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放課後になってすぐの廊下は、人が大勢いる。
福井くんを生徒会室まで案内するという任務を背負った俺は、その大勢の中から彼を見つけなくてはと焦ったが、その必要はなかった。教室から出てきた福井くんは、派手でも何かおかしいわけでもないのに、彼だけが特別な空気を纏っているかのように容易く俺の視線を引き寄せたのだ。
こういうのを、人目を惹くと表現するのだろうか。身をもって体験してしまった。

遠目からでも格好いいなあと思う。俺より、ずっと大人っぽい。多分、知らない人が俺たち二人を見たら、きっと年上なのは福井くんの方だと考えるだろう。
しゃんと伸びた背筋と、落ち着いた目がそうさせるのだと思う。

急いで彼の側に行こうとしたとき、まるでそれに気が付いたかのように福井くんがこちらを見た。相変わらず面倒くさそうな表情をしたその顔が、ほんの微かに、和らげられたような気がした。俺はそのことに迷子が親を見つけたときの安心にも似た気持ちを抱いて、一度深呼吸をしたあと、彼だけに意識を向けて歩み寄った。

「―、迎えに来た」
「はい、ありがとうございます。……また緊張してます?」

指摘に、はっとして思わず身構える。その通り、やはり今も俺は緊張していた。だが、それは前回ほど顕著なものではなく、許容範囲内だと思っていた。なぜばれたのだろう。
ぴしっと固まった俺を、福井くんは少しだけ不思議そうに見下ろしている。

「なん、で、分かったの」
「え。なんとなくですかね。―それより、ここ目立つんで、もう離れましょ」
「あ」

手首を掴んで軽く引っ張られ、その力に任せて歩き出す。手が大きい。俺の手首に指が回りきってしまっている。羨ましい。
まじまじとそれを眺めてから、ふと顔を上げる。ちょうどこちらを見ていたらしい福井くんは、まるで、そう、小さな子どもを可愛いなぁと慈しむような目をしていた。俺、年上なのに。

困惑していると、彼はするりと手首を離して、代わりに俺の手を緩やかな力で握った。
そういえば、前も手を握られたなと思い出す。福井くんは手を繋ぐのが好きなのかもしれない。大人びた後輩の可愛らしいところを発見したような気持ちだ。

少しの躊躇の後、そっと握り返すと、既に前を向いていた福井くんが笑った気がした。






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