▼爪痕を刻む

※爪痕夢主、爪時代



みょうじは社長が許す限りの時間、俺に会いに来る。
今まで禄に人と、しかも異性と話したことがなくてぎこちない俺を受け入れてくれる優しい人だ。
毎日と言ってもいいくらい二人で会ってる内に段々自然に話せるようになってきた…と思う。
今日はみょうじが見繕ってきた映画を垂れ流しながら二人並んでお酒を飲んでる。
乾杯したり飲み交わしたりって、社会人って感じでこそばゆい。


「…え。この二人好き合ってるんじゃないの?何で今他の人と一緒に居るの?」
「ん?もう一歩踏み込んで欲しいから、じゃないかな」
「……コイツに?」
「違う違う、好きな人に」
「じゃあ好きな人といればいいのに」
「嫉妬っていうのは恋のスパイスなんだよ芹沢」
「ええ…?嫌われちゃうんじゃない?」
「まあ見てなって」


みょうじはサイコロみたいなチーズを口に放り込んでニタニタしている。
今観ているのは大人の恋なのかわからないけど、あっちこっちで人間関係が発展しててわかりにくい。
俺がそう言うと「これもお勉強だねぇ」とみょうじはワイングラスを傾けた。

場面はどんどん進んで行って、雰囲気が変わってきたなと思ったらラブシーンに突入した。
あ。コレ気まずくなるヤツ。
そう思ってトイレに立とうとすると、わざわざ一時停止して「じゃあ待ってるよ」とみょうじがまたチーズを頬張る。


「…いいよ、観てて」
「私飲み食いしてるから。お構いなく」
「い、…いいからさ。本当に…」


背中に「行ってらっしゃい〜」と上機嫌そうな声を受けながら部屋を出る。
…俺が気にし過ぎなのかな…、ただの映画に。


---


「ただい、ま…」
「おかえり〜」


戻って来ると、席を立った時のラブシーン中で止まったままだった。
「見てていいのに」と零せば「ダメダメ。一緒に観る為に持ってきたんだから」と再生が再開される。
外人って本当にこんな風にするんだろうか。
それとも映画だからドラマチックに大袈裟にしてるだけなのかな。
長い。
さっさと終わってくれと思いながら視線を他所に向けていると隣でみょうじがクスリと笑った。


「そんな固くならなくても」
「ちょっ…!」


みょうじが俺の腕に自分の腕を絡めてきて身を寄せてくる。
俺の足の付け根にその手をついて顔が近づいてきたから、慌てて反対を向いて避けると首筋にみょうじが唇付けてきた。
思わずビクリと肩が跳ねて声が上擦る。


「なっ…何するんだよ…!?」
「興味ないのかなぁ?って思って」
「い、意味がわからないんだけど!?」
「芹沢はこういうこと、したくならない?」
「…よ、酔ってるのか…?」


心臓が飛び出そう。
お酒のせいなのかみょうじの目が潤んで揺らいでるのが、ひどく胸をざわつかせる。
ゴクリと唾を飲み込むと、みょうじが小首を傾げた。
顔が熱い。


「私じゃあ、そういう気分にならない?」
「……なる、とか…ならないとかじゃ…ないだろ……」


だってこういうのって、恋人同士がするんだろ。
この映画みたいに、流れでそうなって…っていうのは……違うんじゃないの。

俺が言葉に詰まりながらそう言う間も、みょうじは俺がちゃんと最後まで言い終わるのを待っている。
みょうじは優しいし、俺が嫌だって言ったらやめてくれるはずだ。
今までもそうだった。
「この話はしたくない」「あそこには行きたくない」「これはやりたくない」
そう言えばみょうじは「じゃあやめよう」って言ってくれて、他のことを始めてくれた。
今回だって…。


「私は芹沢が好きだよ」
「えっ…!」
「だから芹沢とこういうことしたいって思う」
「………」
「芹沢は私が嫌い?」


俺が好き?
ショックで言葉が出ないでいるまま、みょうじの言葉に首を何度も横に振った。
嫌いじゃない。そんな訳ない。そう言いたくて。
でも、好き、か…は………、よくわからない。

好きって、こんな俺を?
みょうじが優しいのは俺が好きだから?
だから会いに来てる?
俺なんかの一体どこが?

