▼もう"待て"はナシ

※「じゃなきゃ(長年の片想い)〜」のつづき



「あ、新隆次はあそこのお店見たい」
「…買い過ぎじゃね?」
「疲れちゃった?じゃあ私パパッと行ってくるから…そこのカフェで待ってて?」
「いや。行く」


晴れて恋人同士になっても、意外と何がどうと変わるもんでもないなとおなまえは荷物持ちになってくれている霊幻を見て思った。
ただ。


「ぶつかるぞ」
「あ、ごめん」


行き交う人並みでさり気なく腰を引き寄せられて、そのまま歩く。
こんな風に距離が近付くことにはまだ慣れない、と霊幻に見えないように少し俯いて赤く染った頬を隠した。
前までなら引き寄せる一瞬だけだっただろうその手。
この手に触れられるのを今までよく私は意識しないでいられたものだと今にして思うも、過去の自分の鈍感さが浮き彫りになるだけだったので考えるのをやめた。


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「あー…買った買った…」
「帰りのこと考えろよ…」


二人で両手に紙袋をたくさん抱えて家路についた。
おなまえの部屋について荷物を降ろすと、霊幻は「じゃあな」と帰ろうとする。
いつもならご飯食べていくのに、とおなまえは首を傾げてそれを呼び止めた。


「え?新隆ご飯食べてくでしょ?」
「…え。いいの」


何故か呼び止められた霊幻の方が怪訝そうな顔をしていて、二人で見つめ合う。


「いいもなにも、いつもそうしてたじゃん」
「まあ……そうだな…じゃあ食ってくわ」
「良かったー!そのつもりでご飯用意してあるんだから帰んないでよ〜」
「スマン」


大量買いの荷物持ちに駆り出された後は、いつもおなまえが霊幻に食事を振舞って泊まらせて帰るのが通例だった。
特に何の疑問を抱かずに今まで通りに支度を進めるおなまえの後ろ姿を霊幻はソファーから窺う。


--…アイツ、わかってんのかな…わかってねーんだろうなぁ…。


伸びをするように背凭れに背を預けて天井を見上げる。
霊幻はソワソワと落ち着かないまま、しかしそれを表に出さないように努めて壁掛け時計を睨みつけた。


---


やっぱりこうなるんだよな、と霊幻用に敷かれた敷布団を見下ろして霊幻は思った。
ご飯を頂いた後は当たり前の様に風呂が用意されて、社会人になってからも頻繁にこういうことがあったお陰で霊幻の部屋着まで此処にはあるのだ。
おなまえのいつも使っている柔軟剤の香りが仄かに自分の衣類から昇るというのは何度経験しても落ち着かない。
散々歩き回されて些か疲労もあるが、此処で横になってしまったらそれこそ今までと何も変わっていない。

腰を下ろした布団から外干しされた香りを嗅ぎ付けて「あーこういうのいいな」って俺は何回同じことを考えるんだ。と脳内の自分を叱りつける。
おなまえが料理をしている時も、風呂から出てすぐに自分の着替えが用意されてる時も思ったぞ。全く同じことをだ。
もっと言うなら此処にこうして泊まる度に思っていた。

鼻先と顎を合わせた両手の親指と人差し指で押さえて、指を開いたり閉じたりしながら考え込んでいると、部屋の主が戻ってくる。


「ただいまー。新隆、先に寝ちゃってても良かったのに」
「…おー…」
「?どうかしたの?まだ電気消さない方がいい?」
「別に。消していいぞ」
「そう」


釣り紐を2回引いて豆電球の灯りだけが部屋を照らすようになる。
おなまえが自分の布団に潜り込んで目を閉じると、もぞりと物音が聞こえた。
霊幻の寝返りの音だろうが、頻度が短い。
端的に言えばうるさい。
おなまえは霊幻の方を振り返って「眠れないの?」と声を掛ける。


「やっ?眠れるけど」
「赤マ○シでも飲んだの?」
「ブッ」
「きったな!やめてよ布団に唾つく!」
「せめてリ〇Dとかだろソコは!何で赤…お前まさか飯に混入したのか…!?」
「え?何か味おかしかった?いつも通りだったんだけど」
「……おなまえがそんなこと思う訳ないよな。…何でもない」
「えー?…あ、わかった」


そう言うとおなまえは横たわったまま霊幻の方に距離を寄せて両腕を霊幻の肩に回した。
暗がりの中驚いたように目を見開かせる霊幻がピクリと反応する。


「…わかったって、何が」
「おやすみのハグしてほしいのかなって」
「は?あ。そうだなイツモシテタモンナ」
「いつもじゃないでしょ。はい」
「はいはい」


気の抜けた霊幻の声が棒読みになっておなまえはクスリと笑みを零して身を寄せた。
その背中に霊幻の腕が回って、力がこめられると顎に手を掛けられる。
「ん?」とおなまえが声を漏らすと直後唇同士が触れ合って反射的に引こうとした体を背中の腕が押してきて敵わなかった。


「んんっ…、ちょ…ぁ…」


制止の声を上げようとすれば開いた口に舌が差し込まれて鼻に息が抜けていく。
そのまま閉じられないように顎の指に押され、更に口付けが深くなる。
唇に甘く歯を立てられ離れたと思ったら再び塞がれて、おなまえが抵抗しなくなると顎に置かれた指が首筋から下へと伝っていく。
口内を舐るままおなまえの足の間に片足を差し込み、服の上からボディラインを撫で上げた。


