▼やる気スイッチ




「急に"ミシンある?"なんて聞いてきたから、何事かと思ったよ〜」
「ごめん…母さんたちになるべく見せたくないんだ」
「まあ…それもそう、よね」


律の言葉におなまえは手元に視線を落とした。
そこにはエプロンと対になったフリル付きのワンピースがあり、そのパフスリーブ調の袖は少し裂けている。
肩幅を見るに一応男性が着るものとして身頃を取っているのだろうが、中一男子という年頃を侮っていたのか又は採寸を蔑ろにしたのか…実際に袖を通してみると窮屈でこのような姿になってしまったらしい。


--律君結構体つきしっかりしてるしな…


そう律の腕周りを採寸しながらおなまえは思った。
彼のことだから、なるべくギリギリまでこのメイド服を着ないで済むようにしたかったことだろう。
袖の縫い目を引き抜いて裂けた箇所に宛布をし、目立たないように手持ちのストックから裾のフリルに似たタイプのレースを選んで追加した。
その様子を見て律は「ちょっと」と不愉快そうに声を上げる。


「布が足りない部分に足すから、どうしても目立っちゃうよ。隠す為だから我慢して」
「……なるべくシンプルに頼む…」
「うんうん。自然な感じにしておくから」


頭を抱えて憤りをやり過ごそうとしている律を端目におなまえは裂けた方の袖を確りと身頃に縫い付けて、未だレースのついてないもう片方の袖も同じように作業を進めた。


「…おなまえさんのクラスは…アイスの販売だっけ…」
「そうだよ〜」
「何でうちのクラスは…大体何が楽しくて…」


恨めしそうに言う律。
生徒会でも風紀が乱れるだの何かと理由をつけて却下させようとしていたらしいが、その思い虚しく文化祭を翌日に控えてしまった。
飲食を取り扱う手前衛生面に注意しなければならない。
「いっそ食中りでもして…」と身を呈してでも妨害しようと画策する律を無視して、おなまえは「出来たよー」と悩みの種であるメイド服をバサリと払う。


「これで多分サイズもピッタリだと思うんだけど…律君着てみて?」
「…………」
「それとも律はノースリーブメイド服で明日やる?」
「…チッ」
「態度が悪い」


レースの足されたそれを忌々しそうに見つめる律に「袖取ってもいいけど」とおなまえが言えば、舌打ちと共におなまえの手からメイド服が奪い取られた。
その様子に笑うと、荒々しく脱いだシャツがおなまえの顔に投げ捨てられる。
律がおなまえに八つ当たりしてくるとは相当嫌なんだな、とおなまえは顔のシャツが皺にならないようにハンガーに掛けた。


「キツくない?腕とか締まってない?」
「…キツい」


律の返答を聞いておなまえは袖元に手をやる。
指一本分の隙間がちゃんとあって、物理的にではなく精神的な問題だと理解すると「大丈夫そうだね」と口にする。
そのままチェックするね、と律の周りをぐるりと1周してみたり律に腕を上げさせたりして一先ずは平気そうだと一人頷いた。


「…律君怒るだろうけどさ」
「もし"似合ってる"って言うつもりなら怒るよ」
「ううん。あのね、下に履いてるの脱いで欲しいなって」
「……」


メイド服の下にズボンを履いたままの律にそう言うと、律はくわりとおなまえを見つめる。


「…冗談だよね…?」
「明日見に行けるかわかんないし」
「来なくていい」
「ほらね、そう言うからさ。なら今見ておきたいなー…って。……ダメ?」


律が案内係をしている時間とおなまえの休憩時間が噛み合うとも限らない。
それにこの姿で接客している所を律は見て欲しくないと言うし、それなら今此処で堪能しておきたいという下心だ。
「お願い!」と両手を合わせて頭を下げれば「変態じゃないの」と蔑まれた。


「へ…変態でもいいから見たい、です」
「……はぁー……そこのカチューシャ取って」
「! ハイ!どうぞ!」
「…何でそんなに嬉しそうなの…」


ちゃんとエプロンまで結び付けて頭にカチューシャを差し、ズボンを脱いでハイソックスまで履いてあっという間にメイド姿の律が現れた。
「これでもういいでしょ」と不貞腐れながら刺々しい声で尋ねてくる律の両肩に手を置いて「待って」と脱がないように制止する。


「しゃ…写メ!」
「ダメに決まってるだろ」
「じゃあ…目に焼き付けておくから…もうちょっと待って」
「……おなまえさんが着ればいいのに」
「肩幅合わないしウェストも胸も無理だよ」
「………」


口にすれば怒りを買ってすぐにでも脱ぎ捨てられる未来が容易く想像できるから言わないが、「悪くない」。
見慣れてくれば「寧ろ似合ってる」とさえ思って、美少年の女装というのが中々に非日常的で胸が高鳴った。
おなまえが余りにも熱心に視線を注いでくるものだから、律も大人しく立っている。


「ね…ねぇ、あのね」
「何?」
「…ご主人様って言ってもらってもいい…?」
「ふざけるのも大概にしてよ」
「いややや!お願い!浪漫だからコレ」
「女装してる男なんかに浪漫なんてないから」
「は?!そりゃ他の人はそうだろうけど律君は別」
「えっ」
「もう…本当に変態でいいからお願い!お願いします〜」


執事ならまだしも何で男のメイドなんかに、と律は不快感を露わにするが「律は別」と哀願されて固まった。
「律君だってもし私がメイド服着てたら言って欲しくない?椅子引いて貰ったり上着掛けてもらったりして欲しくない?」と尚も食い下がってくる。

もしおなまえが着ていたら…。

そう想像して律も「まあ、…少しは…」とつい声に出してしまった。
すると耳聡く聞き付けたおなまえは「ね?!」と強く同意を求めてくる。
未だ両肩を抑えてくるおなまえの手に自分の手を重ねて律は二度目の溜息を吐いた。


「…しょうがない方ですね、ご主人様は」
「!! 律君…!あ…あれ?」
「とんだ変態で困ります」


グイッと急激におなまえの視界が揺れ動く。
直後背後のベッドに身が沈んで「おや…?」と小さく疑問を投げ掛ける。


「これは矯正する必要がございますね」
「えっ、えっ、律君…?んっ」


腕をベッドに縫い止められて口を舌で塞がれた。
メイドなのに上から目線だとか、何処でそんなスイッチを入れてしまったんだとか、そんな言葉がくぐもって舌同士が触れ合う粘着音に変換されていく。
散々口内を舐られるとぞわりと頭の後ろから項が痺れるようで、おなまえの瞳が潤んだ。
フッと間近で律が笑った声が聞こえて、「こんな姿の僕相手にそんな顔して、本当にしょうがない人だ」と囁かれるとおなまえの頬に熱が集まる。
そんな趣味趣向は持っていなかったはずなのに、律に責められて胸がゾクゾクと震えた。
初めての感覚に戸惑う一方で、その先を期待している自分もいて「これでは本当にどうしようもない人間ではないか」と理性がおなまえに警告をする。


「あ…っ、り…律君…」


表情から既におなまえが興奮していることは悟られている。
羞恥に耳まで赤く染めながらか細く「嫌わないで」と詫びるように告げると、意外な発言だったのか律の目が見開かれた。


「嫌うと思ったの?」
「…だって、律君嫌がってるのに…その格好のままキスされて、こ…こんな…っ…」


まあ、この格好は嫌だけど、と思いながらも、それが今のおなまえの引き金になったのならそこまで悪くは無いかもしれない。
するりと頬を撫でただけで反応を返すおなまえに再び唇を落とす。


「嫌ったかどうか、教えてあげます」


細められたおなまえの瞳から溢れる涙を舐めとって笑うと、おなまえがゴクリと生唾を飲み込んだ。


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勢いでもう引き返せないところまで来たけれど、そう言えばこの服明日使うんだよなと律は汚れないようにスカートの裾を口に咥えた。
ひどく濡れたおなまえの肉壺は早く隙間を埋めて欲しそうにひくついて、宛てがわれている律の先を飲み込もうとしている。


「はぅ…あっ…、律ぅ…」


急かすようにおなまえが腰を揺らして、その扇情的な動きに律も腰が疼く感覚を覚えた。
しかしこのままでは服を汚すリスクが高いと判断して、律は両手でおなまえの体を支えるとうつ伏せにさせる。


「…?この体勢でするの?」
「ん…服汚れちゃわないようにね」


「それに」と裾を噛んで言うとくぐもった声が響く。
そのまま後背位で挿入していくと、おなまえの背がピクリと跳ねた。
ゆっくりと腰を沈めて根元まで収めきると息を吐く。
襞が自身に絡んで微動すると重く痺れるようだ。


「この方がおなまえの好きな所に当たるでしょ」
「ああっ!ぁ、ひ…ん」


律動を開始するとすぐに甘い声が上がり、中が小刻みに律を吸い寄せてくる。
打ち付ける度に柔らかな肌と腰が触れ合ってその音が段々と激しくなれば、おなまえはより嬌声を漏らした。
打ち込む間隔が短くなってきて深くまで突かれる。
じわじわと快感の波が迫ってきて律はおなまえの腰を掴んだ。
グッと先を奥に押し付けるようにしたまま小突くと、一際おなまえの中が締まってやって来た吐精感に任せて身を震わせる。
余韻に浸りながらゆっくり腰を引くと、それだけで悩ましげな声が上がり枕に顔を押し付けていたおなまえが熱の冷めきらない瞳で律を振り返った。
目が合って律もまたその視線にグラリと理性が揺れていく。


「もう一回…」
「待って。…コレ、脱ぎたい」


そう言って律がメイド服のファスナーに手を掛けると、それをやんわりとおなまえの指が阻んだ。


「もう一回だけ、このままして…」
「そんなに気に入ったの…?」


困り顔を浮かべる律におなまえも眉根を寄せる。
これは変なスイッチを入れてしまったなと思う後悔は、せがむ様に寄せられた唇に溶かされるように霞んで行った。





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04.11/年上夢主が文化祭のメイド衣装を律に着せる裏



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