▼こうして沼にハマる

※REIGEN時系列



やっぱりオカルトへの興味はそう簡単に捨てられるもんじゃない。
華の女子高生なのに、なんて周りから思われようが好きな物は好き。
そして今日も私は霊とか相談所に通う。


「こんにちはー!」
「トメちゃん。いらっしゃい」


事務所にはおなまえさん1人だった。
霊幻さんは帰れって言うけど、おなまえさんはいつもいらっしゃいって迎えてくれる。
すぐにお茶とお菓子を用意してくれて、愛想はそんなにないけど優しい人だと思う。
…たまに言葉にトゲがあるけど。


「霊幻さんたち出張してて。今日は私だけよ」
「寧ろ良いです。私おなまえさんに会いに来てるんですから!」
「へぇ。お客さんからもそんなこと言われたことない」


熱烈だね、と自分のカップに口を付けるおなまえさん。
彼女も超能力者なのよ。
まだどんな力なのか見たことはないけど、芹沢さんが言ってたから間違いないわ。
二人きりの今こそ距離を近付けるチャンスよ!


「ねぇ、おなまえさんも超能力使えるんでしょ?生まれつきなの?最初はどんな感じだったの?何が出来るの?」
「質問多すぎじゃない?」
「私はもっとおなまえさんのこと知りたいのよ!」
「私はトメちゃんのことそこまで知りたくないよ」
「そんなイケズなこと言ーわーずーにぃ」


同じエリアに迎え入れてはくれても、いつも1歩引かれるこの感じ。
飛びつけば避けられるけど転ばないように手だけ差し出されてるみたいな。
子供と思って躱そうとしたってそうはいかないんだから。


「だってこの事務所の留守を任せられるくらいだもの。おなまえさんだって強いんでしょ?」
「強くないよ」
「じゃあ見せて下さい」


立って机に手を付き前のめる。
精一杯の本気を視線に込めて見つめた。


「見せ物じゃない」
「私しかいません」


諦めずににじり寄って食い下がる。
その間互いに見つめあってたけど、おなまえさんが溜息をひとつ吐いてその瞼を伏せた。
やった!折れてくれ…


「トメちゃんに見せたくない」


てない。


「オイ何でだよ。私がこれだけ情熱的に頼んでるのに冷めすぎでしょ」
「ホントに。モブ君や芹沢さんみたいに物を動かしたり浮かせたりするの苦手だし」
「こ、こういうのって得意不得意があるんでしょ?おなまえさんは何が得意なの?」
「絶対見せないから。諦めてよ」
「そ……んな、」


もしかしたら、本当に苦手で使いたくないのかもしれない。
だって見たらきっとモブ君や芹沢さんと比べてしまうし…絶対比べない、とは…うん。言えない。比べちゃう。
もしそうだったら、こんなに頼まれて嫌だったろうな。
嫌われちゃったかもしれない。
私は今までの姿勢を正して反省した。


「…無理言って、ごめんなさい」
「……素直に引き下がると思わなかった」
「だって、見せたくないって言ってるのに。無理強いさせて嫌われたくないです」
「…ふぅん」


顔を伏せてるからおなまえさんが今どんな顔をしているかはわからないけど。
聞こえた声のトーンからして本当に悪いと思ってるか見定められてる感じがする。
いくらおなまえさんのことが知りたいからって、今日のはちょっとデリカシーがなさすぎた。
好かれたいならまず相手が嫌がることはしないものよ。
自分の好きだけで見失ってた。


「…そんなに私のこと好きなんだ?」
「そうです。…でも、知りたいからって何でもかんでも聞いていい訳じゃないなって、ちゃんとわかりましたから」
「…」
「"教えてあげてもいい"って思ったときでいいから、その時に教えてくださいね」


おなまえさんの顔を見たくて少しだけ頭を上げた。
いつものおなまえさんだ。怒っても嫌そうでもない。
数秒そのまま見つめ合ってるとその眉が下がった。


「そんなに怒ってないよ、これくらいのことで」
「…本当ですか?気を遣ってません?」
「……嘘か見てみる?」


おなまえさんがさっきの私みたいに身を乗り出してくる。
近付く距離に頭が?でいっぱいになっていると手を取られておなまえさんの掌に私の手が乗せられると優しく握られた。

見るって、何を、今どうなって、どういう。
混乱に揺れてる私の頭の中の波が、スッと引いていく。
あれ。
なんか急に頭が冴えてきた気がする。
すぐ目の前におなまえさんがいてドキドキしてた胸も落ち着いてる。
すごく静かだ。


「ほらね」


おなまえさんが耳元で笑う。
指が解けて、おなまえさんはさっきまでと同じようにソファーに腰掛けた。


「怒ってないでしょ」


カチャリとカップが鳴って、胸のドキドキが再発してくる。
これは。
今のは。


「か…感情を…伝えられるんデスか……!?」
「…」
「それってもしかして、テレパシー!ですか…!!」
「あ。電話だ」


ワナワナと興奮で震える私を無視して、おなまえさんは事務所の電話を取る。
しーっと唇に指を当てて静かにするようジェスチャーされたから、そわそわしながら電話が終わるのを待った。
相手はお客さんだろうか、なんてどうでもいい。
早く。早く。


「トメちゃん」
「ハイ!」


電話を終えて、おなまえさんが受話器を置いた。


「お客さん来るから、帰って」
「え。私の質問に答えてもらってないです!」
「お迎えする支度しなきゃだから、帰って」
「手伝いますよ!!」
「いらなーい」


そう言うとテーブルの上のカップとお皿たちが宙に浮いて、給湯室のシンクへと移動するとひとりでに洗われていく。
おなまえさんは私に近付くと手に触れて「お家どこっていってたっけ?」と聞いてきて、答えるつもりじゃなかったのに勝手に口がおなまえさんに伝えていく。
「そ。ありがとう」とおなまえさんが笑って


「また遊びに来てね。じゃ」


気付けば私は自分の家の前にいた。
何。何よアレ。コレ!全然"強くない"じゃないじゃない!
冷めやらぬ熱で舞い上がりそうだ。


「…明日こそ絶対聞かせてもらうわ…!」


もしかしたらテレパシーということは私の考えも見通されるのかもしれないけど、そんなのはお構い無しよ。
寧ろ見てもらおうじゃない、この暗田トメの情熱を…!


---


「…何でおなまえさんいないんですか」
「今立て込んでてなー」
「おなまえさんに会いに来たのに!!家教えてください!」
「オイやめろ!犯罪だぞそれ。俺も罪に問われるだろうが」
「履歴書どこよ!!」
「ダメだよ暗田さん棚荒らしちゃ。片付け大変になるよ」
「この金庫の中かも!芹沢さん開けてください」
「えぇ…」
「絶対許さん!もう帰れよ!帰ってくれ!!」



------
02.24/夢主に懐いてトメが騒がしい相談所



back

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -