▼螺旋の行き付く先

渦みたいな人がいる。
近づけば巻き込まれてしまうし、覗けば吸い込まれそうになる。
なのにどうしてか構わずにいられなくなるような人。


「…どうしたの。家に電話なんかしてきて」


夜の9時過ぎ。
そんな普通なら他人の家に上がるなんてしない時間に僕はおなまえの部屋にいた。
おなまえが家に電話を掛けてきて、直接自分の部屋に来て欲しいなんて呼びつけてきたから。


「律に会いたくなっちゃって」


おなまえは近所に住む高校生の女の子だ。
昔はよく一緒に遊んでた。
最近になって偶然再会して以来、何かと理由をつけては顔を合わせている。
「うまいことして部屋来て」なんて、僕が超能力を使えなかったらどう来させるつもりだったんだろう。
でも彼女の突飛もない言葉に従うくらい僕はおなまえのことが好きだ。
惚れた弱みに付け込んでくる時のおなまえはちょっと意地が悪い。
多分寂しいんだと思う。
だから自分の要求がどこまで呑まれるかで試してきてる。


「ねぇ、律…」


窓元に立っている僕におなまえは体を向けて、小首を傾げながら少しだけ両手をあげる。
余裕を感じさせるようにその口端は上がっているのに、瞳に映る光は悲しそうに揺れている。
だからその言葉や行動の真意がどうなのか、なんて疑問を外に掃き出してつい抱き締めてしまう。
これでおなまえが安心してくれるんなら、それでいい。


「あったかいね、律は」
「……おなまえは…」


腕の中で彼女が身を擦り寄せてきた。
首筋からおなまえの香りが2人の体温で混じって香る。
開き掛けた僕の口元をおなまえの人差し指が縫う。
僕の肩に頭を預けたままこっちを見て、またあの顔が。


「…律、ドキドキしてるね」
「……」


語り掛けてくる癖に指は退かされない。
から、抗議の意思を視線で表すとおなまえは瞳を閉じて口元の指を僕の背中に回す。
少しそのままおなまえの顔を見つめていると、顎が僅かに上げられて背中の手に力が篭った。
誘われるまま顔を寄せて唇を合わせる。
しっとりしたおなまえの唇が開かれて、その吐息が僕の耳に熱を灯す。
隙間に舌を差し込めば迎えられてあちらからも絡ませてくる。

この人はいつも、こうやって誘い込んで逃がさないんだ。



---



ギシリ。

互いに息を詰めて、物音を気にしながら肌を合わせる。
ぞっとするような緊張感と背徳感。それを上回る快感。
僕の下でおなまえの肩が震えた。
乱れた呼吸に声がつられて出そうになりそうなのに気が付いてキスをすると、中が締まって僕まで声が漏れそうになる。


「…っ、おなまえ…」
「は…、ごめ…ぁっ、」


おなまえも気持ちよさそうに潤けた表情で見つめてくる。
譫言みたいに僕の名前を囁いては嬌声を堪えて、僕が与える快楽を必死に受け止めている。

この姿は僕だけのものだ。
夜呼ばれる度に周囲を気にしながら家を抜け出して、彼女に望まれるままそれに応えているんだから。
そう思ったって罰は当たらないだろう。
ちょっとくらい、やり返したって。


「…! ゃ、ゃだ…っ律…!」


再びザワつき始める中から深く沈めた腰をゆっくり引き抜いていくと、おなまえは身震いしながら首を振った。
追いかけてこようとする腰を両手で押さえて固定する。
さっきまで蜜のようにとろけていた瞳が不安な色へ変わっていった。
背中の手が握りこまれる。


「どうして…?止め、ないでぇ…」


掠れた声で続きを求めてくる。
乞われることに充足感を得る反面、物足りなさもあった。
僕が君に差し出している気持ちの見返りは、これくらいじゃあ 足りない。
君の都合にひたすら合わせるだけじゃあ割が合わない。


「ねぇ、おなまえ。僕は君が望めばなんでもしてあげるよ」
「帰りに迎えにも。どんな話だって聞くし、呼ばれればどんな時間でも」
「どんなお願いだって、聞いてあげる」

「だから」


腰を掴んでいる手に力をこめる。



「僕だけを求めてよ」



おなまえは戸惑っている。
当然と言えば当然だ。
僕から"好き"を差し出すだけ差し出しておきながら、自分は明確な返答を避けて曖昧に逃げていたんだから。
寂しがりだからこそ言葉に縋ってしまうし、言葉の力が強いのをおなまえも知っているから言いたくないんでしょ。

あと少しで昇り詰められるというところで焦らされて、彼女が我慢なんてできないことは想像に容易いけれど。
言えば僕はもう逃がさない。

おなまえの肌に滲んだ汗が玉になって伝っていく。
答えることを拒否するように引き結ばれた口を、顎に手を掛けて開かせた。


「言ってよおなまえ」
「り、律…ぅ、あ!」


迷っている彼女の入口で止まっている自身を少しだけ押し込むと、息を吸うのに合わせてそのままキスで口を塞いだ。
くぐもった声が二人の熱で蒸す部屋に散っていく。
わざと浅い所でゆるゆる中を掻き回すように腰を揺らせば、すぐに息が乱れて溢れる愛液で水音が増した。


「わ…たし、…律が…っ律だけ、が…----」


吐息交じりにその言葉を言って、もう我慢できないと言いたげに下半身を摺り寄せてくる。
それだけで背中に電流みたいな刺激が走り、彼女に答えるように突き入れた。
喉を反らして長く息を吐くおなまえの体を掻き抱いて、何度も。


「…おなまえ…っ、は…」
「ん…っん、…ふ…り、つ…っ!」


跳ねる腰を押さえつけて打ち付けると、おなまえの瞳から快感で溜まった涙が零れる。
それを舐め取って、波打って吸い付いてくる中に激しく自身を擦り付けて僕も熱を吐き出す。
腰が震えて荒い呼吸を繰り返すおなまえの手に、自分の指を絡めて握り締めた。
おなまえはその手を弱いけど確かに握り返してきて、「りつ、好きだよ」と改めて言ってくれる。
涙がまだ溜まったまま微笑まれると、また掻き乱される。
今さっき満ち足りたばかりなのに、いとも容易く。

中に入ったまま硬度を取り戻していく僕に気が付いて、おなまえが空いている方の手を僕の首の後ろに回す。
この先僕がどうするのか観察するような目だ。
掴まえたはずなのに、気が付けば主導権が移って導かれている。

お互いハナからなかったんだ。
逃がすつもりも
逃げるつもりも。



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02.27/高校生夢主裏



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