、やって来た吐精感に身を委ねた。


「はぁっ……ぁー、…ヤバイ」


はぁ、と熱い息を吐き出しておなまえの胸に顔を埋めると、両手で胸を寄せて自分の顔を挟ませる。


「ぅ…な、何が…?」


そのままムニムニと揉まれ始めて、おなまえが反応を抑えるのに困惑しながら尋ねる。
霊幻は窒息するのではという程寄せてできた谷間に顔をしばらく埋めると、大分時間を掛けてから顔を上げた。


「…全く収まんねぇ…」
「い…言わなくていいです…っ」
「んー」
「うぅ〜…」


霊幻は一番おなまえの中から自身を抜くと、また新しいゴムを用意する。
その合間もふにふにと片手でおなまえの胸を揉みながら胸の先に舌を這わせて来て、熱を冷め切らせることが許されずにおなまえは掠れた声で呻いた。
再び自身を宛てがいながら、霊幻は「一週間、放って置かれたから溜まっちゃってるんだよなぁ〜」と笑みを深める。


「ダイエット始めたんだっけ?そっちも協力できるぞ」


そう細められた瞳に、もう彼に嘘はつくまいと固く心に誓った。



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03.31/貧乳夢主がひたすら乳首責めされる



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