▼口は災いの元




「右手、出してもらっていいですか?」


唐突に切り出されて、魔津尾は面食らった。
正面に座っているおなまえは左手を差し出していて、どうやら此処に右手を乗せろと言っているようだ。


「急に何?手相でも見るのかしら?」
「手相はわからないんですけど。でも魔津尾さんの手が見たいんです」
「……よくわからないけど…はい」


おなまえの手に自分の右手を差し出す。
するとおなまえは魔津尾の手をひっくり返したり開かせてみたり、かと思えば指同士をぴったりくっつけさせてみたりとしながらまじまじと視線を向けてくる。
あんまりにも熱心に眺めるものだから、右手に何かあるのだろうかとここ最近の会話を思い出してみた。

箸の持ち方が綺麗だと言われたこと。
あとは…おなまえは左利きだけど文字を書く時だけは右手で書くよう躾られたということ、くらいだろうか。
どれもその場で会話が終了しているし、引き続いて話題にするような事ではないと思うが。


「ねえ、一体何なの?」
「……魔津尾さんて…そんな喋り方なのに、薬指長いんですね」
「ど…え?どういう意味?それ」
「テレビで見たんです」


そう言うとおなまえは自分の手を示してみせる。
昨日見たテレビ曰く、人差し指と薬指の長さにはホルモンが関係しているのだとか。
人差し指が長ければ女性ホルモン。
薬指が長ければ男性ホルモンが多いということらしい。


「私は人差し指の方が薬指より長いんです」
「…そうね」
「人差し指が長い人は"言語能力が高い"けれど"チームワークが苦手"で、"感情的"だけど"人の心を引き付ける"んだそうです」
「あらそうなの。当たってるんじゃない?」


「おなまえって団体行動嫌いな割によく喋るし」と魔津尾は頷いてみせる。
言ってはやらないが、話している間にもコロコロ変わる表情が毎日見ていても飽きない。
そのせいか仕事を取ってくるのも得意で、魔津尾は「この子がウチにいてくれて助かるわぁ」と陰ながら桜威たちに話す程にはおなまえを気に入っている。


「じゃあ私はどうなの?」
「…で、薬指が長い人は"問題解決能力に優れて"いて、"空間認識能力に長けて"いて、"スリルを求める"タイプで、男性なら男性器が大きい傾向にあるって」
「ふんふん……ん?」


「今なんて言ったかしら」と魔津尾が尋ねる。
おなまえは「問題解決能力に〜」と頭から始めて、「男性器が」と口にしたところで魔津尾は「ストップ」とその口を左手で塞いだ。
聞き間違いであって欲しかったと思いながら、そんなことテレビで放送するんじゃないわよと見てもいない番組へのヘイトを高める。


「ふが」
「黙りなさいよ!そのまま喋ろうとしないの」
「……」
「もう…。アンタね、よく恥ずかしげも無く人に向かってそんなこと言えるわね」


恨めしそうな眼差しを向けられて魔津尾が手を放すと、おなまえは「いやぁ〜」と下の方に視線を泳がせる。


「恥ずかしいですよ、そりゃ」
「はぁ!?」
「いや…知ってるのに黙ってるのって嘘ついてるみたいですし!魔津尾さんに嘘なんかついてもすぐバレちゃいますし…どうせ言わされるんなら問い詰められて吐くより自分で言っちゃおうと…なのに魔津尾さんがまた言わせるから!」
「や…やめてよっ!私がまるで意地悪で聞いたみたいに」


知らなかったのだから悪意はなかったのだが、おなまえもおなまえで"言い難いので調べて下さい"とでも言えば良かっただろうに。
すると何故かおなまえが顔を赤くして口をまごつかせた。


「…何よ。言いたいことがありそうね」
「言いたいっていうか…聞きたいっていうか……いいんですか?」
「何のことか全然わからないのに"いいわよ"なんて言うと思うの…?」
「えっと…」


チラッとおなまえの視線がテーブルの下の方に向けられた。


「魔津尾さんがそのことを調べて知るまで……"魔津尾さん大きいのかぁ"って、私が勝手に思うのが…いいのかなって」
「……人の想像して頬染めるのやめなさい」


窘めるようにおなまえの両頬を片手でむにゅ、と潰すように掴むと、低くなった魔津尾の声音におなまえは怒られる!と思い咄嗟に「ごめんなさい!」と不細工にされた顔のまま焦る。
するとおなまえの顔に影が差した。
突き出された唇に柔らかな感触が押し当てられて、離れ際にぺろりと舐められる。
それが魔津尾の唇だったと数秒遅れて理解し、おなまえは挟まれた顔のまま口をパクパクさせた。


「い……っ、え!?…な、何……魔津尾さん!?」
「もしまた勝手に想像してご覧なさい」


「その不っ細工な口に」とおなまえの唇を魔津尾の指がくすぐる。


「実物ぶっ込んでやるからね」



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03.28/04.04/魔津尾夢



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