▼エクボをデトックス
「エクボって正直結構強いよねぇ?」
霊幻とモブが依頼に出ている間、お留守番組のおなまえとエクボは時たま無駄な世間話をしたり互いに雑誌を見たり携帯をいじったりと思い思いに時間を潰していた。
そんな中突然ポツリとおなまえがそういうものだから、エクボは憑依している男の体をどっしりと受け止めているソファーから受付席のおなまえを見た。
『…まぁ俺様上級悪霊だからな』
「だよねぇ?じゃなきゃ平日に人の肉体なんて拾ってこれないよなって思ってたの」
『あぁ…。まー人間気ィ抜いてる時なんて結構あるだろ』
「そう?」
怪訝な顔を浮かべるおなまえに、エクボは例えばだけどよ。と欠伸している時、入浴する時、疲弊して溜息を吐いたその時に、気を張っている人間なんていないと説明する。
それを聞いて「なるほど〜」とおなまえは頷いた。
『…で、何でまた突然そんなことが気になったんだぁ?』
「エクボが突然闇堕ちしたら私何とかできるんだろうかと思って」
『闇堕ち?なんだそりゃ』
「今読んでる漫画のキャラが敵の手に落ちて仲間を裏切るんだよね。で、もしエクボが敵になったら私は説得なりショック療法なりできるのかなって」
ダラけていますと体全体で表現しているように何かボーッとしてるなと思っていたらそんなことを考えていたのかとエクボは呆れ半分、納得半分でその話を聞いていた。
おなまえが俺様にショック療法ねぇ、と自分も想像してみる。
『お前が?…ハッ、そら無理だろ』
「だよねぇ?逃がして貰えるかも怪しいなってとこまで考えたの」
『…逃がさねぇだろうなぁ』
「わー。そうかぁ。捕まっちゃうかぁ…やっぱり殺されちゃうのかなぁそうなると」
何とも呑気な返事にエクボは毒気を抜かされそうになる。
もし俺様がおなまえを手に入れたら…。
殺すのは何だか気が向かないな、と選択肢がひとつ消える。
『生かすだろうがどうだろうなぁ?』
「えぇ?生かしては貰えるの?」
『霊力を吸収してお前から力を奪うかもしれねぇし』
「あー」
『洗脳して俺様の手駒にするかもしれねぇ』
「わー。私まで裏切りフラグかぁ」
それは辛いなぁ。とおなまえは想像の中の話なのに悲しそうな表情になった。
『意識はそのままに感覚だけ乗っ取って裏切らせるとかどうよ』とエクボが言うと、益々その顔は歪んで「鬼畜の所業だ」とおなまえに言わしめる。
「エクボ洗脳なんてできちゃうのかぁ。それどうやって防ぐの?」
『ん?そうさなぁ…強い精神力か…霊素で分厚く守るか…じゃ、ねぇか?』
「どっちも無理そうだなぁ」
『諦めが早ぇな』
「頑張るの苦手だし」
それじゃあ洗脳し甲斐がない、と不満げに言うと、おなまえは歪んだ顔のまま口角を下げた。
「本当に鬼畜じゃん。闇堕ちしないでね」
『さぁな。精々見張ってろよ』
「頑張るよ」
『…苦手なんだろそれ』
先程の発言と矛盾してるだろと今度はエクボが顔をしかめた。
相変わらず受付でダルそうにしているおなまえはようやく手に持った漫画のページを捲る。
「自分で踏ん張るのは"いっかなぁ"って思う。でもエクボは敵にしたくないから踏ん張らせるのを頑張る」
『俺様が踏ん張るのかよ!』
なんて自分に甘いヤツだ。
そうエクボが嫌味を言うと、強いんだからさ、とおなまえは笑う。
「上級悪霊様なら敵の手に落ちるなんてマヌケしないよね」
『俺様を誰だと思ってんだよ、エクボ様だぜ?』
「きゃー」
棒読みの悲鳴についエクボも笑ってしまう。
『お前こそすんなり洗脳されて堕ちるなよ。つまらねぇからな』
「…今のエクボすごい悪役っぽかったよ」
『悪霊だっつってんだろ!』
本当に人の毒気を抜くのが得意なヤツだわ、とエクボは『そういうとこだけ尊敬するよ』と零す。
何のことかわからずにおなまえが首を傾げると、エクボは頭を掻きながら反対の手で払った。
「ねぇ、なんのこと?」
『無自覚なのが一番質が悪いって話だよ』
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