▼ごめんね、いい子じゃいられない

休日に待ち合わせして、街の中を一緒にショッピングしたりゲーセンで遊んだり。
一頻り満喫したらもう夕暮れで、「送るよ」と優しく手を繋がれる。
自分には勿体ないくらいの彼氏だと、隣を歩く律の顔を見れば律もおなまえを見ていて微笑まれた。
頭も良くてスポーツだってできて。
爽やかだし話すと穏やかな気持ちにさせてくれる。
本当に自慢の恋人。


「…着いちゃったね」
「うん…」
「じゃあまた、学校で…」


ぎゅっと抱き締められた後その体が離れて行くのが寂しい。
すり抜けていくその腕を掴んだ。


「…? おなまえちゃん、どうしたの?」


いつもなら家の門を潜って玄関に入るのに。
律は視線をおなまえの家に寄せる。
あれ、と違和感を覚えた。


「あのね、この土日…両親、結婚式に呼ばれてて、明日の夕方までいないの…」
「……」
「だから…もうちょっと、いて欲しい」


精一杯の勇気でそう言うと、おなまえの視線はどんどん下へと落ちていく。
律の腕を掴んでいる指からも徐々に力が抜けていって、とうとう離れる。


「…って、急に言っても困るよね!ごめんね」
「え、えっと…」


僅かに手を左右に振って否定を示すと、律は首の後ろに手をやっておなまえのように下の方へと視線を彷徨わせる。


「それって、泊まっていっても良いってこと、かな?」
「う。うん」
「そっか。…じゃあ、着替えとか持ってくるから。少し待っててくれるかな」
「え…いいの…?」
「いいよ。だって、おなまえちゃん一人になるの寂しいんでしょ」


てっきり断られると心構えをしていたおなまえに、律は笑いかけた。
夜寝る時は真っ暗だと眠れないというし、雷は大の苦手だし、そんな彼女が家に一人きりというのは心細いのだろうと簡単に想像がつく。
律の言葉を聞いておなまえは何度も頷いた。



---



近くのファミレスで晩御飯を済ませて、電気の点いていない家が見えてくると反射的におなまえは憂鬱になってきた。
しかし目聡くおなまえの手を掬い上げて律が手を繋いでくる。


「怖くないでしょ」
「律君…うん、ありがと」


律に「怖くない」と言われるだけで本当に恐怖が抜けていく。
鍵を回して静かな家に入ると、律は「お邪魔します」と律儀に一声掛けた。


「お風呂沸かすね、テレビ点けるからちょっとリビングで待ってて」
「あ、うん。ありがとう」


リビングのソファーに案内されてその前のテレビを点けると、おなまえは足早に部屋を出て行く。
残された律はポスリとそこに腰掛けるとおなまえが浴室にいる物音を聞き近くにいないことを確かめてから、両手で首を押さえて息を吐き出した。
手のひらに自分の早く脈打つ鼓動が伝わる。

ちょっとテレビとかどうでもいい。
見る余裕がない。

親のいない彼女の家に二人きりで夜を迎えることに緊張が走る。
ゴクリと生唾を飲み込んだ。


--…いいや。おなまえちゃんは一人の家が怖いだけだ。やましいことは…


考えちゃ、いけない。
そう思いながら着替えの入った自分の鞄を見つめて、また息を吐く。


「はぁ…僕ってやつは…」


呟きが洩れたところで足音が聞こえて姿勢を楽にした。


「お待たせ〜。あと10分くらいしたら沸けるから、そしたら先に入っちゃってね」
「え、僕が先でいいの?」
「うん!えっと…ちょっと部屋パッと片付けたいし。お布団敷く場所作らなきゃ」
「そ…そっか。布団敷くの手伝うから、その時言って」
「ありがとう、助かるよ〜」

--やっぱり同じ部屋で寝るんだ…当たり前、か


家主のいない間に寝室をお借りする訳にも行かないし、かといってリビングのソファーで寝てと言い出す子でもない。
これはいよいよ自分の理性が試される、と律は頭を抱えたい気持ちでいっぱいだった。


「……」
「あ、鞄。先に部屋に持ってこうか?」
「…ううん、いいよ。着替え入ってるから脱衣所に持ってくよ」
「あっ。そっか」


そう答えると、リビングに響いた湯沸かし完了を告げるメロディにおなまえが「案内するね」と浴室まで律を案内する。


「タオルここに置いてあるの使って、そのあとこっちの籠に入れちゃってね。ドライヤーは私の部屋にあるから」
「わかった。ありがとうおなまえちゃん」
「じゃあごゆっくり〜」


そしておなまえは自分の部屋へと上がってちゃぶ台を隅に寄せ鏡とドライヤーを準備する。
もう一度部屋を見回して乱れがないことを確認すると深呼吸した。


「…今夜は律君がいてくれるんだ…」


何だか夢のようだと思う。
彼氏とお泊りだなんてもっと大人にならなきゃできないと思っていた。

寝間着、変じゃないよねと出したパーカーとショートパンツを見て、うん可愛い…はず!と頷く。
何故か急にまた律を誘った時のように緊張してきて、おなまえは胸に手を当て首を傾げる。


