▼晴れの日も君と

放課後のチャイムが鳴って、おなまえは迷いない足取りで部室のドアをガラリと開けた。
中には既にトメがいて、鞄から携帯ゲーム機を取り出した所と目が合う。
トメはおなまえを見て「アンタまた来たの」と呆れた顔を浮べた。

雨の日に限って肉体改造部兼脳感電波部の部室に通いつめてくるおなまえ。
彼女の目当ては肉改部の部長・郷田武蔵だ。


「だって、晴れてたら皆走り込みにでちゃうけど雨だったら自主トレだよ!来るでしょ!」


鼻息を荒くしてトメに答えるおなまえ。
と、そこに件の武蔵がやって来た。


「武蔵くん!こんにちは!」
「ああみょうじ、もう来てたのか。こんにちは」


武蔵の後続々と脳電部と肉改部のメンバーが集まってくる。
そこそこの頻度で部室に来るので、部外者のおなまえが遊びに来ていてもトメがちょっと小言を言うくらいだ。


「…ホント飽きもしないでよく来るわねぇ」
「あ、部長」
「ただ見てるだけじゃない何が楽しいのよ」
「それ言ったら」
「筋トレなんて」
「……」


雉子林たちが止める声も虚しくトメはただ筋トレに励む武蔵をうっとり見つめているおなまえに言ってしまう。
ゆっくりとおなまえは振り返った。


「武蔵くんはね!棘下筋が発達してるからあらゆる腕の筋肉の動きが安定してるの!キレイなの!ホラ!」
「許可局?」
「きょく!か!きん!ココね」
「みょうじは本当に筋肉が好きだなあ、ハハハ」


そう言って腕立て伏せ中の武蔵の背中に乗って背中と肩の付け根辺りを指差すが、まったくわからない。
一方でおなまえはもう止まらないという風に目立つ筋肉も好きだがこういう他の運動を支える役割を担う筋肉にこそトキメキが詰まっているのだと、腕立てで上下に揺られながら頬を染めて拳を握っている。


「ふぅん。で、アンタ今その武蔵クンに乗ってるけど」
「ハッ。ご、ごめん武蔵くん!」


我に返って急いで武蔵から降りて謝る。
しかし武蔵は「降りるのか」と少し意外そうに目を丸くした。


「邪魔しちゃうし」
「さっき乗って貰って気が付いたんだがな」
「え…何?」

--私の体重…まさかバレた…?


おなまえの顔に緊張が走った。


「みょうじに乗って貰うと体の負荷が丁度良いんだ。見てるだけではつまらないだろう、手伝うと思って協力してくれると助かるんだが」
「あ。良かった…え!?いいの?」
「部長、最近新しいトレーニング考えなきゃなって言ってましたもんね」


梅雨は室内トレーニングが増えるからな、と武蔵は頷く。


「みょうじが嫌でなければでいいん…」
「やります!どうぞ!持ち上げるのでも乗るのでも、背負うのでも!」


食い気味でそれに答えると、おなまえはどこからでもどうぞと言わんばかりに両手を広げてみせた。
それに武蔵はそうかそうかと笑顔を浮かべる。


「じゃあまずは…」
「ちょっとちょっと!」


早速おなまえを担ぎ上げようとする武蔵にトメはストップをかける。


「まずは!着替える!スカートでしょアンタ」


トメの言葉に武蔵が固まる。
一方のおなまえはすっかり抜けていたという表情で掌を打った。


「忘れてた。武蔵くん、私ジャージになってくるね」
「あ、ああそうだな、すまない」
「気をつけなさいよ、女の子なんだから」


あんまりにも通い馴染みになっていたものだから、トメに言われるまですっかり失念していた。


「…もしかして、女子を錘代わりにするのは失礼だったか…!?」
「………」


当たり前だよ。と思ったが、誰も言葉にはしない。
近くのトイレで着替えてきたおなまえが満面の笑みで戻ってきたからだ。


「お待たせ!さあ武蔵くん、どうぞ!」
「…本人がこんだけ喜んでるんだから、いいんじゃないの」
「そうか!みょうじ、助かる」


これで雨でなくても会えるな!と豪快に笑う武蔵に、おなまえは戸惑いながらもその顔を綻ばせて頷いた。



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02.27/筋肉大好き夢主と天然武蔵



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