▼大人になる

講義終わり。
いつもなら改札に向かう駅を通り抜けて、ある場所へと向かう私の足取りはとても軽快。
最近忙しかったから、今日は久し振りに寄れる。
あの人に、会える。


--次に会った時の約束、覚えてくれてるかな。


勇気を振り絞って強引に取り付けた約束。
思い出しただけで顔から火が出そうだけど、あの時の自分の努力を無駄にしたくない。
一瞬足を進めることを躊躇った自分に喝を入れて、ポケットから電話を取り出した。



---



ドアノブを回す手が震えた。
大丈夫、ビルに入る前に手鏡でどこも乱れはないのは確認した。
電話だって、いつも通りにできた。
何も変じゃない。
自分に言い聞かせながら「こんにちはー!」と声を上げる。
うん。いい調子だ。
中に入れば、新聞を読んでいる霊幻さんがいた。


「よお」
「ちょっとだけお久し振りです」
「そうだなあ。何でだって言ってたっけ?」
「ゼミで発表があって。纏めるので少し忙しかったんです」
「ああ…。終わったの」
「今日ようやく!」


「肩の荷が下りました〜」とテーブルに伏せれば「お疲れ」とカップを差し出して貰った。
そのまま受け取って口をつけようとすると「危ねーだろ」と苦笑いされて取り上げられた。
仕方なく身を起こして受け取りなおす。


「他にも怒涛のレポート提出でもう本当に大変だったんですよー!」
「華の女子大生は大変だねえ〜」
「想像してたのと違う…もっと毎日キラキラしてると思ってました」
「誰しもそうやって理想から現実に向き合って大人になるもんだぜ」


その言葉を聞いてぐったりと項垂れていた顔を上げる。
私と目が合った霊幻さんは一瞬面食らったような顔をしたけど、すぐにさっき読んでた新聞に顔を向けた。


「霊幻さん」
「どうした?」
「前した約束、覚えてくれてますか」
「……」


カサリ。
新聞が捲られる。


「次来た時、私の気持ちが変わってなかったら…続き、してくれるって」
「……覚えてるよ」


また新聞が捲られて、私は霊幻さんがこっちを見てくれるのを待った。
少し間を置いてから霊幻さんは新聞を下げて、私を見る。


「心変わりはしてねーの?」
「してません」
「…じゃあ、付いて来い」


答えた私の目から真意を測るように視線が突き刺さる。
反らしたらきっといけない。
反射的に堪えれば、顎で示されて席を立った。
霊幻さんも立ち上がって歩き出すからその後に続く。
事務所を出て町に出るのを不思議に思って「外出るんですか?」と聞けば「そりゃあ…まあ」と言い淀む霊幻さん。
疑問に思いつつも早足の背中を追って行った。



---



「わぁ…思ったより普通…」
「どんなの想像してたんだよ」
「えっと、ピンク色の照明とか?」
「目に痛いな」


霊幻さんに連れられて入ったのはラブホテルだった。
初めての空間に緊張も相まってちょっと浮き足立つ。
所在無くソワソワしていたら「先にシャワーどうぞ」と首元を寛げながら言われてハッとした。
そうだ、汗かいてる!
お言葉に甘えて脱衣所に入った。


--…か、体流すだけ…でいいんだよね?


髪まで濡れたら乾かしてまたセットするのが大変だし、メイクも多分落とさない。
洗面台にあった髪留めで髪をアップにして、シャワーが顔にかからないように気をつけながら泡立てたタオルで体を洗っていると。


「入るなー」
「!!れ、霊幻さん!?」


背後のドアが開いて腰にタオルを巻いた霊幻さんが入ってきた。
慌てて前を隠す。


「何で急に入って来てるんですか!」
「ホラ、おなまえこういうとこ初めてだから。指南してやらないと」
「た…確かに」
「でもちゃんと髪上げてるし今の所言うことないから、湯溜めとくな」
「え、ハイ」


湯張りボタンを押して私の横からシャワーを取ると、「背中流してやろうか?」と私のタオルを指さす。
その手にタオルを差し出せば、柔い力で背中が洗われていく。
肩の後ろから背中、脇腹と少しずつ降りていって腰まで来た時に我に返った。
何処までが背中なんだろう。
も、もう腰まで来たんだからもういいよね。
そう思って「ありがとうございます」と半身を返してタオルを掴んだ。


「アレ。まだだけど」
「もう大丈夫ですから!あ、あとは自分で届きます」
「ふーん。じゃあ次俺の体流して貰いたいなあ」
「は…はい…」


さっきして貰ったように霊幻さんの背中を洗っていく。
初めて見る素肌の背中にやけにドキドキしてしまって、時たま背に触れる指先が熱い。
一通り洗い終わってシャワーで流せば「…前は?」と肩越しに見て来た。