--…何でこんなにドキドキするんだろう…


---


「お風呂、どうもありがとう」


リビングでテレビを眺めていると程なくして湯上りの律がやってきた。
タオルで水気の拭かれた髪はまだ僅かに湿り気を帯びている。


「お布団これから出すんだけど、風邪引いちゃうよね」
「これくらい大丈夫。手伝うよ」


先におなまえの部屋の扉を開けられて中に促されるが、律は鞄を入口に置くと両手を少し上げて布団を運ぶ身振りをしてみせる。
その言葉に甘えて二人で布団を運び出し、おなまえの部屋に敷いた。


「ドライヤーそこね。私もお風呂入ってくる」
「うん。いってらっしゃい」


パタリと扉が閉められて、律はドライヤーにチラリと視線をやる。
髪は多分、おなまえを待っている間に乾くだろう。
手で髪を掻き上げてこれくらいなら大丈夫だと確認し、入口の鞄を拾い上げた。


---


「ただいま〜」
「おかえり」


寝間着に着替えたおなまえが戻ってきて、「ごめんね、暇だったよね」とちゃぶ台の前に腰を下ろす。
それに律は首を振って答えた。


「家から本持ってきてたから。それにそんなに待ってないよ」
「そっか。…ごめんちょっとドライヤーでうるさくなる」
「…僕手伝おうか」


水気の残る髪の毛先をブラシで梳いているおなまえにそう言うと、彼女は「いいの?」と嬉しそうに期待の籠った眼差しを向けた。


「髪乾かすの苦手なんだよね…」
「ショートじゃないと大変そうだよね」
「うん〜」


ドライヤーを片手におなまえの髪を指で梳きながら乾かしていく。
ふんわり細くて、僕のとは全然違うなと律は思いながら手を動かす。
後ろの方が終わって前を向いて貰うと大人しくおなまえは向きを変えてされるがままにしている。
その無防備さに先ほどリビングで振り払った気持ちが再び沸いてくる。


「……終わったよ」
「ありがとう律君!」


パチリと電源を切って、軽く毛流れを整えてやればおなまえは気持ちよさそうに目を細める。
邪魔なドライヤーを置いて、「おなまえちゃん」と呼べば少しだけ首を傾げながら見つめられた。


「…寝る前にさ、キスしてもいい?」
「えっ」


ダメかなと窺うとおなまえは湯上りで染まった頬を更に赤くしてううん、と首を横に振った。


「夢見たいだなって、さっきも思ったの」
「夢?」
「うん。だって眠る時までずっと律君と一緒にいられて…私嬉しい」


そう言うとおなまえの方から律に抱き着いて少し顔を上げる。
律はそれを受け止めて唇を寄せた。
ふわりとシャンプーの香りが立って、いつもと状況が違うことを実感させる。
律はそのままおなまえの顎に指を掛ける。
少しだけ力を込めると、閉じていたおなまえの瞼が開かれた。


「り、つくん…?」
「…口、開けて」
「え…、んっ…!」


言われた通りに開いた口を自分のそれで塞いで、舌を差し込むと鼻にかかったおなまえの声が律の喉に消えていく。
おなまえは肩を張らせるが、舌を合わせたり絡ませたりしている内に少しずつその力が抜けていった。
唇がふやけるくらい続けて、ようやく舌を離せば唇の端から唾液が溢れる。
息を上げるおなまえはぼんやりした頭で離れる律の唇とそこに仕舞われていく舌を見て、自分の両頬を押さえた。


「りつくん…!」
「…ごめん、嫌だった?」


僅かに眉を下げているが、その口端は上がっている。
おなまえは嫌じゃない、けどと俯いた。


「ね、眠れなくなっちゃう…ドキドキして…」
「……おなまえちゃん、電気消す?」
「消したら余計眠れないよ…!」


ちゃぶ台の上のテーブルランプを見ながら尋ねる律にそう答える。
振り返った律は「じゃあ、消さない」と意地悪く微笑んだ。
いつもと雰囲気の違う律にまた胸が跳ねる。
と、ぐるりと視点が動いて。
おなまえの視界に律と天井が映る。


「えっ…なに…?」
「一緒に寝ようと思って」
「お、同じお布団で?」
「うん」
「いい、けど」
「…いいんだね?」


まただ。
まるで念押しされてるみたいに。
さっきから少しだけ違う律の雰囲気に、おなまえは戸惑いながらも寄せられる唇に答えてしまう。
繰り返し触れ合って互いに真っ赤に染まった唇が擦れ合うだけでも、首筋にゾクゾクと電流が走るようだ。
おなまえが律のキスに夢中になっている間に、パーカーの裾から律の指が入ってきておなまえはくぐもった声を上げる。
その指はおなまえの肌を弱くなぞるようにゆっくりとした動きで上に上っていく。


「ん、んっ…り、律くん…!?」
「…」


名前を呼べばその指は動きを止めて、律はおなまえが何か言うまで待っている。
理解の範疇を超えた律の行動におなまえは混乱する。


「な、何…するの…?」
「キスして、触ってる」
「ど…こまで触るの」
「……おなまえが嫌だっていうところまで」
「っ…」


律の言葉におなまえは声を詰まらせた。
「無理強いしたいんじゃ、ないんだ」という律の声はおなまえの知っているいつもの声で、ほんの少し戸惑っている心を落ち着かせる。
律の手は止まったままおなまえの言葉を待っている。
そのことに気が付いて、おなまえは「いやじゃない」とか細く答えた。


---


テーブルランプを消して貰えば良かった。
そう思い至った時にはもう体中が痺れたみたいに力が入らなくて、おなまえの口からはただ嬌声が零れるばかり。
可愛くてお気に入りの寝間着は取り払われて、汗ばんだ控えめな胸に律はまた吸い付く。
痕がひとつ、ふたつと増えて行って、舌で胸の先をしゃぶられると腰にじわじわ響くのがもどかしい。


「はぁ…っ、あ、…り…つ…」


初めての感覚におなまえの瞳は揺れている。
擦り合う足の間に指を差し込んで、既に濡れているそこを下着越しに擦るとおなまえの喉が震えた。
律の爪の先が陰核に触れると、一層甘い声が響いた。


「な、なに…?ああっ…」
「…ここ痛くない…?」
「す、こし…っ…ひ、…!」


おなまえの声を聞いて今度は指の腹で優しく撫でるように動かせば、おなまえがぐっと布団を掴んだ。
一気にとろけたような顔になって、口は閉じることを忘れたみたいだ。
「気持ちいいみたいだね」と耳にキスを落としながら言うと、荒く吐き出される息の合間に「こわい」とおなまえが洩らす。


「変…へん、なの…っ!声、とまらっ…ああ!」
「怖くないよ、大丈夫…」


布団を掴んでいる手に律は自分の指を絡めて固く握りしめる。
反対の手は変わらずおなまえを追い詰めて、それとは反対に耳元でおなまえと優しく名前を呼ばれた瞬間熱が弾ける。
おなまえの体が震えて秘部の手に更に蜜が絡む。
短い間隔で上下する胸にまたキスをすると、律も服を脱ぎ去る。
おなまえの目がふらりと空中を泳いで、でもやはり律に戻ってしまう。


「おなまえ」
「なに…?律君…」
「本当に、無理だったら止めるから…」


律は枕元の鞄を漁って避妊具を取り出すと自分の性器に取り着ける。
初めて見る男性器におなまえは恐怖心を抱くが、律の首に腕を回して「大丈夫」と答えた。
そのまま抱き起されて、腰を捕まれるとゆっくり律自身が埋まっていく。
肉を裂き分け入る痛みがジンと熱のように広がっていくが、おなまえはそれを息を吐いてやりすごす。

苦しい。
痛いし、怖い。
生理的に浮かぶ涙を、律の指が拭う。
目を閉じて痛みに耐えていたおなまえだが、拭われて瞼を開いた。
同じように苦しそうな表情の律と目が合う。
「…無理って、言っていいんだよ」と掠れた声。
どうしてかそれら全てがまたおなまえをザワつかせて、「やめないで」と言えばとても泣きそうな声になる。
すると首の後ろに律の手が回って最初のように布団に寝かされると、律が体重を掛けて身を合わせてきた。
グッと腰が密着して互いに長く息を吐く。
おなまえの胸に汗が滴り落ちて、見上げる。


「い…たい、よね…ゴメン…」
「ぜんぶ、はいった…?」
「うん…」
「…うれしい」


そう笑顔を浮かべると、律は息を吐きながらおなまえの肩に頭を乗せる。
「僕だって嬉しいよ…」と聞こえないくらいの小さな声がして、そのままきつく抱き締められる。
背中に腕を回して答えると、肩の頭が左右に甘えるように動く。


「…痛かったら止めるから、言って…」
「へいきだもん」
「おなまえ…」


咎められるように呼ばれるがおなまえはそれならとぎこちなく自分から腰を動かす。
律は慌てて腰を掴んで止めさせるが、「律にも、気持ちよくなってほしい。私で」と言う声に「じゃあ」と上体を起こす。


「止めないからね」


その顔は念押ししてきた時の彼と同じで、また下腹部がザワついてくる。
少し引き抜かれてはまた埋められる抽挿に次第におなまえの口からまた甘い声が上がる。
ジリジリ焼かれるみたいな熱が刻まれていく中、熱を持った律の背中にひたすらしがみついた。



------
02.25/裏夢

まったく歌詞のフレーズは出ない。



back

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -