▼一口で十分




次々と運ばれてくるレーンの上のデザートたち。
どれもカラフルでその見目にも癒される、とおなまえはうっとりと息を零した。


「嗚呼…幸せだぁ〜」
『太るぞ』
「女にそれ禁句よプリンちゃん」
「そうよプリンちゃん」
『……』


魔津尾と共にスイーツ食べ放題に来ているおなまえは既に5個は流れてくるケーキを平らげていて、それでも尚新しい皿に手を伸ばそうとしている。
一皿一皿は小振りではあるが、それも数をこなせば結構な量だろうによくもそんなに食べられるものだなと最上は二人の食事風景を見下ろしている。
そんな中携帯の着信が鳴り、「あら仕事の時間だわ」と腕時計を確認して魔津尾が席を立った。


「ええー、そしたら私ぼっちメシになっちゃいますよぉ」
「本当におなまえは寂しがり屋ね。プリンちゃん置いてくから一緒に食べてあげてね」
『何…?』
「じゃあごゆっくり〜」


食べて上げてねも何も霊体なのだが。
そう言い返す隙もなく魔津尾はお金を置いて出て行ってしまった。
置いていかれた二人はその背中が消えてしばらくすると見つめ合う。


「……何食べますか?最上さん」
『私はいい』
「えー、それじゃあ一人で食べてるのと変わらないですよぅ」
『…ならこうしてやる』


一瞬下瞼を引き上げて嫌そうな顔を覗かせたが、最上は口端を上げて目の前を流れているパフェの皿を浮かせると、スプーンを差しておなまえの方にそれを向けた。


「え。あーんしてくれるの?」
『自分でやるか?』
「それどんだけ寂しい人よ。やってやって!」


そう言って口を開けてパフェのスプーンが差し込まれるのを待っているおなまえ。
霊感のない人が見たらさぞかし不気味な様子なのだろうなと最上は笑うが、口にはしなかった。
アイスと生クリームが乗ったスプーンをおなまえの口に運んでやると、彼女は嬉しそうにそれを頬張る。


「美味しい〜。やっぱり誰かと食べるのっていいよねぇ」
『悪霊とでもか?おなまえは変わった神経の持ち主だな』
「最上さんにもあーんしてあげようか?」
『いらん』
「あ。プリンが良かった?」
『……』


黙る最上の背後から赤黒く禍々しい気が立ち上る。
それを見ておなまえはギョッと目を見開いた。


「やめてやめて!やめるから怖いオーラ出さないで!本気で怖いじゃんやめるからやめて!」
『…御しきれない相手に軽口を叩くのも程々にしてくれよ』


私でなければ呪い殺している所だぞと言われて、「そもそもスイーツを食べにくる霊なんて他にいるんだろうか」と疑問が沸く。
最上は自分で食べに来たのではないが。


『お前いつまで食べるつもりだ』
「とりあえずあと6種類は食べて帰りたいかなって」
『……まさかそれ、全種じゃないだろうな?』
「え?全種だよ?今の所の」


信じられん。気でも狂ってるんじゃないのか。
食べていないのに自分の口の中まで甘く粘着きそうで、最上は口元に手を置いて眉を寄せる。


「最上さん、またあーんしてよ。食べさせて」
『…お前これがどう見えるかは気にならんのか』
「私には最上さん見えてるから、別に」
『……後で消費した分は補わせて貰うからな』
「ん?」


最上は溜息をついて、おなまえの顎に指を掛けた。
体温はないがしっかりと輪郭が触れて、重量がある。
その指が僅かに下に力を込めて、一度閉じたおなまえの口をこじ開けると二口目のパフェが放り込まれた。


「ん…ん!?」


おなまえが驚きながら舌の上で溶けていくアイスを堪能していると、最上も自分で一口食べた。


『…甘い…』
「そりゃ…スイーツだもんしょっぱいものは流れてないよ」
『コーヒーをひとつ』

--しれっと注文してる…!


店員にドリンクの注文をして最上はキィと小さな音を立てて外側を向いていた椅子を正面に直した。
その足元には革靴があり、「え。本当に実体化してる?」とおなまえは最上の腕にペタペタと触れる。


『一人で食べたくないんだろう』
「…!本当にいいの?!ありがとう最上さん」


「じゃあハイ!あーん」と白玉あんみつの乗ったスプーンを差し出されて、最上は渋々それを口に入れた。


『二口目からは自分で食べろ』と言うと、店員が持って来たコーヒーに口を付け、ただ食べるおなまえを眺めている。
一口食べる毎に顔を綻ばせるおなまえに、『君は幸せな奴だな』と最上もつられて笑った。



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04.08/最上でほのぼの
04.09/最上とスイーツデート



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