▼誰がどう言おうと純愛




土曜日の朝。
奇跡だと窓に吊るしたてるてる坊主に感謝をしたばかりだというのに、どうして神様ってこうも残酷なのだろう。
ポタリと前髪から落ちた雫が頬に掛かって、おなまえは自分の雨女加減に溜息をついた。

いつもこうだ。
楽しみにしていればしている程、その日に限って豪雨になる。
これはきっと私にも超能力があって、そのせいに違いないと言ってみたことがあった。
影山君からは「練習したら晴れにもできるかも」と方向性の違ったアドバイスを貰って、霊幻さんからは「雲が気持ちを汲むなんてことはないだろ」と切り捨てられた。
この状態が証拠になるんじゃないかな。

一先ず通り道にあった適当なお店の軒先で雨宿りをさせて貰っているが、いつまでもびしょ濡れの人がいたらお店に迷惑になってしまう。
おなまえは鞄から携帯を取り出して、今日会うはずだった霊幻に電話を掛けた。
霊幻はすぐに出て、状況を知ると「迎えに行くから待ってろ」とおなまえに言いつけて電話を切った。


---


「…折角のおうちデートだったのに、ごめんなさい」
「天気はどうしようもないだろ。ちゃんと温まったか?」
「はい!お風呂ありがとうございました。ドライヤーも」
「…おう」


雨で冷え切ったおなまえが風邪を引かないように風呂を用意して、一先ずその体が温まったのは良しとしよう。
髪を乾かして貰ってたおなまえは屈託ない笑顔を浮かべて「お泊りみたいです」と喜んでいたが、「でも折角お気に入りのワンピースだったのに」とコロコロ表情を変える。
その純粋さに霊幻は生返事を返しつつ不自然でないよう視線を逸らした。

余計なことを考えるんじゃない。と思考しようとする自分を外に追いやる。
とりあえず会話だ。
話してればこんな頭も切り替わる。

霊幻は窓を叩く大粒の雨に目を移した。


「それにしても偉い豪雨だな」
「やっぱり私持ってるんですよ、超能力」
「雨を降らせる?」
「です。しかも楽しみにしてる程激しい雨が降る能力!」
「だから雲がどうその差異を判断するんだよ」
「…わからないです」
「だろ?違うと思うぞ」


よしよし、いい調子だ俺。

ソファーに腰を掛けている霊幻と反対に、テーブルを挟んだ向かいの床におなまえは腰を下ろした。


「でもてるてる坊主は一瞬効いたんですよ!…結局途中で降られちゃったんですけど」
「吊るしてたのか…今時」
「だって毎回そうなんです。幼稚園のお遊戯会で劇の主役だった日からずっと。長期休みに旅行に行けば台風がくるし吹雪くし、遠足も臨海学校も。運動会ばっかり快晴で」
「ただ雨女なだけで考えすぎじゃないか?」
「わかってないです霊幻さん!」


バシっと軽めではあるがテーブルに両手をついておなまえは熱弁を奮う。
その勢いで捲っていた袖がずり落ち、襟元が寛いで首元から肩が半分露わになる。


「雨女がいるなら晴れ女晴れ男だっているでしょ。なのに!その人たちの効果を悉く上回っていくんですよこの力は!」
「お、おう…」
「…それとも私の能力じゃなくて…、実は何かに呪われてるんでしょうか…」


「霊幻さん、私に何か見えますか?」とおなまえは僅かに俯いたまま霊幻を窺う。
霊幻は見えそう、と返しそうになった口を引き結んだ。

だから、考えるんじゃない。
しっかりしろ。

霊幻は悪魔のようなもう一人の自分を叱りつける声が遠くなっていくのを感じる。
風呂上りで上気した目で見つめられて、オーバーサイズの危うい首元からその奥が覗けそうで「見るな」と理性が言っているのに釘付けられたかのように動かせない。

急に反応が薄くなった霊幻におなまえは首を傾げて立ち上がる。
その際さりげなくスウェットのズボンを押さえるようにするのに気が付いて目を瞠った。
突然動揺し始めた霊幻を余所に、おなまえは霊幻の隣に腰掛けて見上げる。


「ちょっ……と待て」
「…どうかしました?霊幻さん」
「……いや…」
「? 霊幻さん?」
「………」


自らの膝に肘をついて、霊幻は鼻から下を手で覆う。
視線だけは隣のおなまえと合わせていて、おなまえはまた首を傾げた。
しばらくそのまま沈黙が流れてから、「お前」と掌の中で籠った声が雨音の隙間から聞こえる。


「まさか下、履いてないのか」
「なっ……!」
「履いてるよな」


そうであって欲しい。
そう言って欲しい。
嘘でもいい。
そう言ってくれ。

なのにおなまえはグッとスウェットが脱げないように握り締める手に力を入れて、そのまま顔を赤くして黙り込んでしまった。

…もういい。

霊幻はおなまえの答えを待つのを止めて、出していた目元もその手の中に収める。
スライドしたことで掌の外にでた口から「…わかった」と低く零す。

これでは嘘を言われても意味がない。
この正直者め、と頭を抱えた。

おなまえは隣で「中までびしょ濡れになっちゃったんです」と真っ赤な顔で言うが、もう霊幻の頭には届いていない。
どうしようと思考すればそれだけで足を踏み外しそうで、自分を無にしようと停止していた。
何も言わなくなってしまった霊幻の隣で、どんどんおなまえの声が小さくなっていく。
次第に外を打つ雨の音が引いて行って、完全な静寂がやってきた。


「……」
「…れ……さん…」
「……」
「………っ…」
「! おなまえ…?」


眉間に皺を寄せて目を固く閉じている霊幻の耳が、微かに鼻を啜る音を捕まえて「まさか風邪を引いたんじゃ」と止まっていた思考が動き始める。
ハッとして隣を振り向くと、おなまえは小さな肩を震わせてポロポロと涙を零していた。
慌てて霊幻はおなまえの肩を抱く。


「む、無視して悪かった!感じ悪かったな俺」
「…ち、違います…っ…ぅ、私が…デート、台無しにしちゃったから…っ!」
「台無しになってないって!最初からウチに来るのが目的だろ。今ちゃんと二人で家にいるし。…そりゃあ、その…」
「……その…?」
「……あぁ…クソ…」


霊幻は自分の頭をわしゃわしゃと掻くとおなまえに向き直って抱き締める。
「こういうの、場当たり的に流そうとしてるって思われそうだけど、違うからな」と言いながら痛くない程度に力を込めれば、押し付けられたおなまえの耳に霊幻の鼓動が伝わる。
そのリズムが早く刻まれているのに気が付いて、あの霊幻が緊張しているとおなまえまでそれが伝播して涙が止まった。
おずおずと霊幻の背中に手が回って、二人の体が密着するとおなまえのスウェット越しの無防備な体が際立って「これを意識するなってのは無理だ」と霊幻は小さく零す。


「え…?んむ…」


おなまえの頬に手をやり上を向けさせ、その唇に自らのを重ねて啄む。
触れ合うものから徐々に深く変化していくとおなまえの呼吸がそれに合わせて乱れていく。

キスの合間に漏れ出る鼻に掛かったおなまえの声が霊幻の耳を擽り、頬にやっていた手が顎から首筋を滑り服の上からおなまえの胸に触れた。
一瞬ピクリとおなまえは肩を震わせたが、抵抗しないのを見てそのまま優しく撫でつつ服の内側から主張してきている頂を擦る。
しばらくそうして続けていると強ばっていたおなまえの体から力が抜けていき、息を詰めるだけだったのから甘い声が出るようになってきた。

それを見計らって霊幻が裾を捲ろうと指を掛け、おなまえの様子を見る。
その霊幻の目に普段見せないような情欲が宿っていて、それなのにおなまえの許可が下りるのを待っているのがおなまえの胸を締め付ける。
コクリと頷くとゆっくり肌を撫で上げるようにスウェットが捲り上げられた。
露わになった白い胸に霊幻は唇を寄せて先を舐める。


「ふ、ぁ…っ…あ!ん…っ」
「…噛むな、傷になる」


指で擦るよりも反応が良くなって、おなまえの声が上擦った。
反射的にそれを抑えようと唇を噛み閉めれば、霊幻の指がそれを制してくる。
そのまま口の中に侵入してきて、舌や頬の内側を指先でなぞったり擦ったりと口内を愛撫する。
おなまえはその指を噛んでしまわないように注意しながら、口から溢れそうになった唾液を飲み込むと、霊幻の頬が強張った。

静かに口内から指が引き抜かれて、唾液の糸が名残惜しむように伝う。
霊幻は躊躇い無くその指をしゃぶると、空いている方の掌でおなまえの胸から臍を何度かさすって臍の下で止めた。
その先を想像しておなまえの瞳が期待と不安で揺れる。


「……やめとくか?」


僅かな不安の色を見逃さなかった霊幻が掠れた声で尋ねる。
おなまえは羞恥に染まった頬で首を緩く左右に振った。


「やめ…たくない、です…」


その声は尻すぼみになっていったが確かに霊幻の耳に届いて、それを聞くとおなまえの体を抱き上げてベッドに降ろす。
肌が布団と直接触れて、おなまえの胸が高鳴っていく。


「…気が変わったら言えよ」
「は、い…」


もう一度指をしゃぶり唾液を絡めると、スウェットの中に滑り込ませておなまえの秘部を撫でた。
僅かに粘着質な音を立てると溝に沿うように霊幻の指が往復して唾液と愛液が混ざっていく。
初めて触れられるそこにおなまえは違和感しか感じなかったが、霊幻の指が溝の上の方に触れる度ジンとした痺れが下半身に広がっていくのがもどかしくて霊幻の腕を掴んだ。


「痛いか?」
「よ…よく、わからないです…」
「……ちょっと腰あげてくれ」
「? はい……?」


言われるままに腰を上げると、スウェットが下げられて脱がされる。
曇りがちといえどまだ明るい部屋で晒されることにおなまえが声を上げる間にも、霊幻は足を閉じられないように抱え込んだ。


「れっ!…霊幻さん、な、なに…?」
「舐める」
「舐め…!? ひ、う…っ」


抱え込んだ腰が逃げないように固定されて、霊幻は宣言通りおなまえの秘部に舌を這わせる。
指とは違った温かくて柔らかい感覚にゾクリと足先が伸びると、先ほど痺れを感じた所を霊幻の舌が舐った。


「あ、っ?!や…、あぁっ…変……!」
「ん?」
「そこ…何か…っ、ジリジリします…」
「指よりこれのが良さそうだな」
「ひっ…あぅ!…あ、…んっ」


段々とその痺れが強くなってくる。
霊幻はおなまえの声が高くなっていくのに合わせて、僅かに緩まった入口に指を少しずつ挿し込み襞を掻き分け中を探った。
ザラリと指先に当たる感触が変わる箇所を見つけると、指の腹でそこを圧し擦るように動かしながら舌を尖らせて肉芽を舐め上げる。
それを繰り返す内にビクビクと内腿が震えて、止められない嬌声の合間におなまえが霊幻を何度も呼んだ。
腰を抱えていた指をおなまえの指に絡めて握ると、その手に縋るようにぎゅうと握り返される。


「あぁっ…やだぁ…れい、げんさ…っ」
「大丈夫だ、怖くない」
「…はぁ、っ!…ぞわ、ぞわ…止まらな……」
「…イケそうだな」
「ひ、ん…んっ、ぁああっ!」


じゅる、と吸う音がして直後おなまえの腰が跳ねた。
指を咥えた中がうねってトクントクンと脈打つと、おなまえは胸を上下させて体に巡っていく快感に震える。
霊幻は指や首、耳にキスを落としながらおなまえが落ち着くまで待って埋めたままの指を動かす。
おなまえは再びやってきたじわりとした痺れに甘い声を上げながら、霊幻の中心を服の上から摩った。


「は…、ぁぅ…っ、れ…げんさんも…」
「…触るか?」


おなまえが頷いたのを見て、霊幻は着ていた衣服を脱ぎ捨てる。
「私も」と中途半端に捲り上げられ、片足に引っ掛かったままのスウェットを脱ごうとすると「これでいいの」と止められた。


「え…でも……よ、汚れちゃい、ます…」
「いいからそれで。…おなまえも俺の触って」


もう既に汚してしまったことを恥ずかしく思っていると、霊幻はそれを気にしないようでおなまえの手首を取り自分のに近付ける。
想像していたよりもグロテスクだとおなまえは血管の浮き出たそれに怖々触れた。
これが霊幻のものだと思うと尚胸の高鳴りが増して、腹の奥が熱くなる。
締まった中に笑みを浮かべると、おなまえの手に自分の手を重ねて「こうやって扱いて」と動かす。
従順に教わった通りに逸物を扱くおなまえを見ながら中に沈める指を増やした。
もう一、二回くらいイカせれば挿れられそうかと様子を伺っていると、おなまえが体勢を変えて霊幻の先走りを舐めた。


「っ…おなまえ、」
「私も…霊幻さんに…よくなって欲しいです」


眉を下げながら「どうしたらいいですか…?」とペロペロ霊幻の先を舐めるおなまえに、また霊幻の自身が先を滲ませる。
「じゃあ舐め合ってみる?」と言えば顔を赤らめながらも頷いて、その素直さにこの後の事を想像した。
成長期の飲み込みが良い時分に、こんな行為を覚えさせている自分を責めるもう一人の自分の声。
それに想い想い合ってのことなんだから、何も悪いことなんてしてないねと言い返す。


「明日日曜だし、泊まっていけよ」


開き直ればもうその勢いを止めるものなんてない。
必死に咥えながら頷き返すおなまえに目を細めて、悪い大人に捕まった彼女をせめてめいいっぱい愛そうと目の前の蜜を舐め取った。




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