▼ここに身を埋めよう

今日最後の予約客を送り出して、霊幻は終業を伝える札を扉に出し静かに鍵を閉めた。
「あー、終わった終わった」と首を鳴らしながら部屋に戻り、受付の席で事務作業をしているおなまえに「お疲れ」と労う。


「霊幻さんこそお疲れ様です。今日はちょっと大変でしたね、お役に立てなくてすみません」
「まー、心霊現象じゃない方が本当はいいだろ。気にするなって」


茶でも淹れるわと席を立とうとするおなまえを手で制して給湯室に入る。
お茶…よりはコーヒーだな、と癖で慣れ親しんだ湯呑みを持ち上げようとする手をカップの棚に伸ばした。


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カフェイン効果ってこんなことあるだろうか、とおなまえはキーボードを叩いていた左手を休めてこめかみを押さえた。
右手だけでパチパチと打ち込みを続けるが、段々その指先にジンジンと痒いような感覚が走るようになる。
何だろう、と打つのを止めて自分の手を見つめた。


「そっち終わったかー?」
「…すみません、まだです。もう少しかかります」
「ん?頭でも痛いの?」
「い、いえ。大丈夫です」


呆としている場合ではなかった。自分が打ち込みを終えないと霊幻が帰れない。
首を横に振って否定するとゾクリと身震いが走り軽い眩暈がした。
震えでカーソルがブレてミスクリックしてしまい、PCからシステム音が鳴る。


「…手伝おうか」
「ぃや…、平気ですから…」


拒む声を無視して霊幻は隣に立ち、マウス上のおなまえの手に自分のそれを重ねる。
厚みのある掌が甲に触れただけでおなまえは肩を強張らせた。


「れ…れいげんさん…大丈夫です、から」
「まあまあ」


頭上で喉を愉快そうに鳴らされておなまえは気が付いた。
この人、何でこんなに楽しそうにしてるの。



「…何、か…したんですか…?」
「…」


返事はない。
鼓動がうるさい。
クスリと息の抜ける音に顔を上げた。


「…さあ?」
「…っ、」


細められた瞳が見下ろしている。
おなまえは咄嗟に離れようと霊幻の手を振り落として席を立つ。
が、眩暈が強くなり真っ直ぐ立てずに壁に身を預けた。

体が熱い。
服の僅かな擦れでさえ刺激になって熱の籠った息を吐き出してしまう。
鼓動が激しくてなんとかしようと胸を抑えるが落ち着くこともできず、掠れた声が言葉にもならずに口から洩れた。


「苦しそうだな」
「…よく、言いますよ…」


おなまえの震えた声は既に情事中のそれのようで、霊幻は一層笑みを深める。
壁に寄り掛かったまましゃがみ込んで息を整えようとしている彼女の手を取る。
また振り解こうと肘が上げられるが、霊幻はそれを難なく払うとしっかりと掴み直して指を絡める。


「離してください…帰ります」
「へぇ?そんな状態で帰んの」
「ですか、らぁっ」


振り上がったまま壁に固定されている左腕。
無防備に開かれているその脇腹をゆっくり霊幻の指がなぞる。
ただ指の先で触れられているだけなのに大袈裟に体は反応してしまい、おなまえは胸を抑えていた手で口元を覆う。
これだけのことでこんな声を上げてしまう自分が恥ずかしくて涙が滲んできた。
もう触らないでと必死に首を振り睨みつける。


「泣くなよ、しょうがないって。オクスリのせいなんだから」
「…やっぱり、何か…盛ったんですね…っ!」
「最近忙しくてあんまり時間取れなかったろ〜?」


愉しませてやりたいなと思って、とニヤニヤしているその顔を張り倒したいが力は抜けていく一方で全く入らない。
信じられない。此処は仕事場なのに。
そう悪態を吐いてやりたいのに出るのは悩まし気な吐息交じりの掠れ声で、これでは霊幻を煽るだけだ。
それがわかっているからせめてもの抵抗にと口を抑えるので精一杯だった。
霊幻の腕は力を緩める気配もなく、逃がす気もないのが表情から見て取れる。


「楽になりたいだろ、なぁ」


耳元に落ちる声に体が反応する。
声だけなのに、と自分に言い聞かせてもより羞恥が増すだけで、おなまえは諦めて右手を下ろした。
火照る表情に影が落ちる。



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「…ぅ、も…やだ…っやああ!」
「まだだって」


もう何度目かの絶頂におなまえの喉が震える。
幾度も体を重ねて知り尽くした肢体。
霊幻の指は高みから降ろすことを許さない。
桃色に染まり切った胸元に痕を残しながらふやけきったおなまえの表情を見つめる。
とうに塞ぐことを止めた口からは漏れ出るという表現が相応しいほど力のない嬌声。
視線は遠いのに名前を呼ぶと律儀に見つめ返して中が反応する。
まだそんな意識があったのかと沈めた指先が再び肉壁を擦る。


--一度とことんドロドロにしてやりたいと思ってたんだよな


ただ、見たい。
自分が果てることよりも、何も考えられないくらい快感に染まったおなまえが見てみたい。
中々いい買い物だったと唇を嘗めた。
おなまえの膝が震えて膣が収縮する。
纏わりつく襞からゆっくりと指を引き抜けばそれだけで身を震わせた。

