▼ネコ型ロボットをバカにするな

※人死に表現有り



ガサガサと草木を踏み分けておなまえは鬱蒼とした森を進む。


「あーもう、木ィ、草、木ィ、草ァ…どこまで行ってもジャングルじゃねーか鬱陶しい」


森に入ってから数分でおなまえは悪態を吐いて生い茂った草を踏みしめた。
スゥと息を吸い込むと奥に向かって大声を上げる。


「峯岸さァーーーーん!迎えに来ましたよォーーー!」


がなるように声をあげれば、少しして数メートル先の茂みが揺れてその向こうから口角を下げたおなまえの探し人・峯岸が現れた。
「そんなに叫ばなくても聞こえてるよ」と耳障りそうに顔を顰めている。


「良かったそんなに離れてなくて。迎えにきたっス」
「頼んでないけど」
「つれねー!アンタが作ったこのジャングル進むのどんだけ面倒だと思ってるんスか」


おなまえはそう言いながらゴソゴソと荷物を漁って、マスキングテープを適当な太さの木に貼り付けて窓のように囲んでいる。
「私虫とか無理なんスから、あんまり森とか作んないで下さいよ」と文句を垂れながらもテープを貼り終え、ポーズをとった。


「ジャーン!通り抜け○ープぅ〜」


おなまえがそのテープに向かって念動力を込めると、それに反応して囲まれた内側が切り取られたように別の空間と繋がる。
大袈裟にポーズをとって見せるおなまえを白けた眼差しで峯岸は見つめた。


「…ねえ、毎回やらないと出来ないの?ソレ」
「気分ス」
「……」
「ハイハイ!次の仕事!バァーッとやってピューッとけーりましょ」


またおなまえがバァーやらピューやらに合わせて大きくジェスチャーする。
おなまえの空間転移は精度も高く本人が位置を把握していれば国内外問わず移動できて便利だが、肝心の術者が喧しいというか、黙ってても煩いというか、目が疲れるなと峯岸は目頭を押さえて揉んだ。


「何で僕今回おなまえとパートナーなのかな…疲れるんだけど」
「何で!?楽させてやってるじゃねースかホラ!!」


テープの向こう側を指さして「移動時間めっちゃ短縮スよ!普通だったらどんくらい掛かると思ってんだ!」と、"寧ろ疲れる方がおかしい"とでも言いたげだ。


「こっちはアンタのもやしみてーな足を労わってこーして準備してきてんのに…もっと有り難がってくれてもいいんじゃねーの?」
「もやしっていったらおなまえの方がだろ。有難いも何もそれがおなまえの仕事なんだから、ちゃんと働いてよね」
「だァーからこーして働いてっだろがァ!」


キシャーと鳴き声が上がりそうな程牙を剥くようにしておなまえが腕時計を示す。


「時!間!峯岸さんが!時間を!気にしないから!!だから次の目的地の座標変えて!少しでも早く移動できるように!こォんなジャングルの中まで!出て来るの待つより早く行けると思って!迎えに来てんの!!」


「わかったらサッサと入れよ」と峯岸を強引に窓に押し込んだ。
ただ腕で押し込むだけでは気が収まらなかったのか、峯岸に背を向けると各所の地図を詰め込んでいる重たいリュックの力まで借りて勢いを付けて押してくる。


「痛いよ」
「なら当たる前に入ればイイ」
「おなまえ上下関係って言葉知ってる?」
「あ?」
「聞いた僕が馬鹿だったね」


「まあ、邪魔にならなきゃそれでいいよ」と峯岸は窓を潜り抜けた。
おなまえの能力は決して戦闘向きではない。
峯岸の後に続いておなまえも窓に入って力を閉じると、「勿論木偶の坊してまっす」と小声で叫んで隅に寄った。
要領は同じだ。
辺り一面植物だらけにして施設を破壊しまくればいい。
峯岸が地中に眠る植物たちに力を送り命令をすると、二人の前に巡回の看守たちがちょうど角を曲がり二人に気が付いた。