「は…っ、あら、たか…」
「……何…」
「…ぁ…」


肩で息をしているおなまえのシャツの上から擽る様に肌を撫でると、おなまえが息を詰めた。
碌な抵抗を示されていないということは、この続きをしてもいいと判断してシャツの裾から直接肌に触れる。
風呂上りということもあってかおなまえの体温は高くて、しっとりとした感触を覚えこむように穏やかな動きで触れていくとおなまえの唇が震えた。


「ま…待って…本当にするの……?」
「……逆に此処までで止める理由あるか?」
「ぅ…」


捲し上げて露わになった胸の先を唇と指で弄ると鼻にかかった声が上がって、続けている内におなまえが身じろぐ。
霊幻の足を挟み込むようにするその動きに霊幻がニヤリと笑ったのが息の抜けた声でわかった。
ズボンに指を掛けると脱がしやすいようにおなまえが僅かに腰を浮かせて、嫌がられないことにホッとしつつ指を滑り込ませる。


「あっ…、〜…っ!」


秘部を霊幻の指がなぞると、粘着質な水音が部屋に響いておなまえは霊幻の胸に顔を押し付けて羞恥をやり過ごそうとする。
その様に胸がぞわりと波立って、霊幻は口元の笑みを深めていく。


「なあ、電気つけていいか?」
「や…やだよ!」
「…見えねぇじゃん」
「い、いいよ見なくて…っ」
「えー…」


指を蜜壺に埋めながら顔を隠しているおなまえの頭に唇を落とす。
ピクリと中が反応したのに合わせて様子を窺いつつもう一本差し込むと、おなまえの声に苦しさが滲んだ。


「顔上げて」
「…いやだ…っ」
「見ねぇから」
「む…」


おずおずと上げられた顔にそのまま唇を落として、しばらくそのまま指を動かさないで馴染むまで待つ。
舌を合わせながら吸うと徐々におなまえの体から力が抜けていったのを見計らって、入口を刺激しないように指先で内側の襞を押し擦った。


「ぁは…!っは、…新隆ぁ…」
「ん…っ、どうした?」


おなまえの掌が霊幻のスウェット越しに中心をやや雑に擦り付けてきて、霊幻はおなまえの顔を覗き込む。
そこには蕩けた表情で霊幻を見つめ返すおなまえがいて、もっとハッキリ見たいと願望が掠めた。
しかし今日は電気を点けることは許されていない。
また別の機会にしようと胸に留める。
控えめな力で霊幻のスウェットに指が掛けられて、霊幻は「おお」と積極的になってきたおなまえに感嘆を漏らした。


「ゴム…」
「ある」
「……ん?」


おなまえの返事を聞いて霊幻は一瞬理解できずに固まる。
するとおなまえは部屋の引き出しに腕を伸ばし、未開封のゴムの箱を取り出して来た。
正直こんなことをする気がおなまえにはないだろうと思い込んでいた霊幻は「持ってるのか」と小さく呟く。


「だって…付き合ったんなら、するかも…って…」


尻すぼみになりながらもしっかりとその声は霊幻に届く。
そういう意識をちゃんと持ってたんだなと霊幻が意外に思うと、ふと考え至る。


「もしかして今日、そのつもりで…?」
「……だって…」


おなまえは霊幻のものにゴムを取り付けると、消え入りそうな声量で「ずっと…待たせちゃってたから…」と囁いた。
霊幻の肩に手を掛けると、自身に入口を宛がっておなまえが唇を噛みしめる。
豆電球の灯りに照らされたその表情に緊張が占めているのを見て、霊幻はおなまえを抱き締めた。


「新隆…?」
「…おなまえ、大丈夫だ…ゆっくりでいい」


あれだけの時間を掛けてこの関係に辿り着いたのだ。
もうどれだけこの行為に時間を費やそうが構うことなんてない。
指をしゃぶって唾液を絡めると、霊幻のが宛てがわれている入口の上を緩く擦る。


「んぁっ、ひ…!ん…っ、」
「おなまえ…、っ」


ビクビクとおなまえが反応して、少しずつ解れてくると霊幻は抵抗がまだ強い膣に腰を進めていく。
何度もおなまえを呼びながら慎重に触れられて、おなまえの目から生理的な涙が零れ落ちた。
霊幻も歯を食いしばり苦しそうに汗を流している。
顔に伝うその汗をおなまえは指で拭って、霊幻の肩を抱いた。


「新隆…、」
「痛いな…悪ぃ…」
「ん…は…っ、好き……!」


眉を寄せるその顔に自分のを近付けてキスをする。
何度も重ねる合間に言葉を漏らせば、グッと腰を掴まれ霊幻が体重を掛けて根元まで捩じ込んだ。
互いに荒く息を吐き出しあって一体感に浸る。


「あー……夢じゃないよなコレ…」
「ゆ、めでこんなに痛かったら、現実はもっとじゃん…やだよ」


二人して汗だくのまま体を寄せ合っていると、霊幻がおなまえの腰を撫でる。
その顔はニヤニヤとしている癖に掌は優しくおなまえに触れていた。


「慣れるまで頑張ろうな」
「え…そんなすんの…?」


「当たり前だろ、20年分だぞ」とぞっとするような発言を耳にして、おなまえは"ツケが回る"ってこういうことかと覚悟を決めた。




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03.30/「じゃなきゃ〜(長年の片想い〜)」の二人が試行錯誤して初エッチに持ち込む



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