▼言質を取られる

※「霊気は〜(夏の事務所〜)」のつづき



「じゃあろくにお構いもできないんだけど、ゆっくりしていってね茂夫君」
「はい。おなまえちゃんのお母さんも気を付けて」
「…いってらっしゃい」


パタリと玄関が閉まる音がして、モブくんと私は家に二人きりになってしまった。
なってしまった、っていうのはちょっと違うかも。
気持ちとしては、二人きりになれた、が正しい。

私のお母さんは今月は町内会の役員の当番だかなんだかで、夏はお祭りや花火が多いから必然外出する機会が増えた。
それで最近夕飯を一人で食べてると前に話していて、じゃあ今度うちでご飯食べていきなよ、みたいな会話をちょっと前にモブくんとしたことがある。

もしかしたらモブくんはそれを覚えていて今日、送ったついでに家に上がってきたんじゃないかって。考えすぎかな。
もしそうだったら、やっぱり"二人きりになってしまった"が正しいんじゃあないかな。
だって一時間ちょっと前まで私たちは事務所でソウイウコトをし掛けていて、その余韻を帰り道でも引き摺ってお互いに黙りこくったまま歩いてたんだから。
家に帰って、一人になれば気恥しさも薄れると思っていたのに、モブくんがいたのでは他に気の紛らわせ様もない。


「お茶、部屋に持って行っちゃって平気かな?」
「えっ!?あ、うん!ゴメンね私持つよ」


お客様に持たせる訳には行かないとトレーを持って階段を登って行く。
持って行ってから「テレビも見れるし、リビングにいるままでいた方が気が紛れたのでは」と気が付いたけれど、振り返れば既にモブくんが私の部屋のドアを閉めていた。


「あ」
「お茶、持ったままだと危ないよ」
「う…うん」


私がドアを振り返って声を零すと、モブくんが私の手からトレーをテーブルに置いて、空いた私の手を滑るように掴んでくる。
直後畳まれてる敷布団の方に押された。
"危ない"って、モブくんが危なくしてるんじゃないか。
スローモーションみたいにひっくり返る部屋の中そう思った。


「も…モブくん…危ないよ」
「だから、お茶置いたよ」


両手首を敷布団に押さえ付けられたまま、薄々こんな気もしていたのに、ちょっとだけドキドキもしたいと思ってた自分を心の中で叱ってやった。
そう、薄々思ってたよ。
いつも何も言わないのに、今日は"私を家まで送るから"ってエクボさんを帰らせてた時点で、モブくんはそのつもりだったんだろうなって。

事務所の続きを、するつもりだって。


「モブくん…もしかして、私一人になるの…覚えてたの…?」
「ううん。おばさんが出て行ってから思い出したけど」


そう言いながら私の手首から腕、肩から胸へとモブくんの指が私の体の上を滑っていく。
私の胸でその手は止まって、「ドキドキしてる」と小さな声で言われる。
「そ、りゃあするよ…」と私は俯いた。


「でも、いてもするつもりだった」
「うっ…嘘でしょ…!?」
「嘘じゃないよ」


普段のモブくんからは信じられないような発言にドキドキを通り越して心臓が爆発しそう。
私を見下ろすモブくんの顔は確かに冗談でそんな事を言いそうになんてなくて、こんなスイッチが入ってしまうのなら面白半分に擽るんじゃなかったと後悔した。
そんな私を他所に、モブくんは「良かったね。おなまえちゃんの声、聞かれなくて済むよ」と服の中に手を差し込みながら首筋を舐めてくる。


「…っ、い…意地悪だよ、モブくん…」
「……ご、めん」


私がそう言うと、モブくんはハッとして手を止めた。
ショックを受けたような顔で体が離れて、彼を傷付けてしまったんじゃあ、と私は焦る。


「あ!で、でもね、嫌な訳じゃないんだよ?」
「…嫌じゃないの…?」
「は、恥ずかしい、だけで…」
「……」


モブくんはまだ視線を私から外して、離れたまま黙っている。
嫌った訳じゃあないのに。
私が恥ずかしさで頭が沸騰しそうになっただけだ。
だけ、で済ませられるようなことじゃないけど。
でもモブくんを悲しくさせるのと私が恥ずかしいのとどっちが嫌かって思ったら、モブくんが悲しい方が嫌だ。


「モブくんが意地悪でも…す、好きだから…!」
「………じゃあ、」


モブくんの膝の上に置かれているその手に自分の手を重ねる。
一時の恥くらい何さ!と勢いで言い切れば、モブくんの指がゆっくり私の指に絡んでいく。


「続き、してもいい…かな」
「ぅ…」
「嫌じゃないんだよね?」


言質を取られた。

それが意地悪なんだって視線で訴えるけどモブくんはまだ不安そうに私を見ていて、これでは責める素振りも出来ないと私は観念して頷いた。


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意地悪と言われて、「ああ僕、おなまえちゃんが嫌がってるのに無理強いしようとしてる」って我に返った。
おなまえちゃんの赤い顔を見てるとつい、胸がすごくザワついて…さっきの中途半端だった熱が逃げ場を求めてるみたいに暴れて歯止めが利かなくなっちゃうんだ。

抑えないと。
おなまえちゃんがしたくないなら、僕が我慢すればいい。
怒らせたり怖がらせたりしたくない。嫌われたくない。
おなまえちゃんから離れて、膝の上で両手を握り締めた。
そうしないと、性懲りも無くおなまえちゃんの手を縛り付けてしまいそうだったから。