頭がパンクしそうで、傘の柄をグッと強く握り締めた。


「お、俺…わから、ないよ…」
「…そっか」


絞り出す様にそう言うと、やっとみょうじが俺から離れた。
立ち上がるといつの間にかエンドロールの流れている映画を止めて、ケースに戻して後片付けを始めてる。
俺はそれをぼんやり眺めていて、ハッと我に返ったのはみょうじが「困らせてごめんね」と言って部屋から出て行った後だった。
「また明日ね」と言わないで出ていくなんて、今までそんなこと、なかったのに。


「……」


みょうじは一体どんな顔をして出て行ったんだろう。
……何で俺、何も言ってあげられなかったんだろう…。
でも、何て言えばいいのかわからない。
どう…どうしたら……。


---


あれから四日経った。
日を開けても精々二日だったのに。
出張の時だって行く直前と帰ってすぐに会いに来てたのに。


「……はぁ…」


やっぱり、あの時のが原因…だよな。
溜息を吐いても、解決法が思い浮かばない。
あれからずっとみょうじのことばっかり気になって、落ち着かない。
傷付けちゃったのかもしれない。
だからもう、俺の顔なんか見たくないって思ってるかも。
そう思うと胸が痛くなって、何だか息まで苦しい。

そんなことを考えながらだからか、「今日はもう下がっていい」って社長にも言われてしまった。
…ダメだなあ、俺…。
何度目かの溜息をついたら、ポスッと背中を叩かれた。
全く他所に気を回してなかったから驚いて傘を落としそうになると、俺のじゃない腕がそれを掴み寄せて俺の手に持たせる。


「浮かない顔だね。調子でも悪いのかい?」
「!…あ…、みょうじっ」
「…やあ、芹沢」


ドキリと心臓が跳ね上がる。
みょうじはいつもと変わらない様子で俺に笑い掛けた後、俺の反応を見てるみたいに少し待ってから、苦笑いを浮かべた。


「嫌かもしれないな、とは思ったんだけど。あんまり落ち込んでるみたいだったから話し掛けちゃった」
「あ…っ、嫌じゃ!ない…よ。その……ありがとう」


困ったみたいに眉を寄せているみょうじを見て、誰かが心臓を抓ってるんじゃないかってくらい胸が苦しくなった。
もしかして、あの時もこんな顔をして出て行ったのかな…。
みょうじの方が嫌だろうに、なのに、俺を心配してくれて。
俺はきっと、こんなみょうじのことを傷付けてしまったんだと思うと、劣等感が広がっていく。
俺が顔を歪めると、みょうじは驚いたように目を見開いて周囲を見回してから「は、話聞くよ」と俺の腕を引いた。

組織に割り当てられてるみょうじの部屋に入って、椅子に座らされる。


「何も無いんだけど…あ。お酒ならあるよ。飲んで忘れよう、嫌なことなんてさ」
「……みょうじ…」


チラッと見えた物陰に酒瓶やビール缶が覗けて、お酒にみょうじも逃げてたんだと気付けば、いよいよ自分が最低な人間に思えてきた。
堪えきれずに涙が出てきて、声が震える。


「ど、どうしたの?大丈夫だよ、芹沢は強いんだから。自信持って。ね?」
「…ふ…、みょうじ…ご、ごめん…俺……みょうじの気持ち、わからなくて…」
「えっ。あ、あぁ!あの時のこと?あれは…私が暴走したのが悪いかなぁ……芹沢は悪くないよ」


ああ…いつものみょうじだ。
そうやって俺を庇ってくれる。
そう言って俺を助けてくれる。
俺の泣き顔が見えないように抱き締めてくれる。
俺は、みょうじに何をしてあげられるんだろう。

年甲斐も無くみょうじを繰り返し呼びながら泣き続けていると、わしゃりと俺の頭が撫でられた。


「…此処にいるよ。ごめんね。何処にも行かないよ」
「……うん…」
「……んーー!」
「なっ…何だよ…」


そのままわしゃわしゃと両手で頭を撫で回されると、ぎゅうっと頭を抱き込まれた。
胸に顔が埋まって反射的に身を固めると、パッとみょうじが離れる。


「ごめん。つい。したくなって」
「……い、いけど。しても」
「本当に!?」
「うわ」


俺がいいと言うと勢い良くまた抱き着いてくる。
首の後ろに腕が回されて、みょうじが首筋に顔を埋めるとみょうじの匂いがして胸がざわついた。


「…ねぇ、芹沢」
「な、何?」
「抱き返して欲しいなぁ…って。…いいかな?」
「え」
「ダメなら待って。もう少し堪能させて」
「堪能って…別に…いいよ、みょうじがしたいなら…俺に出来ることなら」


言われた通りに背中に腕を回して抱き返すと、ピクリとみょうじが反応した。


「…いいのかなぁ、そんなこと言って」
「……」
「芹沢が困っちゃうこと、お願いしちゃうよ?私」
「ま…前も言ったけど…俺、そういうのわからないから…っ」
「うん。だからさ」


「お勉強しよう、私と」。
そう言って俺の頬に手が触れて、みょうじの顔が近づいてきた。
わ、と思っていると柔らかい感触が唇に触れて、軽く吸われる。
数回繰り返すと顔が離れて「キスの時は目を閉じた方が良いと思うな」とみょうじが微笑んだ。
「見てたいなら別にそれでもいいけど」と言うとまた近付いてくる。


「次は鼻で息してね、口開けて」


言われた通り目を閉じて口を少し開けると、さっき触れた柔らかいのと、それとは別にぬるりとした何かが入り込んできた。
ぞわっとして声を出すけど、みょうじの口が離れないままだから篭って満足に話せない。
上顎をなぞったり俺の舌に絡んで来たり。
あの時見た映画、やけにキスシーンが長いと思ったけど、こんなことしてたのかな。
何だかゾワゾワするだけじゃなくて、触れ合ってる唇と舌がジリジリする。
これ、気持ちいい…かもしれない。
ちゅう、と音を立てて唇が吸われるとみょうじが唇を離した。
押し付け合ってたからか、真っ赤になった唇を見ると頭の後ろの方が熱くなる。
濡れたその唇をペロリとみょうじが舐めて、ヤバいエロいと凝視してしまう。


「続き、したいな…いい?」


細められた目はあの時みたいに潤んでて、また強く心臓が高鳴った。


---


「…み、見てもいい…?」
「しょうがないなあ…ハイ」
「…あ。こうなってるんだ」
「外してぇ」


パーカー、シャツ、ズボンと一枚ずつ順調に脱がせていたのが、下着で躓いて俺はみょうじに背中を向けてもらった。
本当は見ないまま片手で外せる方が良いらしい。
ホックって結構しっかり着いてるんだなと見ていたら、みょうじが焦れったそうに急かしてきた。
両手で外してみると肩紐が緩まってするりと腕に滑り落ちていく。
これを片手で見ないで、なんて難し過ぎないか。
そう言うと「やってる内にできるよ、芹沢なら。練習しようね」とみょうじが口付けてくる。

露わになった胸を揉んでみると、見た目程柔らかくなくて重い。
"マシュマロみたい"っていうのは幻想だったんだなって思うと同時に、自分の指に合わせて輪郭が変わるのを見て夢じゃないんだなコレとじっと見た。


「…ね、乳首も触って」
「う…うん…」
「ぁ…、っ舐めるのも…して…ぇ」


触っていいのか躊躇っていたらみょうじが「こう触って」と俺の手に自分の手を重ねて動かしてみせる。
みょうじがしてって言うのがいちいちエロくて、俺のも反応してしまう。


「は…、っあぁ!」
「い、痛くない…?」
「んぅ…もっとして、…っ」


喘ぎ声が高くなると痛かったのかと思って動きを緩めると、みょうじが泣きそうな顔で膝を擦り合わせた。
様子を見ながらさっきより強く胸の突起を擦ると、肩を震わせながら「気持ちいい」と吐息混じりに零す。
…何だか俺も、結構…興奮してくる。
生唾を飲み込めばみょうじが俺の片手を下に滑らせていって、下着に指をかけられた。
そのまま腕を下ろして脱がせると、また手が重なる。


「私も触るから…こう、してね…」


俺の指で溝をなぞるみたいにするとクチュと水音がたった。
繰り返しそうして指先を濡らすと、濡らした指先で溝の上の方を擦らされる。
円を描くように擦るとみょうじの体がピクピクと反応して、指の滑りが良くなってきた。
すると中指を溝の中に押さえられて、俺の指がゆっくりみょうじの中に入っていく。
しばらくその指で中を探らせると二本目も飲み込んでいく。
熱くて、柔らかくて。
少しキツくて指を動かし辛い。
浅く息を吐くと、みょうじは俺の指に合わせて腰を揺らしながら俺の股間をスウェット越しに撫でた。


「…ぅ…、な、に…」
「ちょっと早いんだけど…欲しくなっちゃった。脱いで?」
「…うん…」


俺が腰を浮かせてスウェットを脱ぐと、みょうじは脱いだ自分の服を漁って何かを取り出していた。
封を開けると、その中のものを俺のに宛がってくる。


「スキン着けよう、ここ押さえて…根元まで伸ばして」
「こう…?」
「うん。合ってる」


言われるがまま着けてる間にも俺の肩や首に軽くキスをされる。
…落ち着かない、と思ったけど、最初にキスをされてから一度も落ち着いてないままだった。
根元まで伸ばしきると、みょうじが俺の首の後ろに腕を回して寝転ぶ。
引き摺られるように俺も倒れそうになったのを腕を着いて堪える。


「さっき指入ってた所…わかるかな…」
「えっと…」
「…っ、はぁ…」
「……う、ぅ…」


みょうじが指で拡げて若干入りやすくなったそこに、今度は俺のが沈んでいく。
ゆっくり収まっていくにつれてみょうじが息を吐き出す。
指の時も熱いと思ったけど、自身だとそれだけじゃなくて少しの震えも感じ取って、気持ちいいし、溶けそう。
ピッタリ中がくっ付いてきて、自然と腰が揺れた。


「ん、あっ!あ、…はぁ…っ!」
「…ん…っ…みょうじ…」
「は、…ぅ……ん、好きに、動いていい…からっ…」


思うがまま腰を打ち付けると、その度にズクリと快感が走って止められない。
息がどんどん荒くなっていって、無我夢中でみょうじの体を抱き締めた。
抱き返されながらすぐ耳元で鼻にかかったみょうじの声を聞いていると、頭がぼんやりしてくる。
気持ちが良い、としか考えられなくなっていく。
段々と抽挿が激しくなって、何度も突いている内にぶるりと腰が震えた。
吐精感に息を吐き出すと、みょうじが顔を寄せて唇を合わせる。


「…みょうじ…」
「ん…気持ち良かったね」
「う、……」


みょうじが腰を上げてズルリと中から俺のを抜く。
避妊具の処理がされて行くのを見てたら、恥ずかしさが込み上げてきた。


「? どうしたの?…思ってた程じゃなかった…?」
「こ…、コレ恥ずかしくない…?」
「恥ずかしい…けど。でも気持ち良かっただろう?」


みょうじの言葉に返事をするのも憚られる。
後の方なんてろくに考えられなかった。
ただただ自分が気持ち良くなっただけだ。
なのにみょうじは幸せそうな顔をして俺を抱き締めてくる。


「またしたいな。芹沢の気が向いた時でいいからさ」


練習と思って。とみょうじは言う。
でも、そんなの…無理だよ。
こんな何も考えられなくなるようなの、きっと良くない。
し終わった後で何を言ってるんだと自分でも思った。
けどみょうじは俺の髪を撫でると。


「これは愛情表現なんだから、悪いわけないよ」


愛情表現。
みょうじのその言葉が、深く胸に刺さるようで。
みょうじがそう言うなら、きっとそれが正しいんだと俺は目の前の体を抱き返した。





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04.01/爪痕夢主との初夜



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