▼不撓不屈




澄み渡る青空に生温い南風が時折吹く日和。
今朝は生徒会の集まりが無い為モブと共に登校をしながら、「今日も蒸し暑くなりそうだね」と二人は顔を合わせた。
朝の内は低い太陽も徐々に高く昇れば刺すような暑さに変わるだろう。
じとりと汗をかくような日は好きではないと律が言うと同時に、「わーたっしもっ!」と弾むような明るい声がぶつかってきた。
ぶつかってきた、というのは比喩でもなく。
事実声の主が律に向かって体当たりをしてきた。
突然の衝撃に倒れないよう足元に力を入れる律と、「あ」と目を丸くさせるモブ。


「おはようございます、おなまえさん」
「おっはよモブ君!律君もっ」
「…おなまえさん、痛いんだけど」
「ゴメンゴメン。二人の姿が見えたから勢い余っちゃった」


ヘラヘラと笑いながら律の背をポンポンと軽い力で叩くおなまえは、近所に住む女子高生だ。
覚醒ラボで知り合い、家が近いことが判明してからこうして登下校を共にすることが多くなった。
おなまえは律のことを大層気に入ってるらしく、何かと理由をつけては律と会う口実を作ろうとするのが常で、モブも「今日も元気ですね」と律を構おうとするおなまえを微笑ましく見つめる。


「おなまえさんは元気すぎなんじゃないかな」
「律、ダメだよ。ちゃんと挨拶は返さなきゃ」
「……おはようございます」
「うん!おはよ律君!」


兄に窘められて律はうんざりとした表情を隠すことなく挨拶を口にした。
しかし一方のおなまえは全く気に病んでいないようで、寧ろ嬉しそうに満面の笑みを浮かべて頷いて見せる。
そんな様子に毒気を抜かれて、律は僅かに眉間の皺を緩めた。


「おなまえさんの学校も衣替えしたんですね」
「そうだよ。ただ校内じゃたまに涼しいから、カーデも着るけど」
「カーディガン可なんですね。高校生って感じです」
「モブ君たちの学校はカーデ駄目なの?」
「毎年意見が寄せらるみたいだけど、セーターで事足りるから」
「…らしいです」
「へぇー!?」


明るい水色のチェックスカートに巻いたカーディガンの袖を揺らしながらおなまえは尋ねる。
去年の秋口にもそんな投書が生徒会への意見箱に多くあったことを思い出しながら律がそれに答えると、おなまえは「ウチ私立だからなのかなぁ?中学の時もOKだったよ」と意外そうに言った。


「脱ぎ着しやすくて便利なのに。ホラ、静電気バチバチ〜もなりにくいし?」
「着崩す人が絶対に出てくる。おなまえさんのソレみたいに」


そう言って腰巻きとなっているカーディガンを律が指差せば、おなまえは「今着たら暑いもん。それに階段でスカート抑えなくても見えないし」と何故か得意げに答える。


「短くしてるからじゃないか。…大体、おなまえさんの学校はそんな丈で許されてるの?」
「んー…こぉんくらいだと怒られるかなぁ?ってくらい」


そう言っておなまえがスカートを折り上げると更に足の露出面積が増えて白い腿が覗けた。
完全にミニスカートと化したそのスカートに慌てて自分の鞄でおなまえの前を塞ぎ、「ちょっと!」と律は声を荒らげる。


「わざわざ怒られる丈にしなくていいから!今すぐしまって。目に毒」
「はーい。……ちょっとドキっとした?」
「誰が。兄さんの目が腐るだろ早く」
「…はいはーい」


少し前屈みになって律の顔を覗き込めば、冷たい視線と低い声で跳ね返されるように言い捨てられておなまえは唇を尖らせた。
素直にスカートの丈を戻すと鞄を差し出したままだった律の腕が下げられる。


「こんなのに付き合ってたら学校に着くの遅くなっちゃうよ兄さん。早く行こう」
「え、まだそんな気にする程じゃ」
「いいから」


汗を掻きたくないからとゆっくり歩いたとしても余裕があるくらいの時間に家を出たのに、足早に学校へ向かおうとする律にモブは戸惑いながら律を追う。
それにおなまえも着いてきて、少し早足で三人は歩き始めた。


「待ってよー!…ねぇ、今週末律君暇?」
「暇じゃない」
「いつなら暇?」
「ずっと暇じゃない」
「えー、そんな忙しいんだ?何か猫の手貸しに行こうか?」
「…おなまえさんに割く時間はないって言ってるの」
「り、律…」


ピシャリと言い切る弟の発言に、「言い方ってものがある」とモブがおなまえの顔色を窺う。


「私は暇だから気にしないでいいよー!それにさ、結構役立つこともあるかもよ?」
「高校生ってそんなに暇なの?」
「そんなことないけど…でも律君に会いたいから!元気貰えるし」
「僕は朝から奪われてるけどね。元気」
「律君朝弱いの?」
「…何でそうなるかなぁ…」


話の噛み合わなさに律は再び眉間に皺を寄せた。
しかしスタスタと進む三人の前で信号が赤になり、ムスり顔の律を挟んで困惑しているモブと首を傾げたおなまえは顔を見合わせる。


「律は…早起き得意な方だと思いますけど…」
「だよねぇ?私もそう思ってたー。寝不足?」
「違う」


反対方向の車道が赤になり、横断歩道の信号が青に変わると律とモブはそのまま進んでいく。
流れでおなまえもそれについて行こうとすると、振り返った律が通りの先にある調味駅を指差した。


「おなまえさんはあっちでしょ。遅れるよ」
「OH!今日だけ塩中生になるところだった」
「行ってらっしゃい、おなまえさん」
「ありがとう!二人もいってらっしゃーい!」


元気良く手を振ると、腕時計を見てギョッとして駅へと走り去っていくおなまえ。
小さくなっていくその背中を見つめながら「間に合うかな」とモブが心配そうに漏らす。


「平気じゃないかな」
「本当におなまえさんに興味ないんだね…」
「別に。でも言わないとずっとしつこいからさ」


「調子合わせてたら疲れて堪らないよ。お陰で無駄に汗かいたし」とゆっくりとした足取りで通学路を進む。


「…ああ…!急に急いでどうしたんだろうと思ったけど、電車に間に合うようにだったんだね?」
「ち…違う!おなまえさんが付き纏ってくるからさっさと別れ道に着きたかっただけで…!」
「あんなにツンケンして律が嫌な人に思われないか心配に思ったけど、気にしてなさそうで安心したよ」


ホッとモブが胸を撫で下ろすと、その隣で少しだけ紅潮させた頬を背けて「…あの人、そんなヤワじゃないよ…」と律が呟いた。




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04.10/まだ付き合っていないJK夢主が愛でまくるけどそれを嫌がる律



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