僕が離れると、おなまえちゃんは驚いたような焦ったような、ちょっと早口で「でも嫌じゃないんだよ」って言ってきた。
…おなまえちゃんは僕が半ば無理矢理、その…押し倒したりしたから嫌な気分になったんだと思ってたのに。


「…嫌じゃないの?」
「は、恥ずかしい、だけで…」
「……」


おなまえちゃんが赤い顔のまま困った表情を浮かべる。
その顔を見てるとまたソワリとしそうで、視線を外した。
そうだ。こういうの多分、目に毒って言うんだ。
見てるだけで、さっきみたいなことをしたくなる。
おなまえちゃんの言う意地悪をしたくなる。


「モブくんが意地悪でも…す、好きだから…!」


我慢するって…決めたばかりなのに。
そんなことを言われたら。


「……じゃあ、」


僕の手を包むおなまえちゃんの指を拾って、自分のと絡ませる。


「続き、してもいい…かな」
「ぅ…」
「嫌じゃないんだよね?」


おなまえちゃんが一瞬強い視線を向けてきたけど、すぐにそれは揺らいで伏せられた。
ゆっくりだけど確かに頷いたのを見て、その顔に唇を寄せる。
してもいい、と許して貰うことがこんなに安心することだなんて思わなかった。
おなまえちゃんの体を抱き締めると、背中に手が回って抱き返される。
さっきの時みたいに、甘い匂いがふわりと香って胸がきゅうと苦しくなった。


「おなまえちゃん…」


胸の苦しさを吐き出すようにおなまえちゃんを呼ぶと、ピクリとその肩が揺れる。
腕の中で彼女が身じろいで、僕を呼び返した。
またキスをすればすぐに鼻にかかった声が隙間から漏れて、燻ってた火が灯るみたいに体が暑くなっていく。
少し目を開ければ恍惚とした表情で必死に応えているおなまえちゃん。

やっぱり可愛い。

僕しか知らないおなまえちゃんだ。
さっき途中で触れなかった脚に掌を滑らせて、少しずつその手を上に持っていく。


「ん……、はぁ…っモ、ブくん…」


足の付け根を摩ると、おなまえちゃんが焦れったそうに腰を浮かせる。
期待の籠った声で呼ばれて下着の隙間から指を差し込んだ。
事務所からずっとそうだったのか、おなまえちゃんのそこは指一本なら苦しげもなく入るくらい濡れてて、その中の熱さに息を飲んだ。


「あ、ぁっ!…はぅ…、ん」


甘い声が鼓膜を震わせる度に首の後ろがゾワリとする。
もっと聞きたい。
もっと。

中の指先を探らせたまま親指に溢れたおなまえちゃんのを絡ませて、入口の上の方で固くなっている芯を擦った。
すると一段と高い声が上がっておなまえちゃんが背を反らす。
いつおばさんが帰ってくるかわからないから、服は着たままなんだけどそれが余計にイケナイことをしているって意識を煽ってくる。
でも止められない。
やめたくない。

クチュクチュ音が立つくらい濡れてきたそこは指を増やしてもおなまえちゃんが苦しくならないくらいには慣れてきたみたいだ。
ゆっくり指を引き抜くと、それだけでおなまえちゃんは体を震わせる。
物足りなさそうにその目が僕を見て、隙間を埋めるように僕のを宛がった。


「ん、あぁっ!は…はぁ、……っ」
「……、ぅ…」


少しずつ身を沈めれば、暖かくて柔らかいのにきゅうと締め付けられて息を詰める。
全て収めて止めていた息を吐き出すとまたおなまえちゃんの中が締まった。
首に腕が回されて、おなまえちゃんが身を起こす。
その背中に僕も手を回して支えると互いに舌を合わせあった。
唇を吸ったり上顎を舌先で撫でたりしながら体を揺らすと、くぐもった嬌声が上がる。


「ふっ…ん、んんぅ…!」
「…はぁ……、おなまえ…」
「っ……あ、!」


気持ち良さそうにおなまえちゃんも腰を合わせてきて、中が擦れる度にジンと体が響く。
片手をおなまえちゃんの腰に掛けると奥を突かれて震えているのが伝わって、イキそうなのがわかった。
頭を抱かれるようにおなまえちゃんがしがみついてきて、僕もその胸に額を押し付けて押し寄せてくる快感に身を任せる。
数回腰を打つと強い締め付けの後中がうねって、そのまま僕も熱を吐き出した。


「は…っ、はぁっ……」
「…、…」


汗で服が張り付くのも構わずに抱き締めあって充足感に浸っていると、おなまえちゃんがケホ、と乾いた咳をする。
そう言えば水分を摂ってなかったと思い出して、テーブルのコップを引き寄せておなまえちゃんに渡した。


「ありがとう…」
「…温くなっちゃったね」
「ん…でも水分は水分だよ」


顔に張り付いた髪を指で横に流しながら、麦茶を飲んで上下する喉を見ていた。
白い喉を晒して一気にコップの中を飲み干しているおなまえちゃんは「ふぅー!」と息をつく。
唇の端を拭おうとしているその手を止めて、ぺろりと舐めてみた。
ほんのり甘い素肌と麦茶の香りが少し、あとしょっぱい。


「も…モブくん…!?」


急に舐められておなまえちゃんが身を固くしている。


「塩分補給も、大事なんだって」


夏は汗をかくから、と続けると「舐め尽くすつもりなの…!?」とおなまえちゃんが身構えて、それもちょっと悪くないなと思ったけど口に出すのはやめた。



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04.08/「夏の事務所〜」の続き裏夢



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