▼あの時みたいに




学校に向かう為に少しだけ早めに上がらせて貰って、夕陽で紅く染った通りを一人歩いていると、向かいから歩いて来る人影が俺の数メートル前で立ち止まった。
視界の端でその人影がこっちを見てる気がして顔を向ける。


「やあ、芹沢」
「…みょうじ」


俺と同じくツメにいたみょうじがそこに居た。
みょうじは自然な所作で俺の隣に立って「歩きながら少し話そうよ」と微笑む。
思いがけない人物に出会って、俺の鼓動が早くなる。
それと一緒に、胸騒ぎみたいな妙な感じも。

みょうじは自分の近況と俺の近況を話したり聞いたりしてから、一拍間を置いて今夜会えないかと切り出してきた。
これから学校だし、俺は外での連絡手段を持っていない。
そう答えると「じゃあ適当に終わるまで待ってるよ」と返ってきた。


「…大分遅いし、待たれてると気にするんだけど」
「適当にって言ったろ?何もハチ公じゃなし。漫喫なり店なり入ってるよ」
「……」
「…少し振りなんだし。大目に見て、さ?」



---



ツメに居た時、みょうじはしばしば俺の相手をしていた。
話し相手(ほとんど俺が聞く方だったけど)だったり、学のない俺でも読めそうな本を持ってきてはこの話が好きなんだと読んできたり。
一緒にご飯を食べたり、酒を飲んだり。
時にはそれ以外のことも。

今ならわかる。
宛てがわれていたんだ。
社長の命令でそうしていて、そこにみょうじの意思はなかった。
流石にどうかと当時の自分の神経を疑いたくなるけど、あの時は何の疑問も抱かなかった。
多分みょうじも。
なのに…みょうじは、どうして俺に会いに来たんだろう。

気乗りしない精神につられて俺の足取りも重たくなる。
学校を出てみょうじと別れた場所に行くとやっぱりそこにみょうじはいて、「いなけりゃいいのに」という囁かな祈りが通じなかった現実と向き合う。


「…お疲れ様」
「…どうも」
「呑みにでも行くかい?奢るけど」
「いい。…話ならそこの公園で聞くよ」
「ずっと外にいておなまえさんはちょっと疲れちゃったんだ。風のないとこで座りたいな」
「…ねぇ、適当に時間潰すって言ってたろ」
「潰してたよぉ?じゃあそこのモブドナルドにしよう」


それならいいだろ?とみょうじが笑った。


---


「…で、今どうしてるんだっけみょうじは」
「しがない書店員してるよ」
「みょうじが?本屋に?」
「結構気に入ってるんだよ。意外だったかい?」


紙コップのコーヒーを片手にみょうじは笑みを深める。
意外…のような、そうでもないような。
どちらかというと、"ツメ以外に所属しているみょうじ"が想像できない。


「…で、何しに来たの」
「…こんなことを言ったら笑われるかもしれないけれど…」


正直、聞きたくない。
みょうじがこれから学校があったとはいえ、本題を話さなかったんだから絶対碌なことじゃないに決まってる。
でも聞かなきゃきっとみょうじは閉店時間まで俺を縛り付けてでも話を続けそうだ。
みょうじはコーヒーを置く。


「一人でいるのが怖くなって」
「…どういうこと?」
「独りぼっちだなって」


誰だって孤独だとは元々思っているんだけれどさ、とみょうじの声が細くなる。


「急に思ったんだよ。”私は一体どこにいればいいんだろう”って」
「……」
「そうしたら会いたくなって、探しちゃった」


みょうじが眉を下げる。のに、口元は笑ったままで。
さっきまで飄々としていた癖に、突然壊れてしまいそうで。
だから。



---



こういうの、傷の舐め合いって言うんだろうか。
熱に浮かされた頭でふと思った。
一人は寂しい。寂しくありたくない。
そう思って俺を探したことに、それ以上の意味なんてないかもしれないのに。
応えなきゃ。側にいてあげなきゃ。俺がいなきゃと思ってしまう。
胸が苦しい中久し振りに触れる肌はやけに熱くて、みょうじに余裕はないのが伝わってくる。


「…はぁ、あ、…ひっ…!ん、…」


俺のがみょうじの奥を擦って、白い喉が反った。
締まる中で動きを止めてうねりが落ち着くまでやり過ごす。
今までは俺の性欲処理という仕事でそうしていただけで、彼女が達することは余りなかった。
ついその姿を凝視してしまう。
喉や上下する胸、固くシーツを掴んだ拳、揺れる腰、震える膝と強張る足先。
耐えるように結ばれた口から鼻に掛かる甘い声が漏れて、涙の滲んだ瞳が切なそうに俺を見ている。
こんなに熱い肌に触れたのは、初めてだ。


「…気持ちいい?」


尋ねた声は自分でも驚くくらい掠れてて、これじゃあ俺も余裕がないのがバレるって思った。
でもみょうじは俺以上に切羽詰まった様子で何度も頷く。
必死になっているみょうじに胸が締め付けられそうな程苦しくなって、腰を抱いて動きを再開させる。
またやってきた快感にみょうじは背を反らして胸を突き出したから、その先に吸い付くと嬌声が高くなった。

まただ。
みょうじのこの声を聞いてると、胸がすごく苦しくなる。
胸と腹の間の何かが熱をもって疼くような詰まるような。
みょうじと目が合う時。みょうじが作り笑いじゃない笑顔を見せた時。俺を抱き締める時。
そんな時に必ず感じるもの。


「おなまえ…っ」


名前を呼べば、もっと強くなる。
俺の声にみょうじが首の後ろに腕を回してきた。
顔が近付いて、口が塞がれる間際に「克也」と消え入りそうな声で呼ばれてゾクゾクする。
もうダメだ。抑えられない。
キスをしたまま夢中で腰を振って登り詰める。
何度も奥を抉ると、みょうじがくぐもった声を上げて中がまた締まる。
吸い付いては離そうとしない襞に自身を打ち付ければ、止まらない抽挿から逃げようとする腰を掴んで引き寄せた。


「んんぅ!、あっ…ん、…ふぁ…っ!」
「…ごめん…もう、少し…っ…」


先にコツコツと触れるそこに思い切り擦り付けると、ようやくやって来た吐精感をそのまま奥に吐き出す。
みょうじの首筋に顔を埋めて、腰を掴んで密着させたまま全て出終わるまで息を整えていると不意に頭を撫でられた。
気だるくて首だけ動かしてみょうじを見ると、目尻に涙を溜めたまま微笑んでいた。
苦、しい。
目尻の涙を指で拭うと、擽ったそうな顔をして「言いそびれてたんだけど」と口を開いた。


「髪、似合ってるよ。今の芹沢も好き」


そう言ってまた唇を寄せてくる。
それに応えて舌を差し出しても、胸の苦しいのが止まらない。
みょうじならわかるだろうか。
この気持ちを何と呼ぶのか。
本を広げて読んで聞かせてくれたあの時みたいに。



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