▼JOKER




「キミは隠し事に向きませんね」


そう言われたのは待機中、たまたま二人になった時だった。
突然何を言い出すんだと怪訝そうに顔を顰めるが、島崎はどこ吹く風でその長い足を組んでみせる。


「…何の話?」
「さっきしてた…トランプゲームですか?」
「ああ。ババ抜き」


特に指令もなく、ついさっきまで暇そうにしていた芹沢と羽鳥を巻き込み、ババ抜きをして時間を潰していたのだ。
後からやって来た島崎はそのゲームの様子を見ていたのだろう。
正確には参加している面々の様子を見ていた、だろうが。


「ババ抜き、ということはジョーカーを引いた時ですね。気が乱れて、とってもわかりやすかったです」
「へえ?ポーカーフェイスには自信あるつもりだったんだけど、そこまで気が回らなかったなぁ」


島崎には目を向けないまま「勝って良かったぁ」とケラケラ笑ってみせるおなまえの方を向いて、そのままおなまえの様子を観察するように島崎はじっとしている。
それに気が付いて「…どうかしたの」と聞いてみれば、島崎はそれに答えずに立ち上がりゆっくりとおなまえの方へ向かってきた。


「…な、何…?」
「……違和感があるなぁと」
「違和、感?自分にじゃなくて?私に?」
「失礼しますよ」


そう断ると熱を持った島崎の掌がおなまえの頬や瞼、鼻筋や唇に触れる。


「なっ何急に…どうしたの?」
「おなまえってこんな顔してるんですねえ」
「…今更それがなに…?」


「ポーカーフェイスに自信がある、と言っていたので」と言いながらペタペタと触れる手。
一体何を確かめているんだとおなまえが戸惑っていると、すぐ側に島崎の顔が寄った。


「ちょっ…近い…!」
「…ふぅん…」


昏い瞳がおなまえを覗き込むように見つめる。
盲いているから触感で確かめていたはずなのに、今島崎は確実におなまえを"視て"いる。
目が合っていると直感で伝わって、おなまえは気恥ずかしさに頬を抑える島崎の手を払おうとするが確りと抑え込まれて離れられなかった。
それどころか後ずさったおなまえとの距離を島崎が詰めてくるものだから、数歩更に下がり背中に壁が当たる。


「し、島崎?退いてよ」
「まだ見てる途中です」
「何がそんなに見たいのよ…もう顔は十分でしょ!?」
「本当に眉一つ動かさないんですね」


「こんなにオーラはブレブレなのに、面白い人ですねえ」と島崎が口端を引き上げた。
まるで胸の内まで覗かれているような気配に、おなまえの背筋にゾクリと痺れが走ると思わず渾身の力を込めて島崎の手を振り払い膝蹴りをする。
存外にすんなりと手は離されて、しかし膝はおなまえの頬を解放した左手で難なく抑えられてしまうと島崎が更に愉快そうに喉を鳴らした。


「そんな顔も出来るんですね、興味深い」
「ひ…人をからかうのも大概にしなさいよ…っ」


胸騒ぎがする。
今まで経験したことがない程危うい気配も。
顔に熱が集まって、恥ずかしさと悔しさが入り混じれたような感情に唇を噛む。
意図はわからないが揶揄われていることだけは確かだと島崎を睨みつけると、抑えられている膝に力が込められて足の間に島崎が身を寄せて来た。


「ちか…近いんだって…!」
「今日、何か違うんですよねえ。私が部屋に入ってきた時から。何が違うんでしょう」
「し…しらな…」
「……」


間近にある整った顔立ち。
その顎に掌底を掛けるように距離を保つと、鼻腔に清涼感のある香りが届いた。
すると突然大きくおなまえが動揺して能力で弾かれるように島崎は突き飛ばされる。


「どうしたんですか、急に」
「どうしたじゃない…服を!着なさいよ!!」


するとおなまえは手近に掛けてあったブランケットを島崎に投げ付けた。
島崎の手前で落ちかけるそれは念動力で浮かされ島崎にぶつかる。
シャワーを浴びて暑いのか、今の島崎は下半身しか衣服を身に着けておらずおなまえは目のやり場に困っていたのに、それをからかわれて腹を立てていた。


「わかっててやってんでしょ!…もうアンタと任務行きたくないわ」
「それは残念ですねえ。明日から私たち、出張ですよ。ツーマンセルで」
「………」
「四泊五日の日程です。よろしくお願いしますね」
「チッ…本当に残念だわ」


おなまえが最後に舌打ちをして徹底して島崎を見ないように部屋を出ていく。
その様子を再びソファーに腰掛けながら島崎はニコニコ見送って、閉まるドアに呟いた。


「…本当にあなたは隠し事が下手だ」






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04.08/04.10/島崎にムラっとしたのがバレる



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