▼艶やかとは誰が為に




「君たち二人に抜けられちゃうと困っちゃうんだけどなぁ」と本当に困っているのか読みにくい表情で言いながらも、希望通りに休みを取らせてくれた店長に感謝しながら私は布団に身を投げ出した。


「はぁー!満喫してるぅー!」
「良かったね」


私よりだいぶ早く部屋に帰っていた稔樹は広縁で腰掛けてお茶を飲みながら読書中。
それがとても様になっていて、部屋を出る前にも言ったけれど改めて「稔樹浴衣似合ってる」と枕に半分顔を埋めながら言う。


「出る前も言った。それ」
「湯上りは色っぽくてより似合うの」
「色…?僕上がってからもう結構経ってるんだけど」
「う"。……待たせてごめんなさい…」


大浴場の脱衣場になんと全身マッサージのサービスがあり、それが予約なしでも出来ると知って、ちょうど待ち時間のないタイミングもありどうせならと体験してきたのだ。
外で合流するつもりだった稔樹にメールをし先に部屋に帰って貰ったものの、一人にさせたのは確か。
自分だけ浮かれ過ぎてしまったなと反省する。

けれど稔樹は気にもしてない素振りで「いいんじゃない?滅多にしないんでしょ、そういうの」と本を閉じた。


「そうだねぇ…人に体触られるの好きじゃないし。今回は旅行っていうテンションがそうさせたに近いかな」
「へぇー」


思っていた返事とは違っていたのか稔樹は生返事の後此方に来て、私は同じベッドに腰掛けた彼を見上げる。


「マッサージって、どういうことするの」
「ん?リンパ節流して老廃物を流したり、凝った筋肉を解したり?」
「老廃物?」
「凄いんだよ何かね、顎の方に溜まるんだって!それでねココこうグリグリされてさ。凄い痛かったの!でもその後もうめっちゃ軽くて!」


身を起こし顎の下を指さして、数分前にされたように指を動かしてみせた。
「解してもらった所から羽根でも生えてるんじゃないかってくらい軽くなったの」と私が感動を口にすると、稔樹は私が示した顎に手を伸ばして指を沈めてくる。
マッサージされる前までは全く入らなかった指がぐに、と顎骨を捉えて気持ちが良い。


「本当だ。張ってない」
「え。稔樹私の顎事情に明るかったっけ…?」
「いつも…って訳じゃないけど、してるでしょ」
「?」


私が首を傾げようとするのを顎の手が阻んで、顔を寄せられた。
「あ、この事か」と気が付いて慌てて瞼を閉じる。
大人しくキスに応じればするりと顎から首筋を伝って項に指が掛けられた。
そのまま唇に押されるようにしてベッドに倒れていくと、項の手がゆっくりと枕の上に私の頭を置く。


「ん…は……め…珍しいね」


唇が離れて、ぼんやりと稔樹の顔を見つめながらそう言う。
最近こういう雰囲気になることがなかったから、少しの照れ臭さもあって。
私の顔の脇に手を付いて見下ろしてくる稔樹の明るい髪が部屋の明かりに照らされて綺麗だ。
ベッドに完全に乗り上げて私の体を跨ぐと頬に手を当てられふに、と柔く摘まれる。


「…人に触られるの嫌だったんだ?初耳なんだけど」
「他人ね。家族とか稔樹とかは別だよ」
「そう」


私の返事を聞いてるのか聞いていないのか、首筋に顔を埋めて浴衣の襟元が寛げられた。


「何処までマッサージして貰ったの?」
「顔とデコルテと…背中と脚」
「背中…」


答えれば稔樹の手がするりと浴衣の中を動いて浮かせた私の背を撫でる。
その撫で方が柔く肌の上を滑るみたいでゾクリと肩が跳ねた。


「擽ったかったんじゃない?おなまえ此処弱いよね」
「ま…マッサージの人は稔樹みたいな触り方しないもん…っ」
「僕みたいなって…どんな?」
「ひぅ…」


クスリと稔樹が笑った声が聞こえる。
胸元に触れる髪先を視線で辿れば、楽しそうにほくそ笑んでる稔樹がいた。


「こ…こんな、サワサワじゃなくて…」
「うん」
「ぁ…っ、ん」
「こう?」
「あう!…や、っは…ああっ」


背中の手が背筋をなぞっていく。
稔樹の腕につられて浴衣がはだけた。
ビクリと私が胸を反らせると、その胸の先がしゃぶられる。


「う、…こんなこと…されてないってぇ」
「吸って欲しそうにしてたから」
「ちが…んぁ、…っ…稔樹が…んむ」


稔樹がそんな触り方をするからだと言いたいのに、ぬるりと舌が開いた口を塞いできて言葉にならなかった。
舌と舌が表面を撫で合えば、ジリと舌先から気持ち良さがお腹の底まで行き渡っていく。
そうされている間にも稔樹の指は私の胸の先を擦り合わせ続けて、鼻にかかった声が唇の隙間から漏れて行った。

ふわふわするようでいて、核の部分を刺激されてるみたいな。
優しい手つきなのに追い詰められてる。
そんな不思議な感覚に陥るのは、やっぱり久し振りだからなのかな。

唇が離れて遠のく舌をぼんやり見つめる。
呼吸を吐き出しては情けない声を上げる私を見下ろす目の奥に、物静かな彼の情欲が垣間見えて胸が高鳴った。
緩められた帯を解いて、とうとう腕に掛けただけになった浴衣が肌を滑り落ちていく。
その流れに沿うように稔樹の指が臍から腰へ伝って行って、勿体付けるように内腿を撫でた。

早く。
触って。

懇願するように腰を浮かせると額に口づけされた。
すぐ頭の上で笑うように息が抜けた音が聞こえる。


「は…ぁ、稔…樹ぃ…っ!ひうっ!あ、あぁ」


名前を呼べば下着越しにスリと指で秘芯を潰す様に擦られて高く声が上がった。
走る快感に手探ると稔樹が上体を伏せてくれてその肩にしがみ付く。


「腰、動いてるよ」
「あ、ぅ…だっ……て、…イイ…っ」
「……じゃあ、おなまえは指だけで十分なのかな」


軽く爪先で秘芯を掻かれて、ぞわりと強く背中が震えた。
押し付けられてる指の滑りが良くなって、中から更に濡れてきている実感に頭の中まで熱を持つみたいに熱い。


「や…やだ…っ、ぁ…も、…っとぉ!」


下着の隙間から指が差し込まれる。
ヌルヌルと入口を控えめになぞられた後、抵抗なくその指を飲み込む中に「欲張り」と耳許で稔樹の声が聞こえた。


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「は、ぁ…くう…っ!」
「…ふ、…」
「んあっあ、…ぁっ」


夕飯の時間も忘れて行為に耽っている間に、すっかり窓の外は暗くなっていた。
私の声も掠れ切ってとても艶のある声とは言い難い。
時折聞こえる稔樹の息遣いの方が余程艶やかだと思う。
汗が滴る様でさえ、絵になりそうと思うのは私の惚れた欲目だけではないはず。


「んぅ、…あ…はぁっ…と…しきぃ」
「…ん…何……」
「稔樹って…ん、…キレイ、だね…」
「…っ…何言ってんの…」


はぁ、と息を吐き出すと、稔樹が動きを止めた。
顎まで伝ってきた汗を手の甲で拭ってじとりと見下ろされる。
半ば老婆になりかけのような声を少しでも元に戻そうと喉に力を入れた。


「私より、色っぽいし…」
「……よくわかんないけど。色っぽいのがキレイだっていうんなら」


するりと稔樹の手が私の手を救い上げる。


「この細い指とか、すぐ赤くなる顔とか…おなまえの方が綺麗だと思うよ」
「え…っ」


スリ、と稔樹の骨張った指が私の指の間に入り込んで絡め取られた。
稔樹の口から綺麗だなんて言われると思ってなくて言葉を失うと、絡まった稔樹の手に拠って私の手が彼の口元に運ばれる。


「ほ…本当に今日、どうしたの…?珍しいことばっかりだよ…?」
「……そうだね…」


「旅行って状況がそうさせるんじゃない」と稔樹がニヤリと笑って、口付けた私の手の甲にあぐりと歯を立てた。
痛くはない程度に皮膚に食い込む硬質な触感の後、ざらりと舌がその上を這ってまたぞわりとする。
すると笑ったままの稔樹が「ほらね」と呟いた。





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04.09/温泉旅行に行く裏



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