▼雨から隠す




急に立ち込めた黒雲とゴロゴロと響く雷の轟に、タイミングが悪いなと律は空を見上げた。
遠くの空は夕暮れに染められて、自分たちの上に局所的に集まった雨雲はそれが一時的なものだということがわかる。
しかし今律たちの周囲に屋根になりそうなものはない。


「あ、雷鳴ってる…わあ!雨!」
「おなまえちゃん、走ろう」


おなまえの手を取って雨宿りできそうな所まで駆け出す。
その間にも夕立は強さを増して、律たちの体を叩いた。
一番近くの公園にあった屋根付きのベンチに入ると、おなまえは腰を下ろして荒く息を吐き出す。


「りっ…律くん…足っ…はぁ…、はやい…」
「ごめ……、!」


おなまえを振り返って律は息を呑んだ。
セーラー服が雨で透けて、おなまえの肌に張り付いている。
髪から滴った雫がまたポタリとその胸元に落ちて染み込んでいく。
学校指定を守っているのか、白い下着が浮き上がって律はガバッと自分の鞄を勢い良く開ける。


「……」


しかし今日に限ってジャージは学校で、鞄の中にあったのは心許ないハンドタオルだった。
体育の授業がないからとフェイスタオルを入れ替えて行った今朝の自分を殴り付けたい。
こんなことなら、おなまえを驚かせてしまってでも超能力を使えば良かったとひどく後悔した。
そんな律の動揺を他所に、おなまえは制服の裾を絞っている。


「ひ〜、ずぶ濡れちゃったねぇ」
「う…うん」
「この雨すぐ止むのかな…?」
「通り雨だから、もうすぐ止むよ」


おなまえは気付いていないのか、隠す素振りも見せない。
それ所か自分の鞄から出したタオルで律を拭き始めてくる。


「じ、自分に使って!おなまえちゃん」
「律くんタオル無さそうだなって…ある?」
「ある!あるから…っ」


おなまえの手からタオルを奪うと胸元を隠すようにタオルを巻いてやる。
そこでようやくおなまえは自分の有様に気が付いたようで頬を赤らめて小さく「…ごめん」と呟いた。
ぎゅっとタオルを握り締めるおなまえにようやく安心して息を吐く。


「雨が止んでも…これじゃあ厳しいな…」
「え?止んだら普通に帰れるよ…ね?」
「ダメだよ。おなまえちゃんがそんな姿でなんて絶ッ対!」


害虫共に晒す訳にはいかない、と強くおなまえの肩を掴む。


「…すぐ戻るから待ってて」
「え?う、うん……あれ?」


おなまえが返事をして顔を上げるとそこにもう律の姿はなくて、おなまえはキョロキョロと辺りを見回した。


「り…律くん?」
「ただいま」
「!?」


姿が見えなくなったと思ったらすぐ近くで律の声がしておなまえはビクリと肩を跳ねさせた。


「り…律くん。早いね…?」


訳が分からずにおなまえが首を傾げていると、ズッポリと頭から何かを被された。


「ん?!」
「着て行って。これなら透けないから」


そう言いながら律がおなまえの頭を襟首から出させると、おなまえは着せられている服を見る。


「…これ、律くんのパーカー…?」
「うん」
「私服濡れてるのに、濡れちゃうよ!」
「透けなきゃ濡れたっていいから!」


目のやり場に困るし…と弱々しく付け足すと、またおなまえは赤い頬を俯かせる。


「お…、お見苦しいものをお見せして…」
「見苦しくない。……けど、他の男が見るのは絶対ダメだ」
「…うん。気を付け、ます…」


俯くと律の匂いがして、おなまえは余計に脈が早まるのを感じた。
雨雲が去ったのを見て「帰ろう」とおなまえに手を差し出すと、いじらしい様子でおなまえがその手を握った。
少し袖が余って指先が僅かにしか覗けない手を見て、これはこれで目のやり場に困るかもしれない。と頬の熱が引かないままのおなまえの隣で律は悩んだ。




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04.02/ラッキースケベ



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