▼人を見る目




学校から一旦帰宅して、ささっと着替えてから習い事用のバッグを担いで外に出た。
バス停に向かって早足で歩いていると、後ろから「よお」と声を掛けられて振り返る。


「? あ。えっと…」
「昨日会ったよな?みょうじっつったっけ?」


呼び止めたのは昨日律君と一緒にいるのを見かけた男の子だった。
私の帰り道の途中に二人がいて、クラスメイトの律君に挨拶をした時に少しだけ話した。
そんなに長くはいなかったのに、昨日の今日で出会って声を掛けてくるなんて社交的なんだなあとおなまえは思う。


「う、うん。みょうじおなまえ。君は…律君の友達だよね。ソウ君だっけ」
「惜しいな〜!ショウだ。鈴木将」
「あー、ごめん間違えちゃった」
「いいっていいって」


ニカッと歯を見せて笑う顔が愛嬌があって可愛いなと思った。
人見知りしない性格なのかな、凄いなぁとショウのエネルギーに押されておなまえまで笑顔を浮かべれば、名前を間違えてしまったことの気まずさも消えていくみたいだった。


「おなまえ制服じゃねぇな?出掛けんの?」
「あ!うん。習い事してて…バスに乗るんだ」
「マジか。じゃあ急いでたか?悪いな引き留めて」
「ううん!止まったの私だし」


そう言いながら腕時計を見て時間を確認する。
バス停までここから数十メートルある。
「走れば間に合うから」とバス停の方向を指差して別れの挨拶を告げようとしたおなまえの腕が強く引かれた。


「え!?す、鈴木君!?」
「走らないと間に合わないんだろ?ホラ!」


おなまえの腕を引いたまま駆け出すショウの視界にバスが入る。
「あのバスか?」とおなまえを振り返れば、頷いてみせたが走っていては伝わらないかとおなまえが「うん!」と大きく返事をした。
ギリギリで滑り込んでバスに乗り込むと、荒く息を吐き出すおなまえに対してショウはケロリとして「間に合って良かったな」とまた笑う。
息を整えながらおなまえはショウを見て、ショウは「どうかしたか?」と彼女が落ち着くまで言葉を待った。


「鈴木君までこのバス、乗っちゃって良かったの?」


普通にICカードをタッチして乗り込んでしまっているのだが、彼はバスに乗るつもりはなかっただろうに。
おなまえの心配を余所にショウは手をヒラヒラさせて「いーのいーの」と言ってみせる。


「どうせ俺暇してたから。昨日あんまり話せなかったしさ」
「あ…そう、なの?…うん」


昨日会ったばっかりなのに距離が近い、とおなまえが思う隙も与えないかのようにショウが質問してくる。


「習い事だっけ?何してんのー?」
「…ロックダンスだよ」
「へぇ〜!おなまえダンスできんの!」
「できるって程じゃないけど…まだ、勉強中だし…」


内向的な性格のおなまえがダンスだなんて、自分でもイメージに合ってないとは思っている。
だから学校の友達にも習い事の話は言っていない。
今さっきフルネームを知ったような相手に、友達にも話していない秘密を話すことがなんとなく胸をざわつかせて、笑われるんじゃないかという不安と恥ずかしさも相まりおなまえは俯いた。


「何か楽しそうだなあ。いいんじゃねーの、似合ってるよ」
「え?に…似合ってる?」
「昨日見た時から思ってたんだよな、手足長ぇなって」


「ダンスが映えるんじゃねぇか?俺素人だけどさ」と言うショウの目に世辞や嘘のようなものは混ざっていない。
本心で言っているのだとなんとなく伝わって、おなまえは「そんなの、初めて言われたよ」とまた俯いて頬を染めた。
ショウの視線を右頬に感じながら、最寄のバス停のアナウンスにハッとして降車ボタンを押す。
するとショウはおなまえについて一緒に降りた。


「なんか…ごめんね鈴木君まで付き合わせちゃった」
「ショウでいいって。俺もおなまえって呼んでるし」
「あ。う、うん」
「それとさ」


ずっと下を向きがちのまま返事をしていると、温かな両手がおなまえの両頬を挟んで上を向かせた。


「折角可愛い顔してんだから、俯くなよ。よく見えねーじゃん」
「きゃ…か…っ…ショウ君…っ」
「ホラやっぱり」


ほとんど同じ目線の高さで、ショウとおなまえの視線が交わる。
大きくて力強いショウの瞳の中に自分が映ると、その目が細められた。


「俺、人を見る目あるんだぜ?自信持てよ」


「な?」と言われながら肩をポンと軽く叩かれ、「じゃあな。ダンス頑張れよ〜」と声が離れて行く。
声が緊張で震えることなんか気にしていられなくて、おなまえは「ショウ君!」と呼び止めた。


「ん?」
「あ…ありがとう!またね!」
「…おう!またな」


おなまえの言葉に、ショウはまたニカリと笑って見せて手を掲げて指を曲げて見せた。





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04.01/04.05/ショウ夢




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