ギシリと椅子に背を預けて、涙や汗、唾液と愛液でびちゃびちゃになっている自分の机を撫でた。
3回だか4回目かに達した時に霊幻のテーブルに移動してからずっとコトに及んでいる。
冷たくないように施術に使うタオルケットを敷いてはあるが、それもすっかり水分を吸って意味をなしていない。
此処に座ってるだけで今日のことを思い出すんだろうなあ、と近い将来の姿が思い浮かばれる。
しばらく仕事が落ち着かない予感しかしない。お互いに。
それもそれで悪くない、と霊幻は一人で笑みを浮かべた。


「…ぁら、たかぁ…っ」


足を擦り合わせておなまえが身を捩り、掠れきった声で呼んだ。

俺、仕事とプライベートで呼び分けるおなまえのコレ、好き。
呼ばれただけでゾクゾクするわ。

霊幻の笑みが深まる。


「どうした?」
「…は、やくぅ…!」


臍の下に置いた手の指がもどかしげに動く。
ああ、と勿体ぶった口振りで霊幻がその手の下に自分の指を滑り込ませた。


「コレでイカせて欲しい?」
「ちが…手、ゃだ」
「ん?」
「や、あぁっ!あ…っ!」


小刻みに下腹部に当てた掌を揺さぶればおなまえは首を振って否定するが、構わず続ける。
すぐさま熱が再燃してあっという間にイってしまう。
上下する胸を余所に掌を揺らし続けていると涙交じりに名前を呼ばれてその手を止めた。


「あ、ら…たかっ!」
「うん?」
「…欲しぃ…」


何を、と聞いてやる前におなまえの足の平でスラックス越しに霊幻の中心を擦られ、ハッと口角を上げながら息を吐き出した。
ずっと勃ち上がりっ放しだったソレはもっと楽しむつもりだった霊幻の意思を簡単に歪めていく。


「すげーな。こんなおねだり今までしたことねぇじゃん」
「…っ…手、止めて…」


足先でファスナーを下ろそうとしているが、上手く力が入らなくてそこまでは厳しそうだ。
おなまえが苦戦している間休めていた下腹部の手を再開すると、もうその足から力が抜けてずり落ちていく。
まあまあと宥めながら空いている手でファスナーを下ろして、ポケットからケースを取り出すとゴムの包装を破く。

着ける間におなまえにもう1回イっといて貰おう。
ここまで出来上がってると互いに持たないんじゃないかと思うが、もうそんなことよりシたい欲の方が強い。
やっぱりなんだかんだで好きな女から求められたら勝てないよなあと自分に言い訳しておく。
それもやらしければやらしい程イイ。
仕方のないことだ。


「はぁ…っ、ん…」
「…ふ、っ…」


身を沈めれば思った通りそこはグズグズな癖に吸い付くように締め付けてきて、霊幻は息を詰める。
自分の下でおなまえが恍惚とした表情でいて、そんなに”満たされてます”って顔をされると今まで焦らしていたのが申し訳なくなってくる。
おなまえはようやく迎えられた霊幻を離すまいと首に片腕を回すと、片肘を立てて身を起こし唇に吸い付いた。
霊幻が背中に手を回してそれを支えながら舌を差し出せば、おなまえはその間すら惜しいと言いたげに腰を浮かせて律動を催促する。
ホントやべーと霊幻は緩む頬のまま抽挿を始める。
指では届かなかった最奥を刺激されて、おなまえは甘い声を上げる。


「ん、はっ…あぁあ、…いぃ…、ああっ!」


数回腰を打ち付ければ足先が伸びてまた達する。
うねる中に堪らず動きを早めて痙攣する奥に自身を擦り付ければ霊幻も熱を吐き出して腰を震わす。
史上最高にエロいおなまえが見れたわ…と深く息を吐きながら抜こうとすると、その腰をおなまえの足が踵で押さえてきて抜けないように固定してきた。


「…おなまえさん…?ゴム取りてーんだけど…」
「…やだ。抜かないで…」
「取るだけだから」
「…もっ、と…」
「破けるから…っ!」


渋々解放されてゴムの始末をすれば、おなまえは萎え掛けている霊幻に舌を這わせてきた。


「ちょ…っと…!?」
「まだシたい」


ねっとりしゃぶられると愚息は正直者でまた起き上がってしまう。
すると間髪入れずに椅子に座っている霊幻の膝に乗ってきて、霊幻は慌てながらおなまえの腰を掴んだ。


「待てよ着けるから」
「…」
「着ける…って!」


構わず体重を掛けて腰を下ろそうとしてくるおなまえに、片腕では支えきれず両腕で抵抗する。
するとおなまえが顔を寄せてきた。


「どうせ使い切るから、いらない」


ホントにやばい。
後先のことを何も考えていない様子のおなまえにそう思う反面、腕の力を緩める自分もいる。

あー。墓穴だ。
……また買お。



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02.26/媚薬裏
02.27/事務員夢主裏

リクエスト合わせてしまってすみません、許して…!



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