▼一緒にお布団




講義終了を告げるベルに、静かだった教室が一斉に席を立ったり荷物を片付ける音、昼食を何処で食べるかなどの話し声でざわめく。
日課になっている昼間休み中の連絡をすると、その向こう側の掠れた声におなまえはお昼を買いに向かおうとしていた足を止めた。


「…今からそっち行くから。大丈夫だよテル君」


電話口では彼が「でも」と言葉を返すが、おなまえはそれを無視して「休むの!いいね?」と言い聞かせて電話を切りキャンパス内を駆け始めた。


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ゼリーやスポーツドリンク、冷却シートに風邪薬とのど飴、すぐ食べられるようにいくつかのレトルト食品と食材を両腕にぶら下げて静かに合鍵を回しおなまえはテルの部屋に入った。
なるべく気配を潜めていたのに、靴を脱ぐ前に部屋の奥からテルがやってきてその顔が林檎のように真っ赤なのを見て両手の荷物をその場に置き慌てて駆け寄る。


「テル君、寝てなさいって…」
「おなまえさん…学校…」
「いいの」


頬に触れるとおなまえのひんやりした手がテルの熱を吸っていくようで、テルは重たい瞼をうとうとと閉じかける。
額に張り付いていた冷却シートは既に乾いていて剥がれかけていた。
ポケットからハンカチを出すと額の汗を拭いてやり、ベッドまでテルの体を支えながら進む。


「お薬飲んだ?喉乾いてるとか、お腹すいたとかは?着替える?」
「……て…」
「なぁにテル君?」


僅かにテルの乾いた唇が動いて何か言ったのがわかるが、掠れきっていて聞き取れなかった。
テル自身熱で朦朧としているのだろう、苦しそうに呼吸をするのに必死でベッドに座らせると力なく伏せる。
玄関に置いてきた荷物と洗面所からタオルを何枚か持ってきておなまえはすぐに部屋に戻った。
腰掛けて上体を倒したまま目を閉じていたテルがおなまえの足音にパチと瞼を上げる。


「お布団入ろう。背中にタオル敷くね」
「…うん…」


重い体を引きずるように体勢を変えると、おなまえが手伝って掛布団を掛けた。
前髪を指で払い、新しく冷却シートを張り直してゼリー飲料を枕元に置く。


「此処にゼリー置いておくからね。私スープとか温めたらすぐ食べられるようなもの作ってくるから…」
「……おなまえさん……」
「ん?」
「…そばにいて…」


高温で震える指先がおなまえの手を掴んで離れることを拒んだ。
熱に浮かされながらもその指はしっかりと握られて、おなまえは袋から出されてもいない荷物たちをチラリと見る。
どれも常温保存できるものだったのを思い出して、ベッドに腰掛けた。


「うん、此処にいるよ」
「……」
「…どうか、した?」


まだ何か言いたげにしているテルの表情の機微を感じ取って、おなまえは近寄る。
するとテルはベッドの奥に寄っておなまえの手を引いた。
おなまえは引かれるままベッドに上がって首を傾げる。


「? 膝枕がいい?」
「ひざまくら…は、…今度して…」
「ふふっ、わかった今度ね。どうしたの?」
「ん」


小さく声を出してテルが両腕を広げてみせた。
それを見ておなまえは自分も布団に入り、テルの体に優しく腕を回す。
テルはホッとしたように顔を綻ばせるとおなまえの背中をぎゅうと抱き締めた。
胸に顔を埋める様にするテルに、苦しかろうと上体を離そうとしたらグイッと引き寄せられる。


「テ、テル君。余計苦しくなるでしょ」
「苦しくない」
「いや顔埋まっちゃうしね…」
「…いかないで…」
「う…」


弱々しく言われると引き離すことも憚られて、おなまえは仕方なくテルの背中を撫でる。
しばらくそうしていると静かな寝息が聞こえて、ようやく休んでくれたとおなまえも安堵する。
一人きりの部屋でただ高熱に耐えるのは辛いものだ。
少しでもテルが楽になればとその頭に唇を落とした。


「おやすみ、テル君」





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03.28/JD彼女とテルが一緒にお布団



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