「ま、前…って…」


真っ赤になってどぎまぎしてしまう私に、霊幻さんがニヤリと笑ってようやくからかってるんだって気が付いた。
その顔がすごくかっこよくて狡い。


「冗談もほどほどにしてください…!」
「…ま、半分はな〜」


笑いながら自分で洗い始めるのを見て少しホッとした。
冷えるからと言われて先に湯船に浸かると、いくらか落ち着いてきた気がする。
家のものよりたくさんのボタンがあるパネルを見れば、泡のボタンが目に入った。
もしかして泡風呂になるのかな?
興味が勝って指がボタンに伸びる。


「気になんのか?」


洗い終わったのだろう霊幻さんの声が思ったよりも近くて、伸びていた指が止まる。
私の指がボタンを指したままなので霊幻さんが泡ボタンを押した。
そのまま浴槽に入ってきて、体の近さについ俯く。
浴槽にはどんどん白い泡が出て来て、あっという間にモコモコの泡でいっぱいになった。


「おおー…すごい…!」
「凝ってんなー」


泡に感動して他のボタンを見る。
霊幻さんが照明のボタンを押したら一気に浴室が暗くなり、浴槽の中からピンクや青のライトが浮かび上がった。
なんていうか、非現実的な空間だ。


「…ラブホっぽい」
「実際そうだし」
「イメージしてたのコレです」
「泡がなかったら目に刺さりそうなくらいキツイ」


確かに、と笑っていると不意にお腹に手を回された。
あ…と思う間もなく引き寄せられて振り向かされれば唇が合わさる。
目を閉じて口を開けば舌が差し込まれて触れ合う。
自分からも差し出すように舌を出せば、吸われたり絡み合ったり気持ちいい。
そのまま霊幻さんの手がウエストからゆっくり上がってくる。
くすぐったいような怖いような、不思議な感覚が背中を伝ってピクリと体が小さく跳ねた。
それが面白かったのか、唇が離れて一瞬霊幻さんが笑う。
笑わないで下さいと言いたかったのにまた口を塞がれたから叶わなかった。

上がっていく手は私の胸を包むと緩い力で揉みながらその先を親指で転がす。
揉まれてるだけなら何ともなかったのに、先端を弄られただけで痺れるような感覚が走ってキスの合間にくぐもった声が洩れた。


「…は…っ、…ぅ」
「…摘まれる方が良いか?」
「よく…、わかんない…ぁっ、!…です…」


片方は摘まれて、もう片方に舌が這わされると、さっきより痺れが強くなる。
霊幻さんは私の様子を見ながら動きを変える。
それが恥ずかしくて手で顔を隠すと舐められていた方を強く吸われて大きな声が出た。


「んあぁっ!…、っうぅ…」
「…吸われる方が好みね」
「言わ、ないで……」
「ちゃんと気持ちよかったら声出せよ。ヨくしたいんだから」


そう言いながら今度は逆の方を吸われる。
吸われながら舌の平で舐め上げられると鳥肌が立つような波が起きて、なんだかお腹が苦しくなった。


「…あ、っ!霊幻、さん…それ…気持ちいい、です…っ」


顔は恥ずかしくて隠したままそう言えば、吸われたままゆっくり舐められる。
ゆっくりされると、気持ちいいのがさっきより強くて声が止まらない。
頭がフワフワする。
すると体が持ち上げられて浴槽の縁に上げられた。
突然のことに抵抗できずにいると、足を広げられて秘所が露わになる。
一瞬で頭が冴えて足を閉じる前に支えている手に力を込められて閉じることが出来ない。


「れい、げんさん…何して…っ」
「慣らすんだよ。なるべく痛くないように」
「う…」


私を気遣ってのことと言われるとつい抵抗の力も弱まる。
その隙を突かれて舌がヌルついたそこを這う。
胸の時より熱く感じるそれが、何度も溝をなぞるように上下するとまたお腹が苦しくなってトロリと何かが溢れる。
これは、どちらかと言えば気持ち悪い。
でも、気持ち悪さの中にジンジンと疼くものもあって、なんだか焦れったい。
そう思っていると、急に強い刺激が体を走った。


「あっ、?!何…っぁ、ああっ!」


今までの気持ちいいとは比べ物にならない鋭い快感だった。
霊幻さんが舌を尖らせてある一点に触れると、痛いような気持ちいいような言い様のないものが巡る。
「ココどう?」と舌を休めて聞かれれば、動きが止まったのにまだジンジンして辛くなる。
正直に伝えれば「強すぎるか」とそこをゆっくり舐められた。


