▼XXの皮を被った犬のような




どちらにしようかな、で決めようか…いや、本音はどっちも買いたい。
でもな…。

私はかれこれ10分程トレーとトングを持って迷っていた。
いちごメロンパンかざくざくメロンパンのどちらを買う方が後悔しないかをその間ずっと考えていて、カチとトングを鳴らす。

二個もメロンパンが食べたいかって言うと、一個で十分だっていうのはちゃんと自覚している。
フレーバーが違おうがメロンパンはメロンパン。
それに二個も食べたらおやつを通り越して食事だ。
晩御飯を食べ切れなくてお母さんに怒られる未来がその先に待っている。

二個買って、明日にどちらかを回す?
…しかし飲み物も買いたい。
やっぱりどちらか一個に絞るべきだ。
結局おなじことでまた悩んでる。


「うーーーん…」
「あれ。おなまえちゃん?」
「んぇ?…あ。テルくん」


突然名前を呼ばれて振り返ると、私服姿のテルくんがいた。
「やっぱりおなまえちゃんだ」と言いながら私の側に来て挨拶してくる。
その手にはすぐ隣のスーパーの袋があって、テルくんもお買い物なのがわかった。


「買い物かい?さっきも此処の前を通ったんだけど、ずっと立ち止まってたよね」
「うん。お使い頼まれて…その自分へのご褒美にどっちを買うかで悩んでるの」
「…メロンパン?」
「うん…そだ。テルくんならどっちにする?」


これも何かの縁だ。
ここはもう、テルくんに決めてもらおう。
だってきっと迷いあぐねている私の為にきっと神様がテルくんを遣わしたに違いない。
そのテルくんが選んだものなら後悔しないと心に決めて、私は尋ねた。


「僕が買い物してる間もずっと迷ってたんだろう?…責任重大だなぁ」
「ちなみに飲み物はねぇ、牛乳!」
「どっちも合う」


そうだ先に合わせる飲み物を決めたら絞りやすいんじゃないか!?
そう閃いて隣の冷蔵ケースから牛乳を取り出すと、テルくんはちょっと困ったように眉を寄せて笑う。
そして「んー…」と数秒前の私みたいに悩み始めた。


「あ〜…じゃあいちご牛乳にする!これなら!?」
「ん?いちごか…あ。でも……んー…」


私の代わりに迷い始めたテルくんは、チラリと私を見てからまた二種類のメロンパンに視線を落とす。


「…時間て、まだ平気?」
「え?うん。うち晩御飯7時だから、全然平気」
「そうか。なら…」


そう言うとテルくんも入口にあったトレーとトングを持って私のトレーにざくざくメロンパンを、自分のトレーにいちごメロンパンと牛乳を乗せた。


「はい。これで解決だ」
「テルくんも買うの?」
「見てたら何か買いたくなっちゃった」
「えっ、ごめん巻き込んで」
「ううん。二人で分けれぱおなまえちゃんはどっちも食べられるし」


「いちご牛乳選ぶくらい苺好きなら、こっちも食べたいよね」とテルくんが笑う。
神様ありがとうございます。
こんな聖人君子を私に遣わせてくれた神様に心の中で手を合わせた。

パン屋内のイートインスペースに二人並んで、半分ずつにそれぞれのメロンパンを分ける。


「切り口ちょっと潰れちゃうけど…」
「大丈夫!ハイ、テルくんメロンパンどうぞ」


私がざくざくメロンパンの片方を差し出すと、テルくんは笑いながら「じゃあ、おなまえちゃんもメロンパンどうぞ」と私の前に置いてくれた。


「パン屋っていい匂いするから、一度入ったら何も買わずに出るなんて出来ないよねぇ」
「ハハ、そうだね。僕もつい買っちゃうな」


鼻をくすぐるバターや生地の焼ける匂いの中で頬張るメロンパンはまた格別な気もしてくる。
それから小さいけれどびん詰めされた牛乳っていうのも、なんだか風情があると思う。
別に銭湯とか給食で出てて、とかじゃあないけど、特別感を生む存在だよね。

みたいなことを私が語る横でテルくんは牛乳に口をつけた。
クイッと流し込むと離れたその上唇の山に白い髭がついて、「あ」と私は声をこぼす。


「テルくん、牛乳。おヒゲになっちゃうよ」
「…」


私が自分の唇を指差して教えると、ぱちりとテルくんが瞬きをして一瞬私達は見つめ合う。
直後、何故かテルくんは残りの牛乳を煽るように勢い良く飲み干した。
より髭が大きくなって、なのにどう?と言わんばかりのテルくんの表情に私は面白くなって笑いだした。


「あっははは!テルくんっ」
「お爺ちゃんみたい?」
「なんで髭育てるの。あー、笑った…拭いてあげる」
「ありがとう」


ウェットティッシュでそのお髭を拭ってあげて、「ハイ、イケメンに戻ったよ」と手を離そうとしたら、そっと手首を掴まれた。
え。と私が固まると、テルくんが私の手首に鼻を寄せる。


「おなまえちゃん、いい匂いするよね」
「えっ?そ、そうかな?」
「うん。香水つけてる?」


そんな高尚なものはつけてない。
否定して首を横に振れば、へぇ、と言いながらもまだ顔を寄せたまま手を離してくれない。


「いつも思ってたんだ。じゃあおなまえちゃんの匂いなんだね」
「犬かな?」
「ハハハッ」


そう言うと私の手からウェットティッシュを抜き取って、空いた掌に頬擦りされる。
本当に犬がじゃれるみたいな甘えた仕草。なのに。


「じゃあもうちょっと僕とお散歩しようか」


擦り寄せたまま見つめてくる目はなんだか犬っていうより、狼みたいだ。
固まったままの私の口元に残りのメロンパンを「はい」と咥えさせると、自然な動作で私の分の買い物袋まで持ってテルくんが立ち上がった。


「家まで送るよ、もう暗くなるからね」


さっきの表情が嘘のように、笑いかけて来るテルくんはやっぱりいつものテルくんで。
ドキドキした胸の抑え方もわからないまま、私も席を立った。




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04.02/匂いフェチのテルくん



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