▼掌の上




月に一回あるかないかの頻度で会って適当に近況報告をする。
昼に会うことは余りない。
それは私が日中仕事なのが大半で、土日休みなのに対して霊幻は土日も仕事をしているから。
大抵の用事を土日に詰め込んでる私としては、仕事終わりや用事が終わったあとの方が都合が良いから必然とそうなる。

てのはつまり、私にとって霊幻新隆という人間は、そういった用事より優先するべき関係ではないと内心判断してるってことか。

そう気が付いたのはカウンタータイプの店で食事をしてた最中、霊幻に「今週の土日がダメなら、来月」という言われ方をして、違和感を抱いたのが切っ掛け。


--「今週の土日?何かあったの?」
--「いや。急ぎって訳じゃねーから。お前いつも何かしら予定入れてるだろ?」


ひどくその言い方が引っ掛かった。
今まで霊幻と話していてそんなことはなかった。

適当に話して適当に相槌を打つ。
互いに楽なようにして気の置けない友人だと思っていた。
でも私から会おうと思って霊幻の予定を聞いたことは、思い返せばなかったなと気が付いて。
来月の予定を前以て抑えようとする程の用事が私にあると暗に言われているのだと同時に思い至り、何となく居住まいを正した。

それが先月の出来事。
要するに今日は"あの日霊幻が抑えた私の来月の休日"だ。


「暑…」


燦々と照り付ける日差しの下にはとても居られないと待ち合わせの駅前広場に降り立って開口一番思った。
弱めとはいえ冷房のついていたバスから待ち合わせ場所まではすぐだと言うのに、約束を無視して適当に店に入っていようかという考えが頭に浮かぶ。
今まではそうしていたけれど、なんとなく今日はそうことが失礼なことのように思えて、大人しく日傘を差しバスロータリーの日陰から出た。


「…お。珍しいな、おなまえが先に待ってんの。しかも外じゃん」
「ん。何か大事な用なんじゃないかなって」
「え?んなことねーけど。てか今日あちぃな、どっか入ろうぜ〜」


数分後やって来た霊幻はこちらの気構えも虚しくなるほどいつも通りだった。
此方が一ヶ月間頭の片隅で気に掛け続けていたのに、日傘の下で真面目な顔をして突っ立っていた私を「まさか今日雪降らないよな?」なんて笑って空模様を窺っている。


「…ねぇ、今日何の用事なの?」
「用事?これっていったモンはないが…気分?」
「気分?」
「出掛けたい気分」


「一人じゃなくて、出掛けてーなみたいなの。あるだろそういうこと」なんて言いながら、隣を歩く霊幻は道中で配られている携帯キャリアのお得感をでかでかと掲げたうちわを貰ってパタパタ熱風を扇いだ。
それなら心当たりがないこともない。


「んー。じゃあ…時間的に適当な所でご飯食べる?霊幻お腹空いてる?」
「それなりに。おなまえは?」
「朝御飯コーヒーだけだったから結構空いてる」
「朝飯食わない派だっけ?」
「そんなことないよ。今日はたまたま」


霊幻を友達だと思っておきながら、実はその頭に«都合の良い»を付けていたことに気がついたショックと、今日会うのが一体どんな用事なんだろうと気になり過ぎて食欲が湧かなかったのだ。


「じゃあ油っこいもんはナシな。胃の負担がでかいだろ」
「もう若くないからね…配慮痛み入るよ」
「やめろ俺まで若くない事になる」
「ご飯食べたら、何かのついででいいからレンタルショップ寄りたい」
「レンタルショップ?」


どうせプラプラしていくのだから、明日借りに行こうと思っていたDVDを今日借りてしまおう。
そう言うと、霊幻は「あ、そういうこと。わかった、後でな」と道行く飲食店の看板を物色する作業に戻った。


---


案の定食事をした後目的に困った私たちは腹ごなしがてらレンタルショップに足を伸ばした。
私が手に取った海外ドラマのパッケージを覗き見て「それどんな話?」と霊幻が聞いてくる。


「サスペンスだよ。刑事物かな」
「へえ。シーズン2あるじゃん、人気作?」
「一話完結で見やすいからオススメだよ。霊幻も借りてく?」
「俺ここのカード作ってねーからいいわ」
「そっか。…あ。一緒に見る?」
「…ん?」


カード作るのって名前書いたりするの面倒だしなぁ、と借りたいパッケージの中のケースを抜き取りながらふと閃めいて口にした。
このDVDを借りたらまた次の目的地探しから始めなければいけない。
「霊幻どっか行きたい所閃いた?私は思いついてない」と改めて聞くと霊幻も首を横に振る。
それならやっぱり、この閃めきに従ってもいいだろうと「じゃあウチで見ようよ」と重ねて告げた。
確か霊幻の家より私の家の方が近いはずだ。


「おなまえがいいんなら」
「飲み物ないから、バス途中下車してスーパーから歩きでも良い?」
「おう。何なら夕飯の荷物持ちだってしてやろう」
「じゃあ少なくなってきてたからお米も買っちゃおうかな〜」


幸い朝ご飯に割くはずだった時間はなんとなく落ち着かずに部屋の掃除に費やされていたので、人を上げられる程度には片付いているはず。
レジカウンターで手提げ袋に入れられたDVDを受け取り、駅前のバスロータリーまで戻る。
ほとんど時間通りにやってきたバスの奥側の座席に二人並んで座ると、今まで隣合ったどの席よりも距離が近いようなそんな気がした。


---


むなげやで適当に買った菓子をつまみながら画面内で展開されていく事件の数々を見届ける。
あっという間に一時間が過ぎ二時間が過ぎ…ディスク一枚分を見通してしまい、ソファーから腰を上げプレーヤーからDVDを取り出す時に「これは時間泥棒だわ」と呟けば、霊幻も時間を確認して驚く。


「もうこんな時間か。見始めたら止まらないなコレ」
「しかも一話完結だけどさ、この…シリーズ通してのストーリー?が気になる」
「二話に出てきた謎のメッセージ、絶対後々の鍵になんだろ?しかもさ、退職した刑事の情報が出て来るってことはそいつ絡みっぽいよなぁ」
「絶対怪しいよね」


霊幻も気に入ったようで携帯をポチポチと操作すると「ほら!パッケージの後ろ姿の奴コイツだって!」と画像を示してくる。
「もうコレ黒じゃん」と確信めいた声音で告げれば「おなまえがそう思うんなら、俺黒幕じゃない方に賭けよ」と霊幻がニヤリと笑う。


「負けたら何するの?」
「んー……今日の晩飯負けた方が作る」
「まさか、これ見切るつもり?」
「俺明日も休みにしてるしー。おなまえも明日借りるつもりだったのを今日借りて暇になったろ?」
「まあ…それもそう、だね」


確かに明日の予定を詰めた分時間に余裕はある。
でもまだディスクはあと4枚ある。
完結まで見るとなるとこれは余裕で深夜を回りそうだ。


「…絶対晩御飯の時間の方が先に来るでしょ」
「じゃあ明日の飯ー」
「えー、泊められるようなものないよウチ」
「俺このソファーでいい」


布団ないしと言う前に霊幻が「寝る場所」と言って今腰掛けているソファーをポスポスと叩いた。
夏だし、タオルケット程度でも掛ければ風邪は引かなそうかな。


「着替えは?」
「一日くらい平気だろ」
「ふーん。霊幻朝御飯パン派だっけ?ご飯?」
「どっちでもいい」
「じゃあパンね」


取り敢えず二枚目のディスクをセットして再生する。
本編が始まる前にお米だけ研いでおこうと立ち上がると、霊幻が「俺やるわ」と代わりにキッチンに行った。
布団のことといい今といい、何も発してないのに察知されたことで「霊幻エスパーなの?」と言えば「俺霊能者だから」と得意気な声が返ってきた。
一応米櫃の場所と炊飯器の位置をソファーに座ったまま告げて、前回のあらすじが終わったところで一時停止する。
戻って来た霊幻の手にはグラスとワインがあって、ソファー前のテーブルに置かれた。


「お米ありがとう」
「ん。お前ワインも飲むの」
「気が向いたら」
「へえ」


再生ボタンを押して、持ってきて貰ったんだしとグラスにワインを注ぐ。
お菓子を摘みながらだとあんまりお腹空かないなと晩御飯の時間を考えながら幾度目かの事件発生シーンを見つめる。
主人公が何かの違和感を感じ取り、その原因を思い出そうとカメラが寄っていく。
私も何か、似たような感覚が頭の端の方で燻っているのだけれど、飲み込んだアルコールがその輪郭をあやふやにしていった。


「…もうご飯作る?」
「腹減ったの?」
「いや。お菓子摘んでるし、私お酒も飲んでるから。霊幻どうかなって」
「俺も別に。…作るって、何作んの」
「んー…」


モシャリと口に放り込んだお菓子を咀嚼しながらノロノロ冷蔵庫の中身を思い出す。


「すぐ出来るのは、オムライスかチャーハン。…か、チャーシュー。…あと干物ある」
「和洋中揃ってるな」


どれとは言わないまま霊幻も烏龍茶を飲む。

そろそろ二枚目も見終わりそうだ。
ワインのせいか血の巡りが良くなって部屋が暑く感じる。
手を伸ばしてエアコンのリモコンを操作すると「暑いか?」と聞かれた。
「お酒飲んでるからかな…霊幻寒かった?」と聞き返すと「平気」と首を振られる。
自然に霊幻が手提げ袋から三枚目のケースを持ち出して、二枚目と入れ替えようとする。


「そんな続けて見たら目ぇ疲れるー」


霊幻が立ち上がって出来た空間を寝そべって埋めると、霊幻が振り返りながら「休憩するか」と二枚目をケースにしまうに留めた。


「賛成ぇー」
「眠い?」
「んふふ。ちょっと」
「おなまえもそんな強くないんだな」
「霊幻程じゃないよ」
「うるせ」


ソファーを独占している私に笑うと、霊幻はトイレだろうか部屋を出て行った。
私はと言うと朝抱いてた緊張感はどこに消えたのか、すっかりリラックスモードで目を閉じる。
サーと水の流れるシャワー音が届くが、瞼を上げる気になれない。
少しすると足音が近付いて霊幻の声が「聞こえてますかーおなまえさーん」と私を呼ぶ。
それに目を開けないまま「んー」と返事をすると「歯ブラシ買ってくるわ。鍵かりていい?」と声。
起き上がるかー、と肘をソファーに着くと「そのままでいいぞ。勝手に取ってくから」と肩を押された。


「んー…靴箱の上」
「わかった。すぐ帰るけど、そのまま寝てていいから」
「帰ったら起きるー…」
「はいよ」


足音がまた遠のいていってチャリだのガチャだの物音がした後、一気に部屋が静かになる。
耳の奥が痛くなるくらいの静寂に物寂しさを感じて、私はわざと大袈裟に深呼吸をした。


---


「…なんかさあ…」
「ん?」
「さっきね……いいや」
「言い掛けといてやめるなよ気になる」
「気にしろ気にしろー。お相子だ。アハハ」
「何なんだよ!」


帰って来た霊幻がのそりと動きの鈍い私を見て「眠気覚まして来いよ」と脱衣所に押し込めたのは数十分前。
いつの間にかお風呂場が掃除されてたことに気付いたのは浴槽に浸かってすぐ。
出ればバスタオルが置いてあって、体を拭いてからそのタオルを巻いて寝室に着替えを取りに行った。
リビングに戻れば髪が濡れたままの私を見かねて霊幻がドライヤーを掛けてくれて、何だかすごく…世話を焼かれている。
長らく実家にも帰っていないし、こんなことを誰かにして貰うなんて久しく無い。
さっき静かな部屋に残された感覚を思い出して、「これって霊幻帰ったらすごい寂しくなるんじゃないの」と少し明日が来るのを恐れる自分がいた。

結局そこまでお腹も空かないまま、ひとつの干物を二人でつついてダラダラとドラマの続きを見ている。
私も烏龍茶を飲んで喉を湿しつつ体内のアルコールを薄める作業に勤しむけれど、この口の軽さでは残念ながらまだ酔いは醒めてないみたいだ。


「いやね?思ったんです。何か霊幻にお世話してもらってばっかりじゃん?」
「髪乾かしたの?」
「他も。タオル私が入ってから置いてくれたんでしょ?お風呂掃除もしてくれてたし。お米研いでくれたし。お米持ってくれたし。お店選んでもらったし」
「…お前酔い引いてないんじゃないか?」


ポツリとひとつ上げればそれが引き金になって次から次へと零れていく。
「大体さ」と私は烏龍茶の入ったコップの底で軽くテーブルを打った。


「何で人の休み予約してくんのよ。しかも特に理由無く。こっちがどんだけ今日まで悩んだと思ってるの!」
「…おなまえさん?」
「一ヶ月だよぉー?霊幻が前以て約束取り付けるなんてよっぽどだろうと思って何か重大な話があるのかとか考えてさぁ。今日だって朝それで喉通らなくてぇ。落ち着かなくてろくに寝れなくてしょうがないから部屋の掃除とかしてさー」
「…あー…」


自分の膝の間に頭が入れるくらい体を曲げて俯いた。
話す事で思い出した焦燥感と緊張感、それに対する不快感で涙が滲んでくる。


「また転職考えてるとかそういう相談かなとか色々悩んだし」
「何かスマン」
「…自分が…霊幻の為に予定組み替えたことなかったことまで気が付いちゃって…だからあんな言われ方で約束取り付けてきたんだなって思ったし…」
「……」
「今までごめんね霊幻んんー…」


頭を下げたまま言うと、鼻水が流れそうになって鼻を啜った。


「ずっと胡座かいてたぁ〜本当ごめんねぇえ」
「何泣いてんだよ!ほら、ティッシュ」
「あびがと…」
「まあ…いいよ、それは。こっちも合点がいったわ。店にも入らないで先に待ってるとは思ってなかったし……」
「…何」


ニヤニヤとしながら鼻をかんでいる私を見つめてくる霊幻に目を細めれば、「眠れなかったからバッチリ髪も化粧もセットしてたのかなと思って。飯も食わないで」と心底バカにしたような声で言われる。


「休みの日は面倒だからしないんだろ」
「人と会う時くらいするわ」
「髪も巻くの」
「……」


それは確かに眠れない手持ち無沙汰からしたことで。
「別に霊幻に会うから張り切ったとかじゃないからね」と言うと、「それツンデレってやつ?」と笑われた。
本当にそんなんじゃないのに、言い返せば言い返すほど苦しい言い訳のように自分でも思えて、いつの間にか何でこんなにムキになってるのかわからなくなってくる。
終いには黙った私に、肘をついて伸ばした指を組んだ霊幻がそこに顎を乗せて「なあ」と話しかけてきた。


「おなまえってどんくらいフリーだったっけ?」
「え?……四年…くらい」
「別れた理由、覚えてるか?」
「………言いたく、ない」


自分でも明確にこれが理由とは聞いていないけれど、薄々気が付いている。
四年前。
霊幻が会社を辞めた時。
辞める少し前から毎日のように相談を受けて、人生の懸かった決断故に私も真剣に話を聞いていた。
「何で私に」なんて思うことも無く、友達なんだから当たり前だと思ってのことだった。
けれどそれを当然とするのは私の中の出来事であって、他人から見たらそうではない。
次第に会う機会が減って、会う時間が減って、ひとつの電話でプツリと恋人関係の糸は切れた。
以来何となく人にペースを合わせることに疲れ、未だ独り身。

でもそれは私が選んだ結果だ。
霊幻のせいなんかじゃない。


「別に、どうでもいいじゃん。人に合わせるのって疲れるもの。自分の時間を自分の為に使える以上の幸せなんてないね」
「わっかるわぁ〜。自分の事だけ考えてりゃいいの、楽だし。…でもな、どうでもはよくねえ」
「…?」


ジリと霊幻が距離を詰めてきた。
テーブルに落としていた視線を霊幻に向けると、視界の端でテーブルにドラマのシーンが反射する。


「おなまえが俺を放って置かないのを知ってて呼び付けてたし」
「う…ん?」
「気を遣ったり遣われたりするのが嫌になってたのもわかってたし」
「……」
「…四年かけた」


徐々に近付く明るい髪と濃い瞳。
その中に私が映る。
鼻先が触れる程縮まった空間に熱が集中する。


「あの時みたいに、俺のこと勇気付けてくんね?今」
「な…何を…」


唇同士が擦れ合いそうな間合い。
フッと笑う息が唇を撫でていく。
それだけで首の後ろがビリついて、咄嗟に後ろに下がろうとすると霊幻の腕が項を掴んで引き留めた。


「新隆とならいいよ、とか?」


目の前の口は笑ってるのに、眼差しは私の動きひとつすら逃しまいとしているみたいに真剣で。
項に触れる熱に引き寄せられるように体温が引き上がっていく。

勇気って。
そんなの、言葉に詰まっている私の方が欲しいわ。

何と言うのが最適解なのか。
そもそもコレは、どういう状況……


「愚問だったな」
「ぁ…、っん」


ギリギリ触れなかった唇との距離がなくなる。
何度か啄んでから舌が捩じ込まれて、馴染みのない感覚に身を捩った。


「は…、ちょ…っと」


霊幻の胸を押して隙間を作ると意外にもすんなりと解放される。
溢れた唾液を指で拭われると、それだけで緊張が走った。


「嫌だったか?」
「……わ、…かんないよ…そんな…のっ!?」


グイッとソファーに押し倒される。
見上げればテレビの方を向いたまま私に跨る霊幻がいた。


「お。アイツ味方だった」


その声につられて画面を見ると、頬に口付けが降ってくる。
ピクリと肩が跳ねるとクスリと微笑まれた。
そのまま耳朶を甘噛みされて背中がゾワゾワする。


「俺勝ったから、明日飯作って」
「そ…こで喋んないでっ」
「おなまえさぁ…抵抗ってのはもっとちゃんとしねーと」


霊幻の顔を離そうと顎と肩に手を掛けると、小指と中指の間に霊幻の舌が割り込んできた。
思わず力が抜けた所に手首を掴まれ、水音と共に私の指が霊幻の口の中へ埋まったり出てきたりを繰り返す。


「何、ゃ…って…」
「そろそろ絆されてくれたっていいだろ?」


指先に神経が集中してビリビリする中、霊幻の声が皮膚を伝う。
「嫌ならこんなことさせないもんな」と念押しするように言われて、不快感を微塵も抱いていない自分に気がついた。
それ所か、鼓動は早く脈打って期待さえしているようだ。

そんな。
だって今まで、そんな風に見たこと。


「…それとも、俺帰った方がいい?」
「嫌! …だ……」


ツイ、と霊幻が離れようとして、つい服を掴んで引き留めた。
静まり返る部屋に残されることに不安を感じてしまうなんて。
今日帰ってくるまで過ごしていたのと、何一つ変わらない私の部屋なのに。

ただ、霊幻がいる それだけなのに。
彼がこの部屋から去ることに、どうしてこんなに掻き乱されるの。

掴まれた服を見て、霊幻が再び体勢を戻しソファーが軋んだ。


「じゃあ、泊まってくから」


その言葉の意味がわからない程頭は悪くない。
わからない振りが出来る程図太い神経もしていない。

知らない内に、意識させられていた。
思い通りに事が運ばされているのに感じた悔しさは、首に回して指に絡んだ髪を強く掴み上がった彼の声で少しだけ晴れた。





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04.07/エロい師匠に夢主がムラムラする



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