▼愛の大きさとは

※出会っちゃってる系夢主注意



じぃっと画面を見つめて、タイミングを見計らう。
「ここだ」と思った瞬間に方向キーを動かすとリズムを意識してアクションボタンを押す。

カッ、カカ カチカチ。

「お」と隣で羽鳥が声を漏らした。
画面内で私が操作しているキャラクターが羽鳥のキャラクターにカウンターを叩き込んで、それを皮切りにじわりじわりとHPゲージを削っていく。
すぐに防御姿勢を取られ攻撃が弾かれることを想定し隙の少ない弱攻撃を繰り返していたのに、ほんの僅かに出来たコマンド入力の合間に私のキャラが襟元を捕まれ投げられた。


「あ!」


無防備に地面に叩きつけられ弾む体が打ち上がる。
そこに必殺技を決められて、気持ちのいいくらい私のキャラのHPはなくなり「K.O.」の表示が羽鳥のキャラを讃えた。


「…一本くらい取れると思ったのに」
「甘い甘い」
「あー、また練習しよ」
「懲りないなぁ」
「だって私このキャラ好きだし」


好きなキャラにはやっぱり勝たせてあげたいじゃないか。
そう言い返すと羽鳥は「勝たせてあげたい?」と理解不能なことのように聞き返してきた。


「勝ちたいんならコイツにしとけばいいのに。おなまえのキャラはレスポンスに癖があるからそこを狙われると絶対負ける」
「癖とか受け入れるからいいの。私はこの子で勝ちたいの!」
「んー。そのキャラそんなにいいか?他のに比べてリーチあるっちゃあるけど、それだけだろ」
「見た目が可愛い」
「可愛い……?」


キツいアイメイクにトリッキーなモーション。
攻撃の際粗暴な言葉を吐くアウトローなイメージの女キャラ。
決して一般的な"可愛い"には当てはまらないんじゃないのかと言いたげな顔の羽鳥に、「気に入ってるの。弱点が多くてもこの子がいい」と再びのキャラ選択画面でさっきと同じキャラを選んだ。


「ホント懲りない奴…」


「どうせまた僕が勝つよ」と言いながら羽鳥も同じキャラを選ぶ。


「羽鳥だっていつもそのキャラじゃん」
「おなまえのキャラが攻め難いのを選ぶとコレになる」
「…え。好きで使ってるんじゃないの?」
「好きとかないから。仮におなまえがこれ使ってたら僕は囚人の奴使うし、相性考えてるだけ」
「絶対勝ってやる」
「ん?急にやる気になった?」


本当に張り合いのない相手だ。


「愛のない奴に負け続けてなんからんないよ」
「…愛。…愛ねぇー…」


再び流れる試合開始のゴング音とBGM。
画面の中の私たちはジリ、と間合いを探っている。
と、羽鳥のキャラが距離を詰めて仕掛けてきた。
軽い攻撃を防いでいると、「おなまえさ」と淡々とした調子で羽鳥が口を開く。


「何で出会い系やってんの?」
「………んん?」


羽鳥の言葉に反応した弾みに方向キーの入力が遅れて、バスッと下キックが入った。
慌てて下キーを動かすが次のパンチに間に合わずそのまま防御のタイミングがズレていく。

な、何で羽鳥がそんなこと知ってるの…?
え?「おなまえ出会い系って知ってる?」の聞き間違い?じゃ、ない…?
「何でやってるの」って…コレしてるって羽鳥わかってる…の?

顔は正面のモニターを見たまま視線だけで隣の羽鳥を窺った。
羽鳥はこちらに目もくれないでただ画面の中を見続けている。
無情にも攻撃の手は緩めて貰えず、けれど投げたり強攻撃をされたりもしないのが何とも居心地が悪い。
いっそさっさと仕留めてくれと思う反面、羽鳥がどういうつもりでそうしているのかも薄々察した。

私の出方を見ているんだ。


「……都合、がいいから?」
「…へぇー」


私が答えると、画面端に追い詰められていた私のキャラが投げ技で画面中央側へと戻される。
羽鳥は距離を詰めないまま、画面端にキャラを立たせていた。


「てか…何でそんなこと知ってんの…?」
「この間、"スマホで動画撮れないから直して"って持ってきた時」
「………」
「たまたま通知見た」
「…そ、っか」


まさかアルバムにあられもない写真や動画なんかは無いと思うが、出会った男がこっそり仕込んでいる事が万が一にでもあったら…と無意識に止めた息を静かに吐き出す。
バクバクと緊張感に鼓動が早まって、言葉を探した。
モニターの中の私たちは互いに見合ったままどちらも無操作で、ただひたすらに試合時間のカウントダウンだけが進んでいく。


「都合が良い、って…どう良い訳?」
「へっ!?…どう…、は……えっと………シたい時に…」
「うん」
「すぐ会えて」
「うん」
「…性趣向の擦り合わせもすぐできて」
「うん」
「エ…ッチの、導入もその後も気にしなくていい、とこ」
「…ふーん」
「………」


試合中の熱いBGMと歓声が耳に痛い。
どうすればこの状況から逃げられるのか、そもそも羽鳥がなんでこのタイミングでそんな話を持ち出して来たのかもわからない。


「オナニーじゃ済まない訳?」
「…同じ様なモンだよ。他人使ってオナってるみたいな感覚だし」


だから似た考えの人に協力をして貰うし協力するんだと言うと、試合の制限時間がやって来てHPの減っていない羽鳥のキャラがまた勝利を収める。
それを見て羽鳥がコントローラーを置いて、眼鏡を掛け直した。


「ちょっと興味があるんだけどさ」
「出会い系?やめといた方がいいよ、男だと女より金も掛かるし」
「違う違う」


手を振って羽鳥が私に向き直る。
未だコントローラーを握ってモニターに向かったままだった私は戸惑いながらも一先ずコントローラーを置いた。


「そんなにおなまえってセックスに拘りあるの?」
「げふっ!んん、コホッ」
「落ち着けよ」
「む、無理、ケホッ、…はぁ……いや。だって…デリケートな話題じゃん?」
「ああ、その認識はあるんだ」


噎せると肩をポンポン軽く叩かれる。
「話題にならないから言わないだけかなと思ってた」と言われて、生理的に浮かんだ涙を拭った。


「知られてる相手にはもっとペラペラ話すかと思ってたけど意外だ」
「いやいや、だからデリケートでしょって。仮に恋人でも言い難い話をゲーム友達になら話せるってそんな訳ない」
「でも出会い系で会った奴なら話せるんだろ?」
「それ目的だからね?逆にそれ以外話すことなんてないよそういう人には」
「そういうもん?」


笑いも呆れも嫌悪すらも羽鳥の顔からは伺い知れなくて、私は居た堪らなさに切り出す。


「ぶっちゃけ聞いていい?何で今こんな話聞こうと思ったの?尻軽と同じ空間に居たくないとか友達辞めたいとか…?」


これで「そうだ」と言われたら…と、唾を飲み込んだ。
羽鳥は貴重な趣味仲間だ(と私は思ってる)。
かと言って「出会い系辞めるので友達でいて下さい」というのはもう仲間とは違う気がするし、既にしてしまったことは変えられようがない。


「ぶっちゃけて良いなら…言うけど、どんなセックスが好みかって知りたくなったから」
「……???」
「その気になればおなまえが登録してるアプリからデータも抜いて見れるんだけど、本人いるんだから直接聞いた方が間違いない訳だし」
「…? 羽鳥ってハッカーなんだっけ??」


というかよく考えたら普段何してる人なのかも知らなかった。
知り合った切っ掛けもゲームで、会う理由もゲームで、話す内容もいつもゲームだった。
ただ"機械全般に強いらしい"ってことで件のスマホもダメ元で渡した…ら、以降早かった充電の減りまで直って、なんとなくそれ系の仕事の人なんだろうと勝手に思っていた。


「僕?言ってなかったけど、超能力者なんだよね。原理はわからないけど、精密機械なら多分ほとんど思い通りに操作できる」


「信ジル信ジナイハ任セルケド」と私のポケットの中のスマホが電子音声を発する。
驚いてスマホを取り出せばポン、とメッセージアプリが勝手に開かれて「こうやってなりすますのも出来るし」とタップしてないのに私のチャット欄に文字が入力されて消えた。


「わ…コレ、羽鳥が今やってるの?」
「そうだよ」


返事をしながらコントローラーに触れてもいないのに画面の中が操作されて、1Pの私のキャラと2Pの羽鳥のキャラがまた試合を始める。
まるでデモムービーのように組み合っては往なし、一進一退の攻防が繰り広げられた。


「おなまえが出会い系隠してたことに釣り合うことかわかんないけど」
「わ…たしの隠し事と比べ物になんないでしょ…!断然羽鳥の方が凄い秘密だって!釣りが出るわ!!」
「あっそう?じゃあ教えて貰えるってことで」
「……ん?」


一体どんなシステムでそうなっているのかとディスプレイを見ていると、羽鳥が「で?どういうのが好み?」と改めて聞いてくる。
一瞬忘れかけていて、理解するのに時間を要していると「セックス」と補足された。


「……それ、知ってどうすんの」
「だから、興味」
「…い、やだよ。何か、気まずくなるじゃん…」
「何で?ヤリ目じゃないと打ち明けられない?」


もう聞かないで欲しくて両手を振りながら「だからさ、後がある人にそういう話をしたくないんだって。そう言うの気にしたくないから出会ってんの」と説明する。
羽鳥はやっと真顔から薄ら笑みを浮かべて「後?」と聞き返してきた。


「…今後も付き合いを続けたい人」
「おなまえ、僕のことそう思ってたんだ?」
「そりゃまあ。唯一の趣味友だし…」
「……僕さ、不思議に思ったんだけど」


グイッと正面の羽鳥が距離を詰めてきて、私は反射的に後ずさった。
それでも羽鳥は迫ってくる。


「今まで彼氏いたことあったろ?それじゃあ満足出来ないくらいなのか?」
「彼氏がいる間は出会ってないよ流石に。消化不良ではあるけど……って!しないしない!もうこの話しないから!」
「お釣りまだ足りなくない?」
「わかった。私は羽鳥の秘密なんて聞いてなかった。だから羽鳥も私が隠したい出来事のことは忘れて。お願い」


するとようやく羽鳥がピタリと止まった。


「お願いかあ…」
「…お願いします」
「……おなまえの頼みじゃあなぁ…」


やっと変な緊張感から開放される、と息を吐く。
羽鳥は乗り出していた上半身を引くと「あ、でも最後にこれだけ知りたい」と人差し指で1を主張した。


「……答えるかどうかは別として、聞くだけ聞くよ」
「今までの彼氏で、性癖教えて満足いくセックスしたことある?」
「わー聞くんじゃなかったああ」


今日の羽鳥君は猥談がしたい気分なんですか?
もう流石に帰って貰った方がいいかもしれない。
そう思って羽鳥の体を押した。


「ないない。ないから!答えたから帰って。今日はもう帰って!次は勝つから。ハイまたでーす!」
「ちょっとやってみない?」


そこそこの力強さで押してるのに、羽鳥の肩が少し動いただけで逆に私の手が掴まれる。
何を言われたのか理解できなくて、掴まれた手を見た。


「……え、何」
「僕とセックスしてみようって言った」
「しない」
「何で」
「トモダチトハシナイ」


今日一日のこの数時間だけでどれだけ感情に振り回されていることか。
戸惑うことを諦めようと鉄仮面に徹していると、「じゃあ付き合うか」と羽鳥の声。


「…か、軽いね。羽鳥そういう冗談言う人なんだぁ、知らなかったな〜」
「冗談じゃないけど。おなまえなら一緒にいて楽しいし?」
「え…あ…ありが、とう」
「合うと思うんだよなぁー僕たち」


今日は、今日の羽鳥は、知らなかった一面をたくさん露呈して来てる気がする。
もうこれ以上動揺するまいと思っていたのに、呆気なく私の心は再び大きく揺れて返事ができない。

そ、そうだ。
言わなきゃ。
今のままでいようって。
多分私、彼女にするにはちょっと問題アリな方だと思うし。
出会い系してるとか暇さえあれば食事も忘れてゲームしてるとか。

私が「あ」とか「えっと」とか言葉に詰まっている間に、羽鳥は自分のスマホに視線を落とした。


「は、羽鳥…私ホラ。貞操観念?低いしさ。彼女には向かないって。女子っぽい趣味とからしいこと出来ないし。ゲーム漬けだし」
「…それを知った上で、"それでもいいから付き合おう"って言ってるんだけど?」
「本当に知ったらそんな軽く言えないよ絶対!」
「ちょっとMっぽいだけだろ?」
「きゃーーー!」


羽鳥のスマホを奪い取ろうと前のめりになって画面が見えないように塞ぐ。
「嘘でしょ、ホントに見たの…?」と声が震えれば「だって言わないからさ」と上から声が降ってくる。


「……何でそう…」
「例えばおなまえ」


抗議しようと拳を握ると、羽鳥が「真面目に考えてもみてくれよ?」と続けた。


「趣味も同じで、性趣向も合致してて、付き合ってる間は出会い系しないならそれでいいって理解もある。…のがおなまえの彼氏になれない理由、何だよ?」
「え………」
「他にあるなら配慮する。教えてくれ」
「………どうかしてる……」


こんな私と付き合いたい羽鳥も。
恋人なんて別れたらそこで終わりの関係に、「そこまで言うならなってみてもいいかも」なんて思い始めてる私も。
…こういうの、何て言うんだっけ…。


「……だって、しちゃったら"やっぱりナシで"って訳にはいかな…」
「してみて合わなきゃ元の趣味仲間ってだけ。デメリットなし」
「……」


羽鳥が私の肩を掴んでうつ伏せていた体を起き上がらせる。
「わかった、じゃあこうしよう」と言われて床から視線を上げると、羽鳥と目が合った。


「本当に無理とか、やめてほしくなったらぶん殴ってくれ」
「ぶん……ん!?」


何が"わかった"になるんだろう、と思ったのも束の間肩の上の手に力が込められた。
すぐ側でカチャと眼鏡の音がして唇が塞がれる。
ピクリと反応すれば肩から首筋、顎骨をなぞり上げて耳輪を指先で擦られた。
スリスリ耳許で肌が擦れる音がして腰の後ろがゾワリとする。


「ん、ふぁ…っん……んぅ…」


軽く合わさっていた唇が次第に深くなっていく。
耳がジンと熱を持つと開いた口の隙間から鼻に掛かった声が抜ける。
食まれる唇が気持ち良くて、とうとう瞼を伏せながら思い出した。

絆される、だ。
私は今、羽鳥に絆されてる。


---


「ひ、んあっ!あぁ、」
「っ…、ハハ…な?言った通り、だろ…」
「は…あ、う…っ」


ベッドにうつ伏せた私に羽鳥が馬乗って、後ろから奥を突かれる。
鋭く抉られるように中を擦られると強い快感が巡って爪先でシーツを掻くようにしながら耐えた。


「寝バック好きなら…コレは?」
「ぇ…?、あっ…んん!ぁあっ!?」


少しだけ腰が浮くように支えられた後、ピッタリと羽鳥の腰が押し付けられる。
そのまま中を掻き回すようにされると、グリグリと奥で羽鳥のが擦れた。


「ん、あ"っ!ダ、…ダメ羽鳥…っコレき…ちゃ…あぁっやぁ!」
「…っ、…はぁ……」
「んぅー、っ…ああぁ」


我慢しきれずに背を反らすとビクンッと私の体が跳ねる。
弓なりにしなる私の喉を支えて、羽鳥が顔を見つめてきた。
荒く息を吐きだすのに必死になっているのに、構わず中に突き立てられて高く声が掠れる。


「ひっあ!あぁ…っは…とりぃ…!」
「あー…、っ…イイね…」


瞳に溜まった涙が揺さぶられて溢れると、律動が激しくなって肌がぶつかる音が水音と共にあがった。
気持ちいいのが延々と続いて苦しい。
でも、しっかりと羽鳥が私の体の上に乗っているから身を捩ることもままならなくて、それが余計に快感を煽る。
羽鳥が私の肩に顎を乗せて、耳許に息遣いが届く。
羽鳥も気持ち良さそうで、私で感じてくれていると思うと下腹がまた疼いた。


「…く…、おなまえ……はぁっ、…イク…」
「んっ…あ、あぁ…!…き、て…ぇ」


強く体を抱かれるとラテックス越しでも伝わる程の熱が吐き出されて、私の腰も震える。
射精の間も全部出し切るまで奥を羽鳥の先が擦るから、甘えた声が出てしまう。
やっと引き抜かれる頃には名残惜しく思うくらい身体が疼いて、つい羽鳥のを締め付けた。
「そんな顔しなくても大丈夫だって」と汗ばんだ頬に掛かった髪を払われる。
新しくゴムを付け直しているのを見て期待に胸が高鳴った。


「思った通りだ」
「…エッチの話?」
「そ。…僕さ、イケないことあるんだよ」


「多分だけど」と言いながら羽鳥がまた自身を埋めてくる。
スリ、と頬を撫でられて「泣き顔に興奮する質かも」と涙の跡をなぞられた。


「…イジメてるみたいで萎えたり、しない?」


これは前に付き合ってた人に言われた言葉だ。
すると羽鳥は眼鏡越しの瞳を細めて「いや、事実イジメてるし」と笑った。


「少なくとも僕は萎えないね。わかるだろうけど」
「う……ん、」
「それに…癖とか弱点とか、受け入れるってのが愛なんだろ?」


何だか聞き覚えのある言葉だと思っていると、思い返そうとする思考を中を擦られる刺激が上塗りしていって妨げられる。


「少なくとも、条件でおなまえを選んでる奴らより僕のが愛してるだろうね」


聞き逃さないように耳許に口を寄せてそう言われた。


「お互い相性も良さそうだし…、僕と付き合えばおなまえも出会い系しなくなるし…、おなまえは趣味を共有できる彼氏ができる。…win-winだ」


誰も損をしない。
いい事づくめ。

そこに「私は愛情と趣向両方満たされて幸せ」も追加してと喘ぎながら言えば、「…最高だね」と羽鳥の瞳がギラついた。




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04.11/羽鳥裏



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