「! 何だお前たちは!侵入者か!?」
「…銃なんか持って物騒だな…」
「両手を頭の上にして動くな!抵抗すれば撃つぞ!」


一人が侵入者を無線で報告し、もう一人が二人に向かって銃を突きつけている。
峯岸たちがいるのは破壊対象の施設の裏口に面していて、無線を聞き付けた仲間が背後から来たら面倒だな、と峯岸は思った。
それだけでなくすぐ側の裏口からも出てこられたら袋の鼠だ。


--…でも、もう植物に力は送った。あとは気にすること…

「両手を上げろと言っている!これは警告だぞ!」
「……」


峯岸もおなまえも両手を下げたまま立っている。
言われた通りにしない二人を見て「抵抗と見ていいんだな」と看守の一人が銃を構えたままジリ、と一歩足を踏み出した。
すると、看守が踏んだタイルが瞬時に別の空間に繋がって穴に落ちていくように姿が消える。
直後上方の窓ガラスが割れて今穴に落ちたばかりの看守が落ちてきた。
それを合図に地面を割って巨大な食虫植物がもう一人の看守を丸呑みし数多の蔦が施設を這って行く。


「もうこれで勝ち確っスね」


おなまえはそう言うと大きく葉をつけた植物に腰掛けて、自分の仕事はあとはもう帰るだけだと言いたそうにリュックを背凭れにして休んでいた。
そんなおなまえを横目に峯岸は「元からでしょ」と吐き捨てる。


「…さっきの、おなまえ?」
「何がっスか?」
「アレ」


そう言って地面にべしゃりと倒れて血溜まりを作っている看守を顎で示すと「ああ」とおなまえが頷いた。


「区切り目があるやつなら何でもいけっから何処でもド○も出来るっスよ!」
「へえ」
「…もしかして余計なコトした感じっス?」


不安げに見上げてくるおなまえを一瞥してから、峯岸は轟音を立てて崩れていく目の前の建物から立ち上る砂煙を避けるように足元の植物を高く伸ばす。
一緒におなまえが座っている植物もその下の蔓に押し上げられ、徐々に形をなくしていく施設を見下ろした。


「少し意外だったかな」
「へ?」
「おなまえがそんな機転の利く頭してるとは知らなかった」
「アンタ私のことどんだけ馬鹿だと思ってんだよ」
「○ラえもんの真似しなきゃもう少しはマトモに思ってたかもね」
「徒歩で帰れ」


「○ラえもんの有難みがわからねー奴なんか送ってやらねー」とおなまえはリュックを腕から抜いてゴロ寝の体勢をとる。


「謝ってくんなきゃもう送らねーかんな」
「まあ、助かったよ。根が深すぎて表に出てくる時間、稼げたからね」
「………」
「……何」
「…や。"いつもならもうドガーンとやってんのになー"って思ったんスよね」


ポカーンと口を開けて目を見開いたまま峯岸を見る間の抜けた表情に峯岸はつい僅かに笑みを見せた。
それを見ておなまえは「役に立ったんなら良いス」と上体を起こしてリュックを前に起き、机換わりに腕と顎を乗せる。


「しょーがないから、今日帰る分まではちゃんと仕事するっスよ」
「あっそう。僕も"おなまえがサボってた"って報告しないで済むよ」
「…ホント次で最後だかんな!!」


そう文句を言いつつも送ることを撤回しないおなまえに、「何だかんだ気が良い奴だよね」と峯岸が言う。


「…今日どうしたんスか?もしかして具合悪いとか…?」


「こういう時ってアレっスよね。槍が降ってくるって」とおなまえは空を見上げた。
生憎と実際にそんな物が降ることはなく、空は平穏に雲が流れているだけだ。


「そういうとこだよ」
「え?何が??…ねえホントどっか悪ぃんじゃねーの?どうしよう私頭の病院とか知らねーわ」


そう言いながら携帯片手に病院を探しながらもう片方の手でリュックから地図を手探るおなまえに「…頭の病院はおなまえ一人で十分だよ」と峯岸は首を振った。



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04.04/口の悪い年下お調子者夢主と喧嘩いっぱい系



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