「コレ…なら、痛くない…っです…」
「……吸うのは?」
「やぁっ!…あ、はぁ…っ!」


先程より加減された力具合で吸われると、勝手に腰が跳ねてしまう。
さっきと同じ場所なのに、痛くない。寧ろ…。


「ひ、ぃッ、あぁっ!気、持ち…よすぎっます…!やあっ、」


自分の体なのに制御ができなくて怖い。
それなのに続ける霊幻さんの頭を手で押して離そうとすると、足の付け根を抱え込まれて押しのけられなくなってしまった。
フワフワするのが止まらない。
涙が溢れてきて、腰が震える。
体の奥から何か、来る。そう思った瞬間。


「ぁっ、れ…、…はっ、…ああぁっ!」


大きくザワめく何かが頭からつま先までを駆け巡った。
鼓動が早い。
膝がガクガクする。
熱い。
ようやく口を離されて、胸を撫で下ろす。


「今の、イクっていうのな」
「はぁ……イ、ク?」
「気持ち良くて堪らなくなるとそうなるの」


へなりと壁に身を預けていると、背中に腕を回されて膝裏を掴まれた。
「首に腕回して」と言われて反射的にしがみつけば、浮上感。


「れ、霊幻さん、あ…歩きますっ」
「膝そんなんで歩かせる方が危ねーよ」


足で扉を開けて乾いたタオルを私に持たせると身に付けていた濡れたタオルを放った。
ベッドに降ろされると、さっきまでの非日常な空間からリアルに戻ってきた気がして、またも緊張し始める。
霊幻さんはテーブルの水を二度飲むと、覆い被さって口付けてくる。


「んっ…、…く……、はぁっ…」


唇が冷たい、と思うと直後水が流れ込んできた。
それを飲み込むと、喉がすごく乾いていたことを自覚する。
お風呂の中にいたんだから、当然といえば当然か。
飲んだ後はまた口内を掻き回されて、頭がぼんやりする。
さっきイカせて貰ったばかりなのに、もうふつりと疼きが湧いてくる。
思わず足を擦り合わせれば、霊幻さんの手が肌を滑って差し込まれた。


「…もう少し慣らすな」


水音をさせて、筋張った指が中に入ってきた。
初めての異物感に口元を抑えて耐える。
するとまた口を寄せられて、抱き締められた。
霊幻さんのキス、気持ち良くて好き。
そのまましばらく続けられて、探る様な指先の動きにも慣れてきた頃何だか中も、気持ち良くなってきた気がする。
いつの間にか増えた指が同じ所をなぞると、足の裏がジンと熱くなる。
キスされたまま声が洩れると唇が離された。


「…もう1回イカせときたかったんだけど」
「……?」
「悪い。もう入りたい」
「…わた、しも…来て欲しいです…」


ベッドサイドから何かを持って霊幻さんが身を起こす。
ペリッと何かを剥がすような音がして、中のものを霊幻さんは自分のものに被せていく。
初めてまともに見る男性器に凶悪さを感じる。
けれどようやく繋がれると思うと、期待でまた中から溢れる感覚がした。
恥ずかしさでか細くなった声でも届いたのか、霊幻さんが口端を上げる。

「息吐いて」と言われて従えば、下腹部に異常な圧迫感がきた。
覚悟はしていたけれど、走る痛みに目を固く閉じれば「俺を見てろ」と言われるからなんとか目を開く。
霊幻さんも苦しそうだ。
でも、色っぽい。
そう思うと少しだけ痛みが和らぐ。
息を吐く合間に「霊幻さん」と呼ぶと、少し表情を緩めて「おなまえ」と返してくれる。
嬉しすぎて、このまま腹上死ならぬ腹下死したっていいと本気で思った。



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「…ぅく…」


事が終わってホテルを出て少し歩くと、急に腰に痛みが走った。
ピタリと固まった私に気付いて霊幻さんが心配そうに覗き込んでくる。


「歩けないか?」
「や。歩けます」
「…」
「や、やめて、押さないで…っ!痛い痛い!ごめんなさい!」


強がりを見抜いてググッと体を押してくる。
体勢が変わるとその都度痛みが走って私は白旗を上げた。


「無理したっていいことないぞー。慣れないことしたんだから」


そう言うと立ち止まってタクシーを呼んでくれる。
しばらくしてやってきたタクシーに私を乗せると、肩から降ろす間際ニヤリと笑顔。


「慣れるまで付き合うからな。…ま、おなまえが心変わりしないなら」


お金を握らされてドアを閉められると外からヒラヒラと手を振る。
霊幻さんが立ち去った後少しの間私は放心していて、自分の家の住所を忘れてしまいそうだった。



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02.16/性体験のない女の子に手取り足取